劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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若干名進学する理由が違う気も……


進路の話

 そろそろ日も暮れてきて、生徒会業務も終わった頃だろうという事で、達也と幹比古の訓練もとりあえず終了となった。

 

「今日一日でだいぶ上達したんじゃないかい? 始めたころと比べても、だいぶスムーズに封印出来ていると思うし」

 

「そうだな。まだ三日だから完成とまでは言えないが、だいぶ完成に近づいたとは言えるかもしれないな」

 

「やっぱり達也は凄いね。僕だったらまだ全然だっただろうし、他の人だって手ごたえを感じるまでに至っていないと思うよ」

 

「幹比古が手伝ってくれたお陰だ。俺一人だったら、未だに術式をどうにかしようと考えていただけだろうしな」

 

 

 八雲に言われるまでもなく、幹比古には手伝ってもらう予定だったのだが、彼のアドバイスが無かったらまだ幹比古に声をかけていたかは分からなかった。だから達也は心の中で八雲に、そして言葉にして幹比古に感謝を述べたのだ。

 

「君にそういわれると何だか嬉しいね。僕がこうして魔法をスムーズに使えるようになったのは達也のお陰だし、その達也の役に立てているというのは、僕にとっては君に恩返しが出来ていると実感出来るしね」

 

「俺は何もしていないさ。ただちょっと吉田家の術式を改良して、幹比古に合わせただけだからな。それ以降の成長は、間違いなく幹比古が努力した結果だろ」

 

「そうだとしても、きっかけをくれたのは達也だからね。だから僕は、君の役に立てるのならなんだってする。封印したパラサイトの処理を頼まれたとしても、僕は――吉田家は快く引き受けるつもりだ」

 

「そうか」

 

 

 封印した後の事はまだそこまで考えていなかったが、吉田家が処理してくれるなら達也としてはありがたかった。ここで八雲や風間に借りを作るのは避けたかったし、他の古式魔法師に頼むくらいなら吉田家に任せた方が安心出来るのだ。

 

「二人とも、お疲れー」

 

「お疲れさまです、達也さん、吉田君」

 

「エリカ……それに柴田さんも。早いね」

 

「もう殆ど引退だからね~。美月の方が早かったけど」

 

「私の方も卒業課題だけですから」

 

「なにやってんの?」

 

「まだ秘密。完成したら見せてあげる」

 

「美月も一年の時と比べて、精神的にだいぶ逞しくなったよね~。あと、ここも成長してるみたいだし」

 

 

 そう言ってエリカは、美月の胸を背後から揉む。突然の事で反応出来なかった美月は、暫くされるがままだった。

 

「うわっ! 分かってたけど、凄い感触ね……」

 

「え、エリカちゃん……」

 

「これがミキのものになると考えると、なんだか妬ましいわね……」

 

「な、なに言い出すんだ!?」

 

「エリカ、いくら人が少ないからと言って、あんまり外でする行為では無いと思うぞ」

 

「はーい」

 

 

 達也の少しズレた注意で、エリカは美月の胸から手を離し、軽く頭を掻きながら美月に謝罪する。

 

「ゴメンね。まぁ、女同士だし勘弁してよ」

 

「もぅ! エリカちゃんは一年の時からあんまり成長してないよね。イタズラっ子のままだよ」

 

「そんな事ないでしょー? ねっ、達也くん?」

 

「さぁな。技術的な進歩は見られるが、精神的な進歩はあまり感じられないな。幹比古はどう思う?」

 

「えっ、僕!?」

 

 

 まさか自分に飛び火して来るとは思っていなかったのか、幹比古は達也に問われて慌てだす。エリカからも鋭い視線を向けられ、幹比古はますます焦ってしまう。

 

「まぁエリカの成長は置いておくとして」

 

「ミキに評価されても嬉しくないしね」

 

「僕の名前は幹比古だ!」

 

「あまり美月に迷惑を掛けるのは感心しないな。もう少し自重するように」

 

「はーい……達也くん、なんだかお父さんみたいだよ?」

 

「エリカの父上のような威厳は持ち合わせていないつもりだが?」

 

「あのクソオヤジは関係ないわよ。そもそも、あんなのと達也くんを比べるわけ無いじゃない。人には『お淑やかになれ』とか『千葉を名乗る以上、行動や言動には気を付けろ』とか言われたけど、そもそも愛人を作ってた自分の行動は良いのかって話だしね」

 

 

 エリカはあまり気にしていないが、幹比古と美月が気まずそうに視線を逸らす。エリカが正妻の子では無いという理由で、千葉家内であまり良い待遇を受けていなかった事は知っているし、彼女がそれを気にしていない事も知っているが、この二人は今のセリフを無感情で受け止められなかった。

 

「なによ、美月もミキも気にし過ぎだって。あたしは別に気にしてないし、もう来年の今頃には『千葉』じゃなくなってるんだし」

 

「そうかもしれないけど……」

 

「あんたたちが気にする必要は、本当に無いんだってば。それよか、あんたたちはどうするの? 一緒に進学するつもりなんでしょ?」

 

「それはエリカたちだって同じだろ? エリカが防衛大学校に進むとは思えないし」

 

「武者修行の旅でもしようかとも思ってたけど、どうしようかちょっと悩んでるんだけどね。でも、大学に行ってもしょうがないしね……大人しく家事でもしてようかしら。達也くんはどっちが良い?」

 

「エリカがしたいようにして良いぞ。俺にエリカの人生を縛るつもりは無いから、進学したければして良いし、家にいたいと思うならそうすればいい。俺もあまり帰れそうにないしな」

 

「あー、例のエネルギープラントね……そう考えると、進学した方が暇つぶしになりそうね」

 

 

 大学に進むのを暇つぶしと表現したエリカに、幹比古と美月は冷めた目を向けたのだが、エリカに一睨みされて慌てて視線を逸らせるのだった。




達也もエリカも進学する意味はあんまりないし……

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