劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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高校一年生には刺激が強すぎたようで


純情な二人

 遥に悩みを相談した事で、侍朗の顔色は幾分か改善されていた。侍朗が遥にどんな相談をしたのか詩奈は知らないし、聞こうとも思わなかった。こればっかりは自分が聞くべきではないと思ったのだが、内心はどんな話をしたのか知りたくて仕方なかった。

 

「? 俺の顔に何かついてるのか?」

 

「べ、別に? 何でそんな事聞くの?」

 

「いや、さっきからチラチラと俺の事を見てるから」

 

「別に侍朗君の事を見てるわけじゃないよ。少しはマシな表情になったなって思ってるだけだから」

 

「心配かけたな。だが、俺はあくまでも二科生だから、あの中に入って活躍出来るか不安になるのは仕方ないだろ」

 

「それは分かってるけど、自分で出るって決めたんだから、うじうじと考え込むのは男らしくないと思うよ」

 

「そうかもしれないが、俺自身に力がない事は詩奈だって分かってるだろ? もし最初から九校戦に出られるだけの実力があるなら、詩奈の護衛を解任されることだって無かったんだし」

 

 

 侍朗は自分の事を「詩奈の護衛」だと言っているが、三矢家と矢車家からしてみれば、侍朗は詩奈の護衛ではない。実力不足の烙印が押された侍朗一人に護衛を任せる程、詩奈は三矢家内での地位は低くない。むしろ当主の元は詩奈の事を大事に思っているのだ。それでいて詩奈の気持ちを知っているから、侍朗を詩奈から遠ざけようとはせずに、一緒に一高への進学を認めたのだ。

 

「詩奈は侍朗が小野先生にどんな相談をしたのが気になってるんだろ」

 

「っ!」

 

「そうなのか?」

 

 

 達也に指摘され、詩奈は心臓を掴まれた錯覚に陥り、侍朗は詩奈の気持ちを知ってか知らずかそんな風に問い掛ける。

 

「まぁ思春期の少年少女だし、恋人の事が気になっちゃうのは仕方ないだろうけど、普通の相談事しかされてないから安心しなさい。間違っても私が彼の事を籠絡するなんて事は無いから」

 

「ろ、籠絡……!?」

 

「小野先生、高校一年生に刺激が強い事を言うのは止めてください」

 

「達也くんは気にしないでしょ?」

 

「俺ではなく、詩奈と侍朗がショートしてますので」

 

 

 達也が視線で遥を非難すると、漸く二人が頭から湯気を出している事に気付いた遥。彼女としてはちょっとからかった程度なのだが、純情な二人には刺激が強かったようだ。

 

「ゴメンなさいね。別に二人を辱めようとしたわけじゃないの」

 

「わ、分かってます……ただちょっと、色々と考えちゃっただけですので」

 

「それで、彼氏が私に何を相談したのか気になってるって事で良いのかしら?」

 

「は、はい……」

 

「一応守秘義務があるから私からは話せないけど、彼から聞く分には問題ないわよ。何処か二人になれる場所で聞いてみたら」

 

「ふ、二人になれる場所……」

 

「別に疚しい意味で言ってないんだけど」

 

 

 遥の言葉に過剰に反応してみせる詩奈に、遥は呆れた視線を向け、達也に助けを求める。だが達也も詩奈の状況を改善する術はないので、彼は遥からのヘルプを無視して作業に戻った。

 

「そ、それじゃあ私たちはこれで失礼します。司波先輩も、お邪魔しました」

 

「お邪魔しました!」

 

 

 詩奈と侍朗が逃げるように天幕を去って行ったのを見送ってから、遥は達也に非難めいた視線を向ける。

 

「何で無視したのかしら?」

 

「小野先生が蒔いた種ですので、ご自分で処理するべきだと思っただけです」

 

「それを言われると困るんだけど、私だってあそこまで過剰に反応するなんて思ってなかったのよ」

 

「小野先生は誰を基準にそう考えたのかあえて聞きませんが、多感な年頃なんですから、変に刺激しない方がいいですよ」

 

「君がそれを言うの? あの子たちと二つしか違わないのに」

 

「俺はそう言った感情とは無縁ですので」

 

「そういえばそうだったわね……大勢の婚約者がいて、更に愛人までいるから忘れてたけど」

 

「何か不満があるのでしたら、愛人契約を解消しても良いのですが」

 

「そんなもの無いわよ。あえて言うとすれば、まだ求めてもらってないって事くらいよ」

 

「それは再三言っているように、俺が高校を卒業してからにしてください」

 

 

 いくら達也が卒業資格を得ているとはいえ、彼はまだ高校に在学している身だ。世間から魔法師は早婚を求められる時代とはいえ、学生の身分で親になるというのは世間体がよろしくない。四葉家がそんな事を気にするとは思っていないが、達也はどの婚約者にも自分が卒業するまで「そういった行為」はしないと言っているのだ。

 

「据え膳食わぬは男の恥っていうけど、達也くんの場合はまた違った状況だしね」

 

「一人に手を出せば、なし崩しで全員を相手にしなければいけなくなりますから」

 

「大勢の嫁を迎えるっていうのも大変ね」

 

「そう思うなら、再三再四秋波を送ってくるのをやめてください。その都度深雪たちの機嫌が悪くなるので」

 

「君だったら簡単に解決出来るでしょ?」

 

「いえ、深雪たちのストレスが爆発して、小野先生がこの世からいなくなる可能性があるので」

 

「……冗談に聞こえないんだけど」

 

 

 一人二人なら逃げ切る自信がある遥ではあるが、達也の婚約者全員から命を狙われたらさすがに逃げられないと思い、今後自重しようと心に決めたのだった。




その可能性は否めない

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