劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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久々登場のミズ・ファントム……


噂の出所

 一時間目の課題を早々に終わらせた達也は、真相を確かめる為にカウンセリング室にやって来た。

 

「まだ授業中よ」

 

 

 カウンセラーとしてはこの発言は如何かと思うが、遥が達也に苦手意識を持っているので仕方ないと言えばそれまでなのだが。

 

「課題は終わらせて来ました」

 

「これだから優等生は……」

 

「劣等生ですよ。現に実技試験は下から数えた方が早いでしょうし」

 

「あのね司波君、あまり劣等生だって事を言わない方が良いわよ。貴方の事を認めてる人も居れば、同じ二科生なのにって思ってる人も居るんだから」

 

 

 そもそも達也は事実を言っただけなので、それ以上の意味は無い。だが遥は達也が屈折した思いを抱えていると勘違いしてるようだったのだ。

 

「それで? 今回は何の用?」

 

「カウンセリング室に来たんですから、悩みがあっての事ですよ」

 

「ふ~ん、もしかして妹さんに出馬してもらえないか頼まれたとか?」

 

「それは頭を悩ませそうですね。でも今回は別の事です」

 

 

 相談に来たと分かったら、遥の態度がガラリと変わった。九校戦の時のように達也に利用されないと分かったからなのかも知れないが。

 

「実はですね、俺が生徒会長選に出馬するという噂があるらしいのですが、先生は昨日柴田さんにその話をしたそうですね? 俺にも詳しく聞かせてもらえませんか?」

 

 

 達也が切り込むと、一瞬だか遥は「しまった」という表情を見せた。もちろんその一瞬を達也が見逃す訳も無く、一気に疑いの目を向けられてしまったのだが。

 

「まさかとは思いますが、小野先生が噂を広めてるのですか?」

 

「それはまさかよ。大体司波君は表に立つよりも裏で策をめぐらせるタイプでしょ?」

 

「否定はしません」

 

 

 半分は嫌味で言った事も、達也にあっさり肯定されてしまい、遥は白旗を上げた。

 

「えっとね、なんだか伝言ゲームみたいに広まってるのよね、その噂」

 

「如何いう事です?」

 

「服部君が出ないらしい。中条さんも出ないらしい。生徒会は後任探しに必死になっているらしいから、だったら司波さんが良いんじゃない? になって、司波さんが出馬するらしいになり、司波君が出馬するらしいに変わってそのままズルズルと……」

 

 

 遥の説明に、達也は割りと本気で頭を抱えた。伝言ゲームもここまで内容が変わるとは思って無かったのだろう。

 

「それで、なんだかその噂は生徒の間よりも先生たちの間で納得されちゃってね」

 

「何故です? 先生方は俺の成績は知ってると思うのですが」

 

「ほら、四月の顛末。十文字君が握りつぶしちゃったけども、職員室ではその事実を知ってる先生たちが居るから」

 

「ブランシュですか……」

 

 

 一応報告だけはしたのだが、まさか職員室であの事を話す人間が居るとは思って無かった達也は、噂を信じている教師全員を如何にかしたい衝動に駆られた。もちろん実行する事は無いのだが。

 

「だから司波君が生徒会長選に立候補しても先生たちは驚かないのよ」

 

「しませんし、そもそもまだ一科縛りは残ってるのですが?」

 

 

 達也の反論に、遥は結構本気で驚いた。遥もだが、職員室の先生方も一科縛りの事を忘れていたのだろう。

 

「そういう訳だから、これ以上詳しい事は私も分からないし、調べようも無いからね」

 

「分かってますよ。これ以上調べろなんて言いませんので」

 

 

 カウンセリング室を辞した達也は、教室に戻ろうと廊下を歩き始めたのだが、その歩みは数歩で止まる事になった。

 

「あれ~司波君じゃない。こんな時間に如何したの~?」

 

「いえ、ちょっと小野先生に相談事がありまして」

 

 

 保険医・安宿怜美に見つかり、達也は少し身構える。特に苦手意識は無いのだが、達也にとって怜美は付き合い難い相手なのだ。

 

「悩み事? ちょっと顔色が悪いわね。保健室に寄っていって」

 

「いえ、大丈夫ですので……」

 

「だ~め! 先生のいう事は聞くものよ」

 

 

 そのまま腕をとられ、達也は保健室に連行される……振りほどく訳にもいかないので、達也は諦めて保健室へと向かう事にした。

 

「それで、悩み事って何だったの?」

 

「とある噂についてです」

 

「噂? 司波君が生徒会長選に出るってあれ?」

 

「やはり安宿先生もご存知でしたか」

 

 

 いくら保険医といえども、それくらいのパイプは持っているのかと、達也は妙に関心した表情を見せた。

 

「それで~、ホントに出るの?」

 

「出ませんよ。そもそも俺は二科生ですので、生徒会役員にはなれません」

 

「でも~七草さんは一科縛りのルールを撤廃させるって言ってるわよね~? それなら司波君も生徒会役員になれるんじゃないの~?」

 

「いくら一科縛りのルールが撤廃されたとしても、俺に票が集まるとは思いません。これはクラスメイトにも言ったんですがね」

 

「司波君なら沢山票が集まると思うんだけどな~。だって校内で君の事を知らない人はいないし、よくカウンセリング室に君の事で相談に来る女の子が居るわよ」

 

 

 知りたくも無い事実を聞かされ、達也は再び頭痛に襲われる。保健室に来て病状を悪化させるなんて、保健室の意味がまるで無い。

 

「そろそろ教室に戻りますので、俺はこれで」

 

「まだ大丈夫でしょ? お茶くらい飲んでいって」

 

 

 怜美に勧められたお茶を一気に飲み干し、達也は保健室から出て行く。これ以上保健室に留まれば本格的に頭痛に悩まされそうだと判断したからだ。

 

「やれやれ……やっぱり悪目立ちしてるんだな……」

 

 

 まさか自分の事でカウンセリング室に相談に来ている生徒が居るとは思って無かった達也は、廊下にでてすぐにため息を吐いた。内容は如何あれ、二科生の自分が原因でカウンセリング室が繁盛してるのではますます一科生からの敵意が強くなる、そうなると深雪の機嫌が悪くなる悪循環に悩まされそうで、達也はもう一度ため息を吐いた。

 

「達也君、そんなにため息ばっかり吐いてると、幸せ逃げちゃうわよ?」

 

「会長……何故此処に?」

 

「ちょっと安宿先生に用事があってね。達也君こそ何で保健室に?」

 

「頭痛がしましてね。ちょっと休んでました」

 

 

 それっぽい嘘で誤魔化し、達也はさっさと教室に逃げ帰った。これ以上真由美と一緒に居たら、誰かの目に留まりまた頭痛の原因が増えるかもしれないと思ったからだ。

 

「あっ、おかえりー」

 

「何処行ってたんだよ?」

 

「達也が途中で居なくなったから、僕が質問攻めにあったんだよ……」

 

「それは悪かったな」

 

 

 腹の辺りを押さえながら恨みがましい目を向けられた達也は、割かし本気で幹比古に謝罪したのだった。

 

「それで達也さん、どちらに行ってたんですか?」

 

「ちょっと小野先生に噂の真相を聞きに。でも大した情報は無かったな」

 

「な~んだ。つまんないのー」

 

 

 期待した表情を浮かべていたエリカだったが、達也が収穫なしと分かるとつまらなそうに自分の席に戻って行った。レオもガッカリした表情を浮かべていたので、達也はやはりこの二人はそっくりだなと思ったのだった。




遥と怜美が二個一的になってる気が……

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