封印したパラサイトの回収は他に任せ、達也は幹比古とレオと合流した。
「達也、お疲れ」
「幹比古とレオもすまなかったな。一発敵の攻撃がそっちに行かなかったか?」
「あぁ、あれか。達也が撃ち漏らしたのか?」
「いや、あの攻撃はスターズ第三隊隊長だったアレクサンダー・アークトゥルスのものだったのだが、一瞬で俺を倒しても封印は止まらないと判断したんだろう。術者である幹比古を狙ったんだろうとは思ったが、まさか本当に幹比古を狙ったとはな」
「そうだったのか。あの攻撃を凌ぐのは、結構大変だったぜ」
口では大変だと言っておきながら、レオの表情は明るかった。それを見た達也も、彼にしては珍しく明るい。
「レオなら問題なく処理できると思って攻撃先を追わなかったが、あの攻撃を難なく凌ぐとはな」
「難なくじゃねぇよ。危うく顔に傷を負うところだったぜ」
「……見てなかったから何とも言えないけど、スターズ第三隊隊長の攻撃をその程度で済ませられるなら、難なくで良いと思うけど」
レオの実力は幹比古も十分に理解していたが、まさかスターズ第三隊隊長の攻撃をあっさりと凌いでいたとは思っていなかったので、彼の表情は引き攣っている。
「というか、俺が逃げたら幹比古が危なかったんだぜ? 幹比古の盾としてやってきたからには、凌ぎ切るしかないだろ?」
「うん、それはありがとう……でも、それで済ませられるのはおかしいと思うんだけど?」
「そうか?」
レオが視線で達也に問いかけると、達也も首を傾げていた。達也の中でも、レオならそれくらい出来て当然だという評価なので、幹比古が何に引っ掛かっているのかが分からないのだ。
「というか、達也ならあの攻撃を止める事くらい出来たんじゃねぇか?」
「トマホークを幹比古に向けて放つのと同時に、ナイフで俺に襲いかかってきたからな。そっちに意識を割く余裕が無かったんだ。相手の意識をこっちに向けておけば、二撃目は行かないと思ってな」
「達也の方もいろいろと危なかったわけか」
「えっと……二人ともそれで済むのが凄いよね」
「何言ってるんだ。今回一番大変だったのは幹比古だろ? 遠隔魔法でパラサイトを封印してたんだから」
「そうだな。幹比古がいなかったら今回の侵入を防げなかっただろう」
「そ、そうかな……」
確かに今回の封印において、幹比古の役割は大きい。だが彼はあくまでも、達也が刺した媒体を通じてパラサイトを封印したに過ぎない。実際にパラサイトや他の軍人と戦ったのは達也であり、飛んできた攻撃を防いだのはレオだ。幹比古とすれば、二人にここまで褒められる事をしたとは思えなかった。
「とりあえず引き上げるぞ。封印したパラサイトは、他の人に任せておけばいい」
「僕の家で引き受けるけど?」
「非合法活動とはいえ、相手はUSNAの正規軍だからな。いくら妖魔に憑りついたとはいえ、幹比古の家を国際問題に巻き込むのは避けた方が良いだろう」
「そ、そうだね……」
あくまで妖魔を相手にしていたつもりだった幹比古は、その肉体がUSNAの軍人だったと思いだした。そして自分一人の判断で、吉田家の人間全員をUSNAの標的にする勇気は、幹比古には無かった。
「基地の中に国防軍の人間がいるから、そっちで保管してもらう事になっているから心配するな」
「もし僕の力が必要になったら言ってくれ。古式魔法の家の人間として、封印以外でも力になりたい」
「もちろん幹比古の力は必要だ。こちらから頼みたいくらいだったから、これからもよろしく頼む」
「俺も手伝えることがあれば力になるぜ」
「レオも助かった。だが次も力を借りるかどうかは分からない」
「確かに俺の力は妖魔と相性が悪いが、今回のように盾くらいにはなれるぜ?」
「……そうだな。もし力が必要な時は頼む」
「おう」
三人は最後に笑い合って、その場から立ち去ったのだった。
「それにしても達也、本気で国防軍の力を借りるつもりは無かったのか? 力を借りた方が楽だったと思うんだが?」
「力は確かにあるが、信用に足るかどうか分からないだろ?」
「つまり、俺たちは達也に信用してもらってるって事か?」
「当然だろ? 俺の周りでいろいろあっても、お前たちは態度を大きく変えなかったからな」
「……そうだね」
少し達也と距離を置こうとしていた自分を思い出して、幹比古は視線を逸らしたが、達也がその事を指摘する事は無く、レオは「気にし過ぎだ」と言わんばかりに幹比古の肩を叩いたのだった。
達也たちが座間基地から去ったのと同じ時刻、横須賀基地に、米軍の空母が来航する。夜の入港は夜間発着訓練を行った為で、あらかじめ日本側に通告されていた。だが、知らされていない事もある。空母には最新鋭の複座VTOL戦闘機が着艦している。
日本軍はそれが、飛行甲板を持つ超大型潜水艦から発艦した機体だと知らなかった。三機の複座戦闘機が、後部座席にレーダー迎撃士官でも兵装システム士官でもない女性士官を乗せていたことも、日本軍は知らなかった。超大型潜水艦から空母に移乗した彼女たちの名前は、シャルロット・ベガ。ゾーイ・スピカ。レイラ・デネブ。リーナがUSNAを出国した後にパラサイト化した女性士官が、二〇九七年七月一日の夜、横須賀基地に潜入した。
次回から急転編――ではなく別の事をしようと思ってます