劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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あくまで詩奈の、ですけどね


三矢家の方針

 生徒会室にやってきた達也を、深雪はもちろんの事ほのかも嬉しそうに出迎え、泉美と詩奈も興味深そうに達也を見詰めていた。

 

「どうかしたのか?」

 

「いえ、今日の師族会議に司波先輩が呼ばれた理由が、イマイチ理解出来ませんでしたので」

 

「次期当主という事でしたら、ウチの兄が呼ばれてない理由が分かりませんし、司波先輩が何か重要な情報を持っていたから呼ばれたのではないかと思いまして」

 

 

 達也は、先ほど魔法協会関東支部のエレベーターホールで克人が真由美に懐いた気持ちと同じ思いだったが、彼女たちの目も、ここで聞かなければ引き下がらないという目をしていた。泉美に関していえば、やはり姉妹だと思わせるような雰囲気だ。

 

「達也様、光宣君の事、お話しになられた方が良いと思います」

 

「……そうだな。長くなるから簡潔に話すが――」

 

 

 どうせほのかや雫も後で聞きに来るだろうからと、達也は十師族ではないほのかも除外することなく今日の会議内容を話し、結果を深雪にも伝えた。

 

「水波さんを囮に、ですか……司波先輩も随分と危険な事をお考えになるのですね」

 

「真由美さんにも同じような事を言ったが、こちらがどうしようが、光宣は再び水波のところに現れる。発信機を撃ち込むにしても、そこで張っていた方が確実だからな」

 

「ですが、危なくないのですか? 九島家の光宣さんといえば、健康な身体さえあれば、同年代最強クラスだと聞いたことがありますが」

 

「確かに魔法発動時間には苦戦したが、今問題なのはそこではないからな」

 

「光宣さんがパラサイトに……しかも、大陸の亡霊まで取り込んでいる、ですか……俄かには信じられない事ですが、深雪先輩も光宣さんがそのような事になっているのを知っているのですよね?」

 

「えぇ……光宣君は確かにパラサイトに――さらには周公瑾の亡霊を自分の中に取り込んでいたわ。自分は自分のままだと言っていたけど、あの行動理由は間違いなくパラサイトのそれだったわ」

 

「そうでしたか……深雪先輩も光宣さんの事を知っているのでしたら、私は信じます」

 

 

 言外に達也だけだったら信じられないと言っているのだが、深雪はその事に気付きながらスルーした。今はそれよりも、情報の処理が間に合っていない詩奈の事が心配だったのだ。

 

「詩奈ちゃん、大丈夫?」

 

「だ、大丈夫です……司波会長たちは、光宣さんがぱ、パラサイト? になったというのを、何処で知ったのですか?」

 

 

 最初のパラサイト騒動の時、あまりその情報に触れる事が無かったのか、詩奈は『パラサイト』という単語に詰まりながらも質問する。その事はほのかも泉美も知らなかったのか、すがるような視線を、ほのかは達也に、泉美は深雪に向けた。

 

「先程達也様が仰られた『我々の思惑と関係なく光宣君は水波ちゃんのところに現れる』というのは、そういう事だって分からなかったかしら? 光宣君は、水波ちゃんのお見舞いに来て、そこで自分はパラサイトだって言ったのよ」

 

「何故、そのような事に……? 光宣さん程の魔法師が、簡単にパラサイトに憑依されるとも思えませんが」

 

「その辺りは、ここでは話せないわね。詩奈ちゃんには特に、聞かせたくないでしょうから」

 

 

 三矢家の直系とはいえ、詩奈は次期当主ではない。ましてやパラサイト事件の事について詳しく聞かされていないのであれば、詩奈には情報を与えない方が良いのだろうと深雪は判断し、達也も目で頷いて深雪の判断に同意した。

 

「そろそろ出ましょう。エリカたちを待たせると後が怖いから」

 

「エリカなら、もう何時もの場所にいたがな」

 

「そうなのですか?」

 

「あぁ。ここに来る前、少し話したから」

 

「それじゃあ、急いで片付けましょう。今日もお疲れさまでした」

 

「「「お疲れ様でした」」」

 

 

 深雪の言葉に三人同時に返事をし、それぞれが支度を始める。ちょうどそのタイミングで、達也は生徒会室の外に気配が近づいてきているのに気づいた。

 

「どうやら、三矢さんへのお迎えもちょうどだったようだな」

 

「えっ?」

 

 

 達也の言葉の意味が分からなかった詩奈だったが、他の三人は達也の言葉の意味をしっかりと理解し、同時に詩奈に向けてニヤニヤした笑みを見せる。

 

『矢車です』

 

「あっ、侍朗くん……」

 

「どうぞ、入ってちょうだい」

 

 

 深雪の声に反応して、生徒会室のロックが解除される。侍朗はそのロック解除の音をしっかり聞いてから扉を開いた。

 

「あっ、司波先輩」

 

「久しぶりだな」

 

「ど、どうも……」

 

 

 入学式前に達也にこっ酷くやられた過去がある侍朗は、気まずそうに達也から視線を逸らして詩奈の隣に立った。

 

「もう、侍朗くんたら……申し訳ございません、司波先輩」

 

「気にしなくていい」

 

「さぁ、それじゃあ詩奈ちゃんのお迎えも来た事だし、そろそろ帰りましょうか」

 

 

 ちょうど片づけ終わったのか、深雪が腰を上げながら詩奈をからかう。そのからかいに詩奈だけでなく、侍朗も顔を真っ赤にするが、何も言えずに口をパクパクさせている。

 

「深雪、何だか楽しそうね?」

 

「そうかしら? まぁ、エリカが美月と吉田君を弄る時と似てるのかもね」

 

 

 可哀想に、とは誰も思わずに、詩奈と侍朗は恥ずかしそうに身体を縮こませながら廊下を歩いたのだった。




どっちを敵に回したくないかと問われればね……

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