劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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考え事が多いな……


面会後

 烈との面会を済ませた達也は、部屋に戻りベッドに身体を投げ出した。ルームメイトのいない一人部屋なので特に気にする必要は無いのだが、音は立てずに。

 

「(九島烈の考えは分かったが、俺を広告塔に使えばマスコミがある事無い事騒ぎ出すと考えなかったのだろうか? そして騒ぎ出した時に対処するのは誰か、考えていなかったのだろうか)」

 

 

 マスコミが騒ぎ出すとすれば、当然達也の参加の有無だったり、アクティブ・エアー・マインを使用するのかどうかだろう。当事者である達也が対処するのが一番早い解決方法ではあるが、彼は元々参加するつもりもアクティブ・エアー・マインを使用するつもりも無かった。

 だが烈や運営委員の所為で選手として参加する事になり、雫の希望によりアクティブ・エアー・マインを使用する事となってしまい、マスコミたちはここぞとばかりに騒いでいる。その所為で深雪の機嫌が悪くなったり、新居の空気が悪くなったりと被害を受けているのは達也なのだ。

 それだけでなく、エネルギープラント計画の方でもいろいろと忙しい達也だ。マスコミの対応をしている暇など無く、今では達也が脅して九校戦を開催させたとまで言われている。その所為で真夜の機嫌も宜しくないと、先日葉山から相談を受けた。それがきっかけで、達也は使える伝手を全て使いその報道を一蹴し、今では過激な報道は鳴りを潜めたのだ。

 

「(大会運営本部がしっかりと説明してくれれば、しなくてもいい苦労だっただろう)」

 

 

 報道が過熱を極めたのが夏休みに入ってからで良かったと、達也は心からそう思っている。もし授業があり普通に教室に顔を出していたら、十三束翡翠が倒れ、息子の鋼と一悶着あった時のように白い目を向けられていただろう。もちろん、達也はそのような視線を向けられても動じる事は無いのだが、彼の隣に座る美月の精神衛生上よろしくなかっただろうし、再び美月に怒鳴らせるような事になってしまっては、幹比古に申し訳ないとさえ考えたのだ。

 実際マスコミの憶測の所為で、婚約者たちだけでなく美月も憤慨したという報告を受けているので、達也の心配は杞憂では済まなかっただろう。

 

「(意外だったのは七草家も遺憾の意を示した事だな……あの当主なら、四葉を責めるチャンスだと考えると思ったんだが)」

 

 

 達也が考えたように、弘一は初めは静観し、状況次第では四葉家に責任を押し付けるつもりだった。だが娘三人が憤慨したのを受けて、さすがにそのような事は出来ないと考え方針を転換したのだ。もちろん達也にそのような事を知る術はなく、真由美たちも何故父親が遺憾の意を示したのか納得していない様子である。

 

「(意外と言えば、俺が参加する事に一条や吉祥寺は反対するどころかより対抗心を燃やした事か……)」

 

 

 正式に発表されるまでは、達也を除外する事で九校戦を開催すればいいとさえ言っていたと伝え聞いていたのだが、その二人は達也が参加する事に反対する事はしなかった。したところで意味がないと思ったのかもしれないが、その真意は本人に訊かなければ分からない。そして、達也はその事を知りたいとは思っていない。

 

『マスター、そろそろお休みになられた方がよろしいのでは?』

 

「別に、気にするような時間では無いだろ」

 

『ですが、いくらマスターとはいえ、万全を期した方がよろしいのではないでしょうか? 万に一つもマスターがミスを犯すとは思いませんが、深雪さんたちに寝不足を心配され、本来の力を発揮出来ないという状況になる可能性もあるのですから』

 

「確かに、その可能性はありそうだ」

 

 

 備品として持ってきた――実際は達也の世話が出来ない深雪と水波が最大の譲歩として持ってこさせたピクシーに心配され、達也は詮無い事を考えていたと自覚し、思考を停止させた。

 

『マスターの事を心配するなどおこがましいと思ったのですが、明日もまた強敵と戦うわけですから、少しでも不安の芽を摘んでおくべきだと思いまして』

 

「そうだな。愛梨も栞も、十分すぎるくらいの強敵だ。こちらも万全を期さなければ、深雪や雫だけでなく、愛梨や栞にも失礼だからな」

 

『男子アイス・ピラーズ・ブレイクでは、幹比古さんが一条さんと戦う事になるのではありませんか?』

 

「そちらも強敵だが、愛梨や栞程相手に闘志を燃やしているわけではないだろうからな。一条が闘志を燃やすとすれば、モノリス・コードで俺と――いや、一高と当たった時だろう」

 

『マスターと、と表現しても良いと思いますが、確かにその通りでしょうね。幹比古さんを担当するのはマスターですが、一条さんが敵視しているのはマスター個人ですからね。直接対決以外では、それ程闘争心を燃やす事は無いですね』

 

「油断するわけではないだろう。一条が強敵であることには変わりはないから、幹比古に対しても最大限の調整をするつもりだ」

 

『それでこそマスターです』

 

 

 ピクシーの中にいるパラサイトは、ほのかの感情を基に生まれたので、達也に対する信頼は厚い。ピクシーからの信頼を受け、達也は苦笑して部屋の明かりを消し、本格的に寝る事にした。ピクシーも達也の意思を受け、大人しく壁際に待機し、命令されるまで黙って過ごす事にしたのだった。




ピクシーはルームメイトにならないですから……

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