劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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上級生に混ざれば仕方ない


試合前の緊張

 上級生二人に混じって参加するということで、琢磨は珍しく緊張していた。他の上級生ならここまで緊張しなかったかもしれないが、その二人というのが達也と幹比古だという事も、琢磨を緊張させている要因と言える。

 

「七宝、そんなにそわそわしてどうした」

 

「な、何でもない……」

 

「そんなに緊張しなくても、司波先輩と吉田委員長がいるんだから予選程度で負けるわけ無いだろ? そして、予選突破した時点で本戦の優勝がほぼ決定するんだから、もう少し気楽に構えろよ」

 

「そうは言ってもな……お前らだって、司波先輩と吉田委員長に囲まれると考えたらこうなるだろ」

 

「どうだろうな。俺はお前みたいに司波先輩や司波会長に喧嘩を売った事ないし」

 

 

 同級生たちは、入学当初の琢磨の態度が、深雪の逆鱗に触れていた事も、その後で達也の事を『雑草』と呼びほのかや雫たちまで敵に回した事は知らないが、何かやらかして要注意人物だと認定されていた事は知っている。

 

「俺だってあそこまで本気で殺気をぶつけられるとは思ってなかったんだ」

 

「まぁ、そんな七宝も十師族の一員になってからは大人しいもんだし、今更司波先輩と事を構える気はないんだろ?」

 

「まさか四葉の次期当主だったとは思ってなかったんだ……二十八家の中でも四葉は別格だからな……喧嘩を売ったら何をされるか分かったもんじゃない……」

 

「あー……九島が十師族から落ちたのも、お前の家が十師族に選ばれたのも四葉家が関係してるって噂になったくらいだもんな」

 

 

 さすがに詳細は知らないが、九島が四葉に喧嘩を売ったから十師族から落ちたともっぱらの噂になっている。本当は七草が四葉に喧嘩を売ったのだが、九島家前当主の烈が自らの罪を告白し、七草を残す代わりに九島を十師族から外したのだが、琢磨もそこまで詳しく知らなかったので、同級生たちの勘違いを訂正する事は出来なかった。

 

「とにかくお前が派手にやらかさない限り、一高の優勝は決まってるんだ。もっと気楽に行けよ」

 

「そうそう。まぁ、お前だけは彼女がいないから、誰かに向けてカッコつけたいって気持ちではいけないだろうがな」

 

「べ、別にお前たちには関係ないだろ」

 

 

 上級生二人には彼女がいるが、琢磨にはいない事を指摘してからかってくる同級生に、琢磨は本気で焦った。別に不純な動機であの二人が試合に挑むわけがないと分かっているのだが、もしそんな理由でやる気を出しているのだとしたら、自分はどうしたらいいのかという考えに陥ったからである。

 

「………」

 

「何難しい顔してるんだよ。ほんの冗談だろ?」

 

「別にお前たちの冗談に頭を悩ませてるわけじゃない……ただ、司波先輩は兎も角吉田先輩はあり得そうだなと思っただけだ」

 

「まぁ、初々しい感じだしな、あの二人は」

 

 

 下級生から見ても、幹比古と美月のカップルは初々しい感じである、エリカや深雪のように堂々とからかったりは出来ないが、何処かそんな感じがすると思われていた。

 

「七宝、そろそろ控室に行くぞ」

 

「あっ、はい!」

 

 

 少し離れたとこにいた達也から声を掛けられ、琢磨は瞬時に立ち上がり返事をする。そんな琢磨の態度に達也が苦笑したが、琢磨は何故苦笑されたのか分からなかった。

 

「そこまで畏まる必要は無い。立場的には俺もお前も変わらない。そして十師族の中では上も下もない決まりだからな」

 

「それはそうですが……」

 

 

 師族内では確かに上下関係はない事になっているが、学校内ではその決まりは当てはまらない。まして琢磨は達也の実力の一端を間近で見ているだけに、下手に逆らったらどうなるか分からないという恐怖心を達也に――もっと言えば彼の婚約者たちに懐いている。

 

「達也、あんまり後輩を怖がらせるのは感心しないよ?」

 

「俺が悪いのか?」

 

「どうだろうね。七宝君、そこまで身構えなくても大丈夫だよ」

 

 

 琢磨が委縮しているのを見て、達也の隣に現れた幹比古が冗談めかして琢磨の緊張を解こうとしたが、あまり効果は見られない。琢磨にとって幹比古もまた、緊張する相手なのだから仕方ないのかもしれない。

 

「とにかく落ち着けって。先輩たちも気にしなくて良いって言ってくれてるんだから」

 

「そういってもな……まぁ、試合が始まれば別の事に気を取られて緊張してる暇もなくなるかもしれないけど」

 

「そういえば達也、初戦はどこと当たるんだっけ?」

 

「七高だな。その後が六高で、最後が二高だ」

 

「二高って事は、光宣くんがいるね」

 

「予選から三高や四高と当たらなかっただけマシだと考えるべきだろうな」

 

 

 達也の言う通り、将輝や真紅郎がいる三高と、文弥がいる四高とはグループが分かれているのが幸いだと幹比古も思っている。だがそれを差し引いても光宣の実力は、幹比古レベルでは太刀打ちできないのではないかと思うものなのだ。

 

「悪いけど、光宣くんの相手は達也に任せるからね。僕や七宝君ではまともに相手が出来ないから」

 

「光宣だってCADのレギュレーションで能力を発揮出来ないだろうから、そこまで警戒する事もないんじゃないか? まぁ、元々の素質が高いから、多少スペックの低いCADでも強敵になり得るかもしれないがな」

 

「だから、達也に任せるからね」

 

 

 本気で光宣の相手をしたくないのだなと、琢磨は幹比古の表情からそう感じ取り、もし自分が光宣と遭遇したら、大人しく負けを認めようと心に決めたのだった。




相手も強いからな……

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