劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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聞きたくなるもの分かる


ちょっとした質問

 深雪、雫と順調に勝ち進み、達也は幹比古の試合を見るべく男子の会場に移動した。そこでは詩奈が試合を見学しており、達也は彼女の隣に立ち、黙って試合を眺める。

 達也が到着した時、丁度将輝の試合が行われており、圧倒的な力の差を見せつけ、あっという間に試合を終わらせた。

 

「(やはりこの競技は一条の為にあるようなものだな……殺傷ランクを気にしなくて良い競技だから、いくらハードの性能が抑えられているとはいえ『爆裂』に対抗するのは普通の高校生では難しい……)」

 

 

 自陣の氷柱を強化したとしても、将輝の『爆裂』は防げないだろうし、かといって無理に攻めたとしても、将輝の氷柱を全て壊しきるまで自陣の氷柱が残っているとは考え難い。

 

「(やはりこちらも一撃で一条の氷柱を破壊するしか勝ち目は無さそうだな)」

 

 

 これが達也ならば、何の問題もなく将輝の氷柱を、将輝に壊されるよりも早く破壊し尽くす事が出来るだろう。だが幹比古は彼が自己申告したように、十二ヵ所同時に魔法を発動させることが出来る確率は五回に一回、二十パーセントしかないのだ。

 

「(幸いなのは、この競技は一日で全ての試合を消化するわけではない、という事か……)」

 

 

 予選を終え、翌日に決勝リーグを行うので、そこで一日の余裕が生まれる。予選で練習するも良し、予選が終わってから練習するも良し、少しでも勝つ確率を上げる事が出来るのだ。

 

「司波先輩は、この競技に参加したいとか思わなかったのですか?」

 

 

 そんな事を考えていると、隣から声をかけられ達也は一端思考を停止させ詩奈に視線を向ける。達也と詩奈との身長差を考えれば、達也が詩奈を見下ろしてしまうのは仕方がない事なのだが、達也に視線を向けられ、詩奈は少し引きつった表情を見せる。

 

「(まるで中条先輩を相手にしているようだな……)」

 

 

 達也はあずさと話す時、出来るだけ距離を取って話していた。一度だけその配慮をせずに話した事があるのだが、その時の表情が今の詩奈とそっくりだと、達也はそんな事を思ったのだった。

 

「そもそも俺は競技に参加したいなどと思った事は無い。今回のモノリス・コードだって、出来る事なら参加したくなかったんだ」

 

「そうなのですか? ですが、老師から話を持ち掛けられ、先輩は快諾したって噂でしたけど」

 

「快諾も何も、俺が聞いた話は『決勝のみ』だったんだ。それだって渋々引き受けたというのに『予選から全て』という話にすり替わっていたんだ。九島閣下を問い詰めてみたが、納得のいく答えはいただけなかった」

 

「老師を問い詰めた、ですか……」

 

 

 詩奈からしてみれば、九島烈を問い詰めるなど絶対にあり得ない事であり、その事を平然と言ってのける達也が少し恐ろしかった。

 

「(やっぱり『あの』四葉家の次期当主って事なのかな……)」

 

 

 同じ十師族として、詩奈は四葉家の噂をよく知っている。それが真実なのかは兎も角、噂だけでも十二分に恐怖を懐くのだから、達也の態度を見て恐ろしく感じてしまっても仕方がないだろう。達也も詩奈を怖がらせて喜ぶような趣味は無いので、必要以上に会話をしようとはしないのだが。

 

「一科生の中に優秀な選手がいるというのに、魔工科生の俺がでしゃばるのは、出場選手の精神衛生上よろしくないだろう。ただでさえ森崎などは俺が参加する事が納得出来てないようだしな」

 

「森崎先輩と司波先輩の間には、何かあるんですか?」

 

 

 達也たちが入学した直後の出来事を知らない詩奈は、純粋に興味を持ったのだろう。達也の方は特に気にしていない様子だが、森崎の方からは、過剰に達也を意識しているように感じられるのだ。

 

「俺が元々風紀委員に所属していた事は知ってるな?」

 

 

 質問の形をとっているが、達也は詩奈が知っているという事前提で話しかけている。詩奈もその事は知っていたので、無言で頷いて達也に続きを促す。

 

「あの時は森崎は教職員推薦、俺は生徒会推薦で風紀委員に所属したばかりで、当然俺は二科生だ。森崎は一科生と二科生との間にある確執に過敏だったからな。ただでさえ悪目立ちしている俺の事が気に入らなくても仕方なかっただろう。そこにさらに不幸が重なって、新勧週間で俺が結果を残したので、それも気に喰わなかったんだろうな」

 

「結果を残したって、過去の資料に目を通しましたけど、あれって先輩が執拗に狙われたからですよね? 森崎先輩のように、二科生だった先輩が当時剣術部のエースだった桐原先輩を倒した事が気に喰わなかったからだって、報告書には書かれていましたが」

 

「あの人は、そんな事を書いたのか……」

 

 

 当時の生徒会長の顔を思い浮かべ、達也は呆れ切った表情でそう呟く。詩奈は当時から苦労していたんだなと、内心達也に同情した。

 

「そこから誤解を解こうともしなかったので、未だにしこりが残っているという感じなんだろうさ。一昨年のモノリス・コードで、森崎が怪我をした所為で俺が参加しなければならなくなったという事もあるかもしれないが」

 

「あれって結局何だったんですか? ただの事故とは思えないのですが」

 

 

 公式発表ではオーバーアタックによる事故だという事になっているが、何か裏があるのではないかと詩奈は疑っている。その答えを持ち合わせてはいたが、達也はそれを詩奈に言う事はしなかった。




詩奈も十師族の一員ですから、疑う力は高いです

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