劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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男子の競技って殆ど描写ないですし……


初日の計算

 次期作戦参謀として達也の手伝いとして参加している詩奈は、達也の作業を目の当たりにして言葉を失っていた。彼女自身もそれなりの調整技術を持ち合わせているのだが、達也のソレは自分とは比べ物にならない程のレベルだったのだ。

 前以て彼がトーラス・シルバーの片割れだという事を聞いていてもこれだけ驚いたのだから、去年までの諸先輩方はどれだけの衝撃を受けたのだろうと、詩奈はそんな事を考えていた。

 そんな事を考えている詩奈の隣では、侍朗が口をポカンと開けて固まっていた。彼もまた、達也の調整技術を目の当たりにして言葉を失ったのだろう。

 

「ケント、今日はこの辺で止めておこう」

 

「はい、分かりました」

 

 

 達也の手伝いが出来る事が何よりも嬉しいのか、一緒に作業していた隅守賢人は達也の声に笑顔で応える。そんな賢人を見て苦笑い気味に笑った達也は、視線を詩奈たちに移した。

 

「さて、明日はスピード・シューティングとバトル・ボードだが、詩奈はどう計算する」

 

「えっと……スピード・シューティングは北山先輩が優勝候補ですし、順当に行けば他の二人も準決勝には進めるでしょうから、不安要素は十七夜さんと何時当たるか、でしょうか?」

 

「そうだな。栞も雫と並んで優勝候補に数えられるくらいだから、雫以外の二人と、準決勝以前に当たった場合は考えなければならないだろう」

 

「ですけど、司波先輩が調整を担当した選手は、事実上の無敗なんですよね? 幾ら三高の十七夜さんが実力者とはいえ、そう簡単に負けないのではありませんか?」

 

 

 詩奈の考えを否定する形になるが、侍朗は自分が考えていた事を達也に告げた。彼は達也が調整したCADがどれだけの性能を発揮するかちゃんと見た事は無かったが、元二科生である彼がこれだけ絶大な信頼を勝ち取っているのを考慮すれば、他のエンジニアとは相当性能が違うのだろうという事は容易に想像できた。

 もちろん数字付きとして栞の実力が高い事は侍朗も知っているし、CADの性能だけで勝てる相手ではないという事も理解してる。だがそれを理解した上でも、達也が打ち立て続けている実績はそれを凌駕するのではないかと思わせるのだ。

 

「俺が調整したとしても、本当の実力者相手では厳しい戦いになるのは間違いない。だがそうなってしまった場合、俺たちに出来るのは選手を信じ、自分が立てた作戦を信じ、調整したCADが最大限の性能を発揮出来る事を祈る事だけだ。結局は選手の力が最終的に物を言うという事もある」

 

「ですが司波先輩! 先輩が調整したCADを使用した選手は、去年も一昨年も他校の生徒には負けていませんし、今年は選手層も相当厚くなっていますので、よほどの事が無い限り負けないと僕も思います」

 

 

 侍朗の考えを否定した達也を、今度は賢人が否定する。彼は達也のシンパという事もあるが、ある意味一番近い場所で達也の調整を見ているのだ。達也が調整したCADが、他の技術者が調整したCADに負けるなどありえないと、彼は確信を持って言い切れるくらい、達也の力を評価している。ある意味、深雪以上に。

 

「……それで、詩奈は雫以外の二人は栞と当たらなければ準決勝まで確実だと考えるのだな?」

 

「はい。バトル・ボードですが、こちらは光井先輩が確実に勝ちあがるでしょうし、ライバルはやはり三高の四十九院さんでしょう。一昨年の新人戦バトル・ボードの決勝カードですし、この二人が優勝争いを展開するという考えは、恐らく他校の作戦参謀も考えているでしょうから、主力温存作戦に出ている可能性もあるかと。そうなると他の競技が少し厳しくなるでしょうけども、司波先輩ならその辺りも考慮した配置になっているのですよね?」

 

「女子の方はそうだが、男子はどう見る?」

 

「……私は男子の先輩との交流があまりありませんので分かりませんが、森崎先輩はそれなりに活躍してくださると思っています。後は七宝先輩も、バトル・ボードは問題なく活躍出来ると思います」

 

「とりあえず、来年の出場枠確保は確実だろうが、男子の方は苦戦するだろうな」

 

「二高には九島光宣さん、三高には一条将輝さんと吉祥寺真紅郎さん、四高には黒羽文弥さんと、実力者が大勢いますからね」

 

 

 詩奈が強敵として上げたメンバー全員と面識がある達也は無表情で頷いたが、賢人と侍朗は少し蒼ざめた表情で詩奈を見詰める。

 

「三高の二人は兎も角、後の二人は来年も残ってるわけで、しかもこっちには司波先輩がいなくなる……か。来年以降はかなり厳しい戦いになりそうだ」

 

「来年の事は兎も角、今年も男子は苦戦しそうですね、司波先輩」

 

「男子は確実に取れる点数を取り、女子は狙えるなら優勝を狙う、数年前の一高の戦い方とは逆になっているらしいが、実績を考えれば仕方がないかもしれない。だが、幹比古や七宝、森崎も大人しく負けるようなヤツじゃないだろうから、それなりに善戦はするだろうさ」

 

 

 達也にしてはやけに杜撰な計算だが、彼は男子を殆ど担当しない為、出場選手の能力を詳しく知らないのだ。三年間一緒の学校に通っているとはいえ、森崎とは殆ど交流は無い。まして彼は、未だに達也に担当してもらう事を拒否しているので、達也の方も無理に森崎の能力を把握しようとはしていないのだ。

 とりあえず初日の計算だけを詩奈に尋ね、達也は作業車から後輩三人をホテルまで送り、周辺の警戒をして自分も部屋に戻ったのだった。




達也がいなくなっただけで戦力がた落ち……

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