劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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こんな事してる場合ではないだろ……


リーナの事情

 自分が思っていたよりもあっさりと受け入れられ、リーナは呆気にとられたかのように立ち尽くしていた。

 

「あれ? リーナじゃん。いつの間に日本に帰ってきてたの?」

 

「エリカ……まぁいろいろあってね……」

 

「ふーん、いろいろね……まぁいいわ。それで、漸くこっちで生活出来るってわけ?」

 

「それが、そうでもないのよね……ちょっと面倒があって、明日からまた身を隠さなきゃいけないのよ」

 

「何かやらかしたわけ?」

 

 

 エリカは、リーナなら何かやらかしても不思議ではないと思っているのか、リーナが悪いと決めつけての質問だが、リーナにとってはそれは気に入らない質問だった。

 

「私は何もやってないわよ! むしろ、巻き込まれた側なんだからね!」

 

「巻き込まれた? そういえば何でUSNAに帰ってたんだっけ?」

 

「……エドワード・クラークの護衛の為に呼び出されたのよ。スターズ軍司令部もエドワード・クラークも、私が既に『アンジー・シリウス少佐』ではない事を知っているくせに呼びつけておいて、なかなか帰国許可を出してくれなかったのよ。そうしたら、なんだか面倒に巻き込まれて逃げ帰るように日本にやってきたのよ」

 

「エドワード・クラークって、達也くんを宇宙に追いやろうとしてた人でしょ? 何でそんな人がリーナを指名するわけ?」

 

「エドワード・クラークは魔法師じゃないから、ウィリアム・マクロードとイゴーリ・アンドレビッチ・ベゾブラゾフとの会合の際、護衛が欲しかったらしいわ。それで選ばれたのが、同じ戦略級魔法師である『アンジー・シリウス少佐』だったってわけ」

 

「ベゾブラゾフって、この前達也くんを襲おうとして返り討ちに遭ったわよ?」

 

「また襲われたのっ!?」

 

 

 一回目の襲撃については情報として知っていたリーナではあったが、二回目については聞いていなかった。それどころではなかったというのもあるが、リーナに海外の情報を与えてくれる人がいなかったというものあった。

 

「達也くんがいたから大事に至らなかったけど、普通に考えたら大問題よね……あたしもだけど、達也くんの側にいると常識が霞んでくるのよね」

 

「まぁ、達也が常識外だから仕方ないけど、エリカだって最初から常識外れだったと思うけど?」

 

「あたしが? どの辺りがよ」

 

 

 少しムッとした表情で問いただしてくるエリカに、リーナは初めてエリカと戦った時の事を思い返し、その事を告げる。

 

「普通の魔法科高校生が、アンジー・シリウス少佐に怪我を負わせるなんてありえないもの」

 

「……そういえば、あの時切り刻まれた服の代金、まだ払ってもらってなかったわね」

 

「そんな事より、他の人たちにも挨拶しておかないと」

 

「こら待て! 逃げるな!」

 

 

 旗色が悪いと判断したリーナは、そそくさとエリカの前から逃げ出そうとしたが、がっちりとエリカに捕まってしまい、渋々エリカと向き合う。

 

「そもそもエリカたちが私の邪魔をしなければ、あんなことにはならなかったのよ」

 

「あたしたちの獲物を横取りしようとしたリーナが悪いんじゃないの」

 

「私が日本に来ていた目的がアレだったんだから、邪魔してきたのはエリカたちじゃないの!」

 

「レオがやられて黙って見てるわけ無いじゃないの! リーナだって、仲間がやられたら黙ってないでしょ!?」

 

「何を騒いでるんだ、やかましい」

 

 

 ついついヒートアップしてしまったリーナとエリカを、達也が部屋から顔を出して諫める。自分たちの声が大きくなっていた自覚がある二人は、バツが悪そうに達也から視線を逸らす。

 

「リーナ。君はあんまり目立ったら困るんじゃないのか?」

 

「ここならとりあえず大丈夫でしょ。USNAのスパイがいるとも思えないし」

 

「先程亜夜子から聞かされたんだが、USNA軍は外務省を通じて、脱走兵の引き渡しを要請してきたらしい。脱走兵の名は、アンジー・シリウスとミカエラ・ホンゴウ両名。国防軍は外務省からの命に応じ、脱走兵の捜索を開始するらしい」

 

「脱走って、私はそもそも軍を抜けた身よ? 今回だってバランス大佐から正式に貰った航空チケットで日本に来たというのに、どうしてもUSNA軍は私を悪者にしたいみたいね」

 

「ねぇ、さっきから何の話をしてるわけ? リーナが巻き込まれた面倒事って、USNA軍に関係してるの?」

 

「あっ……」

 

 

 エリカがいる事を失念していたリーナは、慌てて口を押えたがもう遅い。そもそも達也も隠そうとはしていなかったので、リーナがいくら注意を払ってたとしても知られた事なのである。

 

「先日USNA軍内部で叛乱が起り、その原因とされているのが私の裏切り行為らしいのよ」

 

「裏切り?」

 

「軍内部では、私が達也の色香に迷って、日本軍の破壊工作の手助けをしたことになってるのよね」

 

「何それ? 達也くんがUSNA軍に妨害工作をして、何の得があるのよ?」

 

「私が分かるわけ無いじゃないの。とにかく、私が達也の手引きをして、再びマイクロ・ブラックホール実験を行い、数人の兵をパラサイト化させたって事になってるのよ」

 

「そっちでもまた、パラサイトが発生したのね……」

 

 

 エリカの言葉に引っ掛かりを覚えたリーナではあったが、何に引っ掛かったのかが分からず、とりあえず頷くだけだった。




二人ともどことなく猫みたい……

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