八高との試合が自信に繋がったのかは分からないが、その後の侍朗は開けたフィールドだろうが関係なく活躍し、一高は無事に予選を突破した。
「とりあえずお疲れ。後はミラージ・バットの決勝次第だな」
「もし一高がミラージ・バットをとれば、その時点で一高の新人戦優勝が決まるからな」
「決勝に進出してる時点で、俺たちが準優勝以上の結果を収めれば新人戦の優勝なんだから、向こうもある程度気楽に臨めると思うぜ」
数試合一緒に戦ったからなのか、侍朗と残りの二人の間に試合前まであった遠慮が無くなり、長い間友人関係を続けているような雰囲気が漂っている。侍朗の方だけではなく、一科の二人にも距離感の難しさはあったのだが、試合中のサポートと、試合間の侍朗と詩奈をからかう事で、互いの距離が近づいたのだ。
「観に行くか?」
「いや、今は身体を休める事を優先しよう。結果は後でも分かるし、とにかく二高との試合は疲れた……」
「確かにな……二高はここで負けると予選敗退が決定だったから、死に物狂いだった……」
侍朗たちは、もし二高に負けても他のチームの勝敗次第では決勝進出の可能性が残っていたのだが、二高の方は負ければ完全に敗退が決定する状況だった。だからではないが、今日の試合の中で最も大変な思いをしたのがついさっき。今からミラージ・バットの応援に行く気力は、侍朗にも他の二人にも残されていなかった。
「そもそも女子たちの方は、俺たちに応援して欲しいとは思ってないだろうしな」
「あー、そんな感じは確かにあるよな。別に仲が悪いわけじゃないんだが、俺たちより先輩たちに応援してもらった方が力が出せる的な感じ」
「実際クラウド・ボールだって、七草先輩が応援してたから勝ったって聞いたぜ」
「矢車みたいに、特定の誰かに応援されると力が発揮出来る、みたいな?」
「俺をからかうのは止めてくれよ!」
実に息の合ったコンビネーションでからかってくるチームメイトに、侍朗は本気で嫌そうな表情で抗議するが、このやり取りも何回目か分からないくらいやっているので、今更止めてくれるとは侍朗の方も思っていなかった。
「とにかく明日に向けて、今はゆっくり休もうぜ。矢車、本部への報告は頼む」
「何で俺が」
「司波先輩って何となく話しかけ辛いんだよな……」
「あの四葉家の跡取りって事を無視したとしても、何となく怖い雰囲気を纏ってるっていうか……下手に刺激すると四方八方から攻撃されそうな感じがするっていうか……」
「何だそれ……確かに話がけ辛い雰囲気はあるが、別にあの人は好戦的ってわけじゃないぞ?」
「司波先輩が好戦的だとは俺たちだって思ってないさ……だが、あの人の周りはいろいろと特殊だろ? 万が一って事もあるし」
「そういう事なら仕方ないが、俺だって疲れてるんだがな……」
この中でなら一番達也と接点がある侍朗は、不承不承といった感じで本部への報告役を引き受けた。そもそも報告に行く必要などないのだが、何となく報告に行かなければいけないような空気になっているのだ。
「それじゃあ頼むわ」
「三矢さんもいるだろうし、くれぐれも暴走しないようにな」
「するか! というか、司波先輩に報告しに行くんだろうが!」
最後まで自分をからかって遊んだ二人を怒鳴りつけて、侍朗は天幕へと向かう。途中ミラージ・バットの決勝進出リストが目に留まり、一高からは一人だけという事を改めて認識し、明日に向ける気持ちを入れ直した。
「(ミラージ・バットの結果なんて関係ない。俺たちが勝って優勝してやる)」
試合が始まる前まではこんなふうに考えられなかった侍朗だが、八高との試合が彼の中で大きな意味を持ったのだろう。自分たちの活躍で新人戦優勝を掴み取ろうと思うまでに自信を持てるようになっていた。
「失礼します」
「侍朗君? どうしたの?」
「詩奈だけか……? 司波先輩にモノリス・コードの結果を報告しに来たんだが」
「司波先輩なら、ミラージ・バットの控室に行ったよ。隅守先輩から連絡があって」
「そうか……じゃあ詩奈でも良いか。モノリス・コードは無事に決勝進出が決まりました」
「そんな事、速報メールを見れば知ってるって。でもまぁ、おめでとう」
「あぁ、ありがとう」
詩奈に祝われて、侍朗は悪い気持ちはしなかった。むしろ嬉しさが爆発しそうになるのを必死に抑えるのに苦労したくらいだ。
「それじゃあ、俺はこれで。部屋に戻って休むよ」
「ミラージ・バットの決勝は観ないの?」
「さっき詩奈が言っただろ? 結果は速報メールで知れるし、俺たちは明日も簡単に負けるつもりは無いからな」
「そっか……侍朗君、自信を持てるようになったのは良い事だけど、あんまり慢心しちゃ駄目だよ? あくまでも挑戦者の気持ちでいなきゃ」
「……そうだな。大切な事を忘れてた……俺は参加者の中で一番実力が低いんだから、その事を自覚して自分が出来る事をしっかりとやらなきゃな」
「うん、頑張ってね」
詩奈から大切な事を教えられ、侍朗はもう一度自身に気合いを入れ直す。今度は絶対に勝つ、という事ではなく、自分が出来る事をしようという思いを込めて。
しっかりと諫める詩奈