劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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萎縮するのも仕方がないな……


顔合わせ

 九校戦参加メンバーが一堂に集められ、発足式の前に顔合わせが行われた。例年ならこのような事は無いのだが、今年はいろいろとイレギュラーが発生しているので、正式発表の前に混乱を避ける目的で深雪が提案したのだ。

 一人エンブレムが付いていない制服を着ている侍朗は、周りから様々な思いが篭った視線を向けられたが、彼が三年の実力者から一目を置かれている存在であることは知られているので、直接文句を言う人間はいなかった。

 

「やっぱり俺、場違いじゃないかな」

 

「一度引き受けたんだし、九校戦の期間中も侍朗君と一緒にいられて、私は嬉しいけど」

 

 

 隣にいる詩奈に小声でぼやいた侍朗だったが、彼女からそう返されては何も言えなくなってしまう。侍朗自身も、九校戦の期間だけとはいえ、詩奈と離れ離れになるのは寂しいと思っていたので、同行できる事になり嬉しい事は間違いないのだが、選手として参加するのはやはり緊張してしまうのだろう。そんな彼を見かねたのか、銀髪の北欧系の顔立ちをした二年生が話しかけてきた。

 

「君が司波先輩が見出した一年生かい?」

 

「えっと、先輩は?」

 

「僕は隅守賢人。元二科生で今は魔工科生だよ」

 

 

 つまりは達也と同じルートを辿っているのかと、侍朗は目の前の上級生の実力を計ろうと観察するが、達也程の実力は感じなかった。

 

「司波先輩は一年生の時からエンジニアとして事実上無敗という記録も持ってるけど、一年の時は新人戦モノリス・コードに参加して、あの一条家の跡取りを真っ向から倒してるから、先輩が推薦した君にも期待してるよ」

 

「俺は司波先輩程の実力はありませんよ……そもそもあの人は四葉家の後継者なわけですし」

 

「確かに今はそういう立場らしいけど、あの時はまだ一員として認められてなかったとかいう話だし、実力も今とはだいぶ違ったらしいよ? 何でも封印されていたとか」

 

 

 何故賢人がそんな事を知っているのかとか、封印されていた状態で将輝に勝ったということは、今やれば相手にならないのではないかとか、いろいろな事が侍朗の頭の中を巡ったが、彼がその事を賢人に尋ねる事は無かった。

 

「隅守先輩と司波先輩って、どういう関係なのでしょうか?」

 

 

 侍朗から見て、賢人と達也の関係が全く分からなかったので、彼の口から出た質問はこれだった。侍朗の隣では詩奈も似たような視線を賢人に向けているので、彼女も知らないのだろう。

 それはある意味で仕方がない事で、達也と賢人の関係は今の一年生は、よほど九校戦のコアなファンでもない限り殆ど知らない事である。

 

「僕は去年、司波先輩に憧れて一高に入学して、司波先輩のお手伝いという名目で技術スタッフとして九校戦に参加させてもらったんだ。だから今年も二科生の一年が参加するって聞いて、技術スタッフだと思ってたんだけど、まさか選手だったとはね。司波先輩の考える事は、僕には到底理解出来ないけど、三年生の先輩方の視線を見る限り、君なら大丈夫なんだろうね」

 

「はぁ……ご期待に添えるか分かりませんが、無様に負けないようにはしたいと思ってます」

 

 

 同じ一年からは嫉妬が混じった視線を向けられている事には気が付いていたが、まさか上級生からはそんな期待を込められていたとは気付いていなかった侍朗は、賢人に対して曖昧に返事をしてその場から移動する。そんな侍朗につられるようにして、詩奈も賢人に一礼してからその場から侍朗を追いかけるように移動した。

 

「ちょっと、侍朗君?」

 

「いや、まさかあんなプレッシャーを掛けられるとは思って無かったから……」

 

「期待されてるって分かってたんじゃないの? 司波先輩は、勝てるプランしか建てないって香澄さんから聞かされてたじゃない」

 

「それはそうだが……あの人だけならまだ何とかなったかもしれないが、上級生の大半が俺に期待してるとなると話が別だろ? そもそも二科生として、あまり期待されない状態が続いてたんだ。こんな大舞台で期待されるなんて……」

 

「今更断るなんて出来ないんだから、ここで慣れておくしかないんじゃない? 本番になれば、観客からも期待されるわけだし」

 

 

 例年通り、客席には沢山の応援客が押し寄せる。その事を詩奈に言われ、侍朗は突如吐き気に襲われた錯覚に陥り、口を押えて視線を逸らした。

 

「司波先輩が期待してる一年って君か?」

 

「あっ、琢磨さん」

 

「詩奈か。彼と知り合いなのか?」

 

「私の護衛で、矢車侍朗って言います」

 

 

 まだ復帰出来ていない侍朗に代わり、詩奈が琢磨に侍朗を紹介する。琢磨は侍朗を上から下までじっくりと観察して、小さく頷いた。

 

「魔法的な実力は兎も角として、身体的な能力はかなり高そうだな。あの人が何を考えて君を選出したのか俺には分からないが、ある程度はやってくれそうだな」

 

「琢磨さん、随分と変わりました? 前会った時はもっと刺々しかったような気もしますけど」

 

 

 琢磨が十師族の座を狙っていた時に会って以来だったので、詩奈は琢磨の変化に驚いた。琢磨の方も、過去の自分を思い出して恥ずかしくなったのか視線を逸らして頭を掻く。

 

「自分が井の中の蛙だったと思い知らされたんだよ、あの兄妹に……」

 

「会長にも?」

 

 

 深雪が何をしたのかと、詩奈は琢磨に尋ねたのだが、彼は何も答える事無く二年のグループの輪の中に戻っていってしまった。




琢磨は入学早々やらかしたしな……

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