劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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達也なら気付いていても不思議ではないはず


響子へのフォロー

 達也からの提案を受け入れ、今度は風間が思い出したかのように達也に問いかける。

 

「ところで特尉。貴官は今回の紛争をどう見る」

 

「勝敗の帰趨を、という意味でしょうか?」

 

「そうだ」

 

「新ソ連が勝つでしょう」

 

 

 達也は考える素振りも見せず、即答した。考える時間は、基地に来るまでに十分あった。

 

「根拠を聞かせてくれ」

 

「大亜連合の侵攻は、ベゾブラゾフの不在という不確かな情報に基づくものです。その前提条件が間違っているのですから、ベゾブラゾフが戦列に加わった瞬間に、大亜連合軍の士気は瓦解するでしょう」

 

 

 具体的には、『トゥマーン・ボンバ』が使われた瞬間に。それは言葉にしなくても、風間に伝わっていた。

 

「フム……ベゾブラゾフが復帰する前に決着が付く可能性は無いと考えるのだな?」

 

「極東に展開している新ソ連軍と大亜連合に、決定的な兵力差はありません。たとえ大亜連合軍が『霹靂塔』を投入しても、短期間で勝利する事は難しいでしょう」

 

 

 『霹靂塔』は大亜連合の国家公認戦略級魔法師が使う大規模攻撃魔法だ。この魔法を編み出した劉雲徳は『灼熱のハロウィン』――達也の『マテリアル・バースト』による朝鮮半島南端壊滅――により戦死したが、彼の孫娘という触れ込みの劉麗蕾が『霹靂塔』を受け継ぎ、新たな国家公認戦略級魔法師となっている。

 

「もし勝利した新ソ連軍が日本進攻を目論んだら――」

 

 

 風間はそう言って、達也の目を正面から覗き込んだ。

 

「国防軍は、貴官の力を当てにできるのだろうか」

 

「当てにしていただいて問題ありません」

 

 

 この時も、達也の答えに躊躇いは無かった。他国の軍事的冒険を牽制するのは、東道青波の力を借りた対価だ。風間に――第一○一旅団に依頼されなくても、達也は必要な措置を講じるつもりでいた。だがそれは、正直に言う必要のない事だ。ここは風間に「借り」だと思わせておくのが得策だった。

 

「では中佐、自分はこれで」

 

「ああ。今日は有意義な話し合いが出来た。スターズの件は確認が取れ次第対策を講じさせてもらう」

 

「お願いします」

 

 

 風間との話し合いを終え、パラサイト封印術式の開発に戻ろうと部屋を出たところで、響子に声をかけられた。

 

「達也くん――いえ、特尉」

 

「何でしょうか、藤林中尉」

 

 

 思わず本名を呼んでしまったが、周りに人がいる可能性を思い出して階級で呼び直した響子とは違い、達也は最初から響子の事を階級で呼んだ。

 

「さっきの話だけど」

 

「光宣の事ですか」

 

 

 響子が何を気にしているのか少しは気にしていたので、達也はすぐに響子が何を言いたいのか思い当たった。だが何を気にしているのかは分からないので、響子に先を促す。

 

「光宣くんがスターズからやってきたパラサイトと共闘する可能性はどれくらいなのかしら」

 

「ほぼ間違いなく共闘する――いえ、既に共闘していると考えられます」

 

「その根拠は? 特尉の事だから、ただの勘というわけではないでしょ?」

 

 

 出来れば嘘であってほしい願っていると達也も理解出来たが、嘘を吐いても響子の気持ちを楽にしてやることは出来ないので、達也は自分が仕入れた情報から得た根拠を響子に告げる。

 

「関空で魔法警察官に追いかけられた密入国者二人ですが、何処からか現れた黒塗りの高級車に乗り込んだ所までは空港のカメラで捉えられています。ですが、それ以降の足取りが全く掴めていません。これは九島家の魔法である『仮装行列』で高級車の姿を誤認させられたのだと考えられます。母上を通じて九島家に確認しましたが、九島家の人間で行方が分からなくなっている人間は、光宣以外にいませんでした。また『仮装行列』を使える人間は九島の縁者しかいません。この事から、光宣が既にスターズの人間と合流している可能性が高いと言えます。そしてパラサイトは意思を共有する生き物です。より強い意思を持つ者がイニシアティブを取ることになるでしょう。パラサイトになってもなお、自我を保っているように見えた光宣ですから、他の人間にイニシアティブを取られることはないでしょう。ですから光宣と共闘するのではなく、光宣がスターズを利用する可能性が高いと思われます」

 

 

 達也の話を聞いて、再び響子の顔から血の気が引いた。ただ共闘するのではなく、あの光宣がスターズを利用する事になるなど夢にも思っていなかったのだろう。

 

「それで、特尉は光宣くんをどうするつもりなのですか?」

 

「自分としては、殺さずに捕えたいと考えていますが、他の十師族の人間がどう動くかは分かりません。現に七草家は派手に光宣にやられていますので、報復として光宣を殺す可能性がありますし、十文字家も捕らえるのが難しいならやむを得ないというスタンスで動くでしょうから」

 

「そう…よね……」

 

「藤林中尉とすれば、姉弟同然で育った光宣の生死が気になるようですが、既に人であることを捨てた光宣の事をそこまで気にする必要は無いと、自分には思えます。ですがそれは、自分に人としての感情が欠落しているからなのでしょうね」

 

 

 冷たく突き放されたと思ったが、最後に自分を気遣う言葉をかけてくれた達也に、響子は「感情が欠落している」という言葉が信じられなくなったのだった。




ここの達也は原作より感情が見え隠れしてますから

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