劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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バレバレなのに気づかないとは……


スターズの動向

 例の件で、響子から達也の許へ連絡が入ったのは日曜日の午前中の事だった。食事を済ませ、今日はどうしようか考えていた達也を眺めていた深雪は、少しムッとした表情を見せたが、個人的な電話ではなく『仕事』の電話だと分かり表情を改めた。

 

『特尉。アメリカ軍から、明晩、座間基地にハワイ発の輸送機が到着するという通告がありました。共同利用協定に基づく、正式な通告です』

 

「それでは、表立って手荒な真似は出来ませんね」

 

『こちらの予想した通りとも言えます』

 

 

 響子の言う通り、スターズが協定を利用して増援を送り込んでくるのは、達也たちの想定通りだった。ただこうして正規の制度を堂々と利用してくることから、USNA軍内部でパラサイトが勢力を伸ばしていると読み取れる。響子の顔色が優れないのは、それを懸念しているからに違いなかった。

 

「では打ち合わせ通り、監視をお願いします」

 

『特尉。いえ……達也くん。本当に達也くんだけで乗り込むつもりなの?』

 

「乗り込むのは一人ですが、戦力は俺一人ではありませんよ。パラサイト対策はまだ未完成ですから」

 

『それ、四葉家の人? それとも、学校のお友達……?』

 

「家の者は光宣の方に注力しています」

 

 

 達也ははっきりと答えなかったが、つまりは一高の友人を頼るということだ。彼としても本意ではなかったが『封玉』が未完成である以上、パラサイトを封印できる人材が必要だった。

 しかし、響子の口から制止の声は出てこない。達也にそんな意図はなかったのだが「光宣を捕らえる為だ」と言われれば、彼女は何も言えなくなる。

 

『……何時決行するの?』

 

「早い方がいいでしょうから、明日の夜、到着直後に」

 

『そう……達也くん、気を付けて。監視には柳少佐にも加わってもらうから、いざという時は通信してちょうだい』

 

「分かりました。いざという時には、甘えさせていただきます」

 

 

 そう言って、達也が軽く一礼する。しかし、カメラの向こうの響子は理解していた。達也が決して、自分たちを頼らないだろうという事を。

 

『ええ。でも、それが必要な事態にならないよう祈っているわ』

 

 

 運任せにするつもりは無い。部隊を出動させる以上、自分も大隊副官として成功を確実なものとすべく知恵を絞るつもりだ。それでも、響子はそう言わずにいれなかった。達也の婚約者としては、自分も達也の力になりたいと思っているのだが、まだ正式に軍を抜けたわけではないので、軍規を破ってまで達也の手伝いをし、その結果達也と国防軍との関係を悪化させてしまうかもしれないという考えが、響子にそのセリフを言わさせたのだった。

 響子との通話を終え、達也が振り返る。自分の背後に心配そうな表情の深雪が控えているのは、見なくても分かっていた。

 

「達也様……明日、私はどういたしましょうか」

 

 

 半年前の深雪ならば「どうするべきか?」と尋ねるのではなく「自分も行く」と主張しただろう。だが今の彼女は、自分が達也の弱点となり得ることを納得している。昔から自覚はあったが、それを呑み込むことが出来るようになったのだ。

 

「水波についてやってくれ」

 

 

 達也の判断は最初から決まっていた。深雪は、スターズとの戦いには連れて行かないと。達也は深雪の能力がスターズに劣るとは考えていない。スターズの精鋭を相手にしても、深雪が後れを取る事は無い――むしろ深雪の方が優位に立てると確信している。

 だが、自分から危ない真似をして欲しくない、それが達也の本音だった。攻撃を受ければ反撃はやむを得ない。巻き込まれるのも仕方がない。今回のケースで言えば、水波が光宣に攫われそうになった場面で、深雪に手出しをするなと言っても無理だろう。それは諦めている。

 だがパラサイト化したスターズの駆除は、深雪が関わる必要のない事だ。

 

「光宣の動向が掴めないからな。俺が他の戦いに手を取られている間は、お前に目を光らせていて欲しい」

 

「……かしこまりました」

 

 

 達也のセリフは、嘘では無い。だが本心の全てでもない。達也が自分を危ない目に遭わせたくないと思っているのは、深雪も理解している。

 

「達也様の、お言い付けのままに」

 

 

 それを理解した上で、深雪は達也の指示に従うと約束した。

 

「家の者もいるだろうが、水波を守ってやってくれ」

 

「もちろんです、達也様。水波ちゃんは私たちを守る為に怪我を負ったのですから、水波ちゃんが自由に魔法を使えない今、私が水波ちゃんを守るのは当然です」

 

 

 深雪と水波の立場を考えれば、深雪が守るのはおかしいのだが、達也はその事にツッコミは入れなかった。彼女が水波の事を妹のように思っている事は彼も理解しているし、そう簡単に切り捨てられるはずもないと思っているからだ。深雪は自分とは違い、そう言った感情があるという事も。

 

「ところで達也様、スターズを相手にする時に連れていくのは、吉田君でしょうか?」

 

「ああ。術式が完成していない以上、幹比古の手を借りなければならないからな」

 

「まだ修行を始めて数日しか経っていないのですから、致し方ありませんね」

 

 

 もし女子が同行すると言われたら深雪もついていくと言い出したかもしれないが、幹比古なら問題ないと、彼女は自分の中でそう言い聞かせたのだった。




幹比古は役に立つからな……

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