達也から打診を受けていた侍朗は、詩奈の迎えという名目で生徒会室にやってきたが、居心地の悪さは普段本当に詩奈を迎えに来た時の比ではなかった。ここにいる全員、侍朗が達也から新人生モノリス・コードに参加する気はあるかと問われている事を知っているので、先ほどからチラチラと視線を向けられているのだ。
「侍朗君、もう少し落ち着いたら?」
「そんなこと言われても、普段ここまで注目されることなんて無いんだし、ましてやあまり交流の無い先輩たちに囲まれてるわけだし……」
「交流がないって、侍朗君と交流があるのって、千葉先輩や西城先輩でしょ? 司波会長たちとだって、その二人と比べれば少ないかもしれないけど、交流はあるじゃない」
「そうは言ってもな……」
侍朗は他の男子生徒と違い、深雪やエリカに見惚れる事は無いが、それでも多少なりとも意識してしまう。詩奈もその事には気付いているが、相手を考えれば自分が太刀打ちできるわけがないと、侍朗の浮気(?)を黙認しているのだが、侍朗はそれが申し訳ないと感じているのだ。
「というか、司波先輩は何処にいってるんだ?」
「司波先輩なら、直通の階段を通って風紀委員会本部に行ってるよ。九校戦の事で風紀委員長と部活連会頭とお話があるんだと思うけど」
「……あの人、本当に忙しそうだな」
侍朗が知っている限りでも、達也が抱えている仕事量は、そこらへんの大人より多い。自分が知っている事が全てだとは思っていないので、それを加味したら自分では到底賄えないだろうと感じる程だ。
このまま達也が来なければ、このままうやむやになって自分は参加しなくても良くなるのではないかという、淡い期待を懐き始めた頃、達也が階段を上ってくるのが侍朗も視界に捉え、覚悟を決めた。
「矢車、来ていたのか」
「は、はい」
達也のセリフに、侍朗と詩奈は緊張以外の反応を見せなかったが、他のメンバーは若干白々しさを覚えた人もいた。達也なら気配で侍朗が生徒会室にいる事は気付いていただろうし、返答期限もそれほど設けてなかったのだから、今日あたりに返答しに来てもおかしくはないからである。
「マスター、コーヒーを、お持ちしました」
達也が席に腰を下ろすのと同じタイミングで、ピクシーが達也の分のコーヒーを運んできた。そしてピクシーは深雪と水波に対して勝ち誇った顔を見せた――ように侍朗には思えたが、自分の錯覚だろうと思い気にしない事にした。
「それで、覚悟は決まったのか?」
「まだちょっと不安はありますが、推薦してくれた千葉先輩や西城先輩、何より司波先輩の期待に応えられるよう、精一杯務めさせていただきたいと思ってます」
「侍朗君、そんなに真面目に考えてたんだ」
「おい詩奈……」
幼馴染に不真面目だと言われたような気がして、侍朗は全身に込めていた力が急激に抜けていくのを感じ、脱力感が漂う声で詩奈にツッコミを入れる。
「昔幹比古にも言った事があるが、矢車の魔法は奇襲力が高い。命のやり取りではなく魔法競技としてなら、十分に役に立てるだろう」
「……実戦では役に立てませんから」
「使い方次第では十分に実戦でも役に立てるとは思うが、その辺りはお前の努力次第だ」
達也が自分の何処を評価しているのか聞いてみたい衝動に駆られたが、ここで問いかけても達也は答えてくれないだろうと、彼の雰囲気からそう感じ取ってしまった為、侍朗は何も言えなかった。
一方の詩奈は、三年生の中でも実力者だと評価されている達也が、侍朗の事を評価してくれている事が純粋に嬉しかったのか、先ほどから笑顔で侍朗の腕を掴んでいる。
「詩奈ちゃん、嬉しそうですね」
「だって侍朗君は二科生だから、九校戦には同行できないと思っていましたから。でもこうしてメンバーとして同行してくれるのなら、私としても心強いですから」
「純粋に侍朗が一緒で嬉しいんじゃないの?」
「香澄さん、そんなことありませんよ!」
頬を膨らまして抗議してくる詩奈に、香澄は説得力皆無だなという視線を向けながらも、とりあえず頭を下げる。詩奈の抗議だけなら気にしなかっただろうが、その後ろから泉美が「デリカシーが無いですね」と言いたげの視線を向けてきていたので、とりあえず謝罪した形だ。
「ところで、俺以外のメンバーってどうなってるんですか?」
「明日の放課後、顔合わせがあるからそこで確認すると良い。基本的には成績上位者から選ばれているが、それ程エリート意識は高くないそうだから気にするな」
「はぁ……」
自分は達也程図太くないんだがと言いたかったが、そんな事を言えば生徒会室にブリザードが吹き荒れると噂で知っていたので、何とか内心に留め、侍朗は達也から詩奈へと視線を移動する。
「三矢家の看板に泥を塗るような事はしないつもりだから、ご当主様たちにはそう言っておいてくれ」
「別に心配してないし、高校生の競技くらいでお父さんも気にしないと思うよ」
「だが、一条さんが司波先輩に負けた時、臨時師族会議が開かれたくらいだろ? 三矢家の関係者として、一応気にしておかなければいけないんじゃないか?」
「侍朗君は直系でも跡取りでもないんだから、あまり気負わなくて良いと思うけどな」
詩奈の考えに、達也以外のメンバーが頷いて同意を示し、達也ももう少し気楽でも良いんじゃないかという視線を侍朗に向けたのだった。
あまり詳しくは出来ないでしょうが、描写はするつもりです