劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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こっちの方が盛り上がるだろうし……


認識の齟齬

 昨夜響子と話したことは、翌朝には発表されており、朝食の席でも当然その事が話題になっている。達也としては決して前向きでは無かったのだが、周りのメンバーは達也が参加する事でより盛り上がると確信し、一条と同じ三高として参加するはずの愛梨たちも達也が勝つことを確定事項として話していた。

 

「一昨年の九校戦の時は達也様の真価を知りませんでしたが、今回はそれも抜かりはありませんわ」

 

「残りのメンバー次第じゃが、達也殿が一条如きに不覚をとるとは思えんからの」

 

「こっちは一条と吉祥寺は決定だけど、一高の方は達也さん以外に誰が参加するんだろう」

 

 

 既に達也たちが決勝でぶつかる事が決まっているかのような会話に、達也は苦笑いを浮かべた。あくまでも達也が参加するのは決勝のみ。その途中で一高か三高が敗退した場合は、達也が参加する事なくモノリス・コードは進行するのだ。だが、誰もが決勝のカードは一高VS三高で決まりだと思っているらしい。

 

「聞いたよ、達也くん。楽しみにしてるからね」

 

「まだ決勝カードが決まったわけじゃないんですが……そもそも俺が出るのは決勝だけで、準決までにウチが敗退したらそこまでなんですけど」

 

「ん? 今日の発表では、達也くんはモノリス・コードのみに参加するって言ってたけど?」

 

「はい?」

 

 

 達也はあくまでも「決勝で三高と戦う場合のみ参加する」事を承諾したのだが、何故か世間に発表されたのは「達也がモノリス・コードに参加する」という事らしいと今知り、達也は真相を知っているであろう響子の存在を探した。

 

「(既に出かけてるようだな……仕方ない、電話で確認するか)」

 

 

 達也は家に響子の存在がない事を確認し、ため息を吐いてからリビングから自室に戻り通信端末を操作する。響子はすぐには出ず、暫くしてから申し訳なさそうな声で達也からの電話に応答した。

 

『達也くん……』

 

「その様子では、響子さんは知らなかったんですね?」

 

『私が聞いてたのはあくまでも、達也くんが決勝で一条君と戦えば盛り上がるって事だったから……それが祖父たちの間では、達也くんがモノリス・コードに参加して一条君と戦ったら盛り上がるって事だったらしいのよ』

 

「俺の参加を撤回する事は不可能なんですよね?」

 

『えぇ……もうすでに魔法関連のメディアは盛り上がってるから。一昨年の新人生モノリス・コードを知ってる人間もだけど、ただでさえ四葉の次期当主対一条の次期当主だからね……』

 

「甚だ不本意ではありますが、既にそういう展開になってしまっているのでしたら仕方ありません。閣下にはお時間を作っていただく事になるでしょうから、響子さんの方からそう伝えておいてもらえますか?」

 

『了解よ。祖父も達也くんが文句を言いに来る理由は分かってるでしょうから、近い内に時間を作ってもらえると思うわ』

 

 

 響子からの返事にとりあえず納得して、達也は通信を切りリビングに戻る。戻ってきた達也の表情が険しいのをいち早く察知したエリカが、達也の耳元で問いかける。

 

「やっぱり達也くんが言いだした事じゃなかったんだね」

 

「当たり前だろ。そもそも俺は、選手として参加するつもりなど初めから無かったんだからな」

 

「でも、達也くんが参加した方が一高としては計算が立つんじゃないの? なんなら、スピード・シューティングにも参加しちゃうとか」

 

「俺が出なくても、そっちには森崎がいるだろ」

 

「でも、達也くんが出れば圧倒的じゃない? もしくはピラーズ・ブレイクでも良いけど。ほら、達也くんの魔法なら一瞬でしょ?」

 

「一応軍事機密になってるんだが」

 

「もう今更じゃない?」

 

「そういうな」

 

 

 達也がいろいろとイレギュラーである事は、既に世間に知られている。それでも達也の特異魔法の事は一応世間には知られずに済んでいるのだ。達也をこれ以上戦場に出す事は出来なくなるとはいえ、達也の異能は余計な争いを生む可能性を多分に孕んでいる。だから世間から注目されるであろう場所で、魔法を使うのは達也としては避けたいのだ。

 

「とりあえず、既に世間では達也くん対一条君の勝負が見られるって盛り上がっちゃってるし、撤回は出来なさそうね」

 

「既に響子さんに確認した。後日閣下には相応の覚悟をしてもらう事になるだろう」

 

「あはは……せっかく九校戦の開催にこぎ着けたのに、別のところで危ない思いをする事になっちゃうとはね」

 

「響子さんから聞かされていた条件とは大きく違う事になってるんだ。そのくらいの覚悟はしてもらわないとだろ」

 

「あたしたち観客の立場から言わせてもらえば、またハイレベルな戦いを見られるんだから、老師には感謝してるんだけどね」

 

「勘弁してくれ。また死にかけるかもしれないんだぞ」

 

「達也くんなら大丈夫でしょ」

 

 

 エリカは達也の分解も再成も知っているので笑っていられるが、達也の異能を知らない人間が再びあの光景を見たとしたら、笑い話で済まないだろうという事を烈たちは失念しているのではないかと達也はその事が特に気になっている。

 

「(一度母上にも話をしておく必要がありそうだ)」

 

 

 幾ら次期当主とはいえ、あまり目立つことはしない方が良いのではないかという考えがあるので、達也は真夜の意思を確認しておく必要と考え、午前中にでも連絡をしておこうと決めたのだった。




はめられたとも言えるな……

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