その他は作中でいろいろと説明していきます。
世間ではいろいろあったが、魔法界の盟主とも言える九島烈の意向により、無事に九校戦が開かれることとなり、競技も一昨年の物と同じだと発表された。
「散々達也さんの事を悪く言っていた人たちも、無事に開催されると分かったら浮かれてるんですよ」
「まぁ、あの事件は間接的には俺の所為と言えなくも無かったからな」
「そんな事ないよ。あの魔法は、達也さんが私の為に作ってくれた魔法。それをインデックスに載せたいと言ってきたのは魔法大学で、その魔法を使ったの別の魔法師なんだから」
生徒会室で九校戦メンバーの選出と、それに合わせてエンジニアの選出をしている達也の隣で、ほのかと雫が不満げに愚痴を零している。その光景を、深雪は生徒会長席から冷ややかな目で眺めていた。
「深雪様、こちらの書類に認印をお願いします」
「そこに置いておいて」
「かしこまりました」
水波が何とか深雪の意識を達也たちから逸らそうとしたが、深雪は水波の事を一瞥しただけで再び達也たちに視線を向けている。
「あぁ、今年こそは深雪先輩と同じ競技に参加したいものです」
「泉美さんはアイス・ピラーズ・ブレイクは不向きだと思いますが」
「まぁ、私より香澄ちゃんの方が向いているとは私も思うけど……」
「そもそも三年生には、深雪様の他に雫様、エイミィ様といった、一昨年の新人戦で決勝リーグを独占したメンバーが残っておられますので、普通に考えればその三名で決定ではないかと」
「ミラージ・バットも、深雪先輩の他に光井先輩と里美先輩がおられますから、私が深雪先輩と同じ競技に参加するのは難しそうですね……」
「ですが、三年生で固めても、来年に問題が残るという考えを達也さまがなさるかもしれませんので、泉美さんも可能性が無いわけではないと思いますよ」
落ち込んだ泉美を励ましながら、水波は黙々と作業を続けている達也を眺めている。実は水波は先程から話題に上がっている一昨年の九校戦を見てはいない。結果は文書として知っているが、実際に会場に赴いたり、中継を視たりはしていないので、達也が活躍するのを見てみたいとも思っていた。
「（昨年の九校戦は、達也さまは裏方に徹しておられましたし、それ以外にも問題がありましたから……）」
昨年の問題というのは、今回九校戦開催に一役買っている九島烈らの九島家が開発を目論んだパラサイドールの事だ。達也は魔法科高校生に被害が及ばないように、陰ながらその撃退を担当しており、競技に参加する暇など無かったのだ。より詳しく言うのであれば、達也が競技に参加したのも非常事態が発生し、当時に一高幹部が達也にその穴埋めを命じた結果なので、達也の意思で参加したわけではない。
「（今年は昨年以上に、達也さまは表舞台には立たないでしょうね……）」
一先ず世論は落ち着きを取り戻してはいるが、達也がトーラス・シルバーの片割れである事も、彼が『あの』四葉家の跡取りであることも世間に知られてしまっている。そんな達也が競技に参加すれば、色々と文句を言ってくる輩がいないとも限らない。
「達也さんは今年もエンジニアとして参加するんだよね？」
水波が達也はどうするのだろうと考えていたのを見透かしたようなタイミングで、雫が達也に尋ねたので、水波は少し大袈裟に視線をそちらに向け、泉美から不審がられた。
「水波さん、どうかしたのですか？」
「い、いえ……達也さまの状況を考えたら、今年は参加なさらないのではないかと思っていたところに、雫様が達也さまに問い掛けられたので」
「なるほど。心を読まれたのかと思ったのですね？」
「はい……」
達也なら兎も角、雫が読心術など使えるはずがないと分かっていながらも、あのタイミングでは水波も思わずあり得ない考えに驚いてしまったのだと納得した泉美は、再び深雪の観察に戻る。
「深雪が参加するんですし、私も達也さんに調整してもらいたいです」
「そうは言ってもな……直接的な関係はないと判断されたとはいえ、高校生の大会に『トーラス・シルバー』が参加するのはおかしいと文句を言っている連中がいるらしいからな」
「何それ。達也さんがトーラス・シルバーだろうと、高校生であることには変わりないのに」
「そうですよ！ 達也さんは一高の生徒なんですから、一高のメンバーとして九校戦に関わっててもおかしくないじゃないですか！ むしろそんな事を言ってる人たちの方が、参加するなってはなしです！」
「ほのか、落ちつけ」
興奮気味のほのかを落ち着かせて、達也は肩を竦めて頭を振る。
「まぁ、閣下が俺の参加を認めてくれてるらしいから、参加しても問題は無いんだがな。理屈じゃないんじゃないか、こういうのは」
「特に三高の吉祥寺くん辺りは文句を言っているそうですよ？ 永遠に目覚めないようにして差し上げたいですね」
「み、深雪様！ 魔法が発動してしまっていますので！！」
「あら？ ゴメンなさいね」
「い、いえ……」
生徒会室に突如吹き荒れたブリザードを止める為、水波が身体を張った。そのお陰で生徒会室のあらゆる機器が故障する事態は免れたが、水波はその後も深雪の機嫌が傾かないかとビクビクしていたのだった。
平和な九校戦……にはならないだろう