真夜との電話を終えた達也は、部屋着に着替えてリビングへと戻った。ちょうど達也を呼びに行こうとしていた深雪とぶつかりそうになったが、絶妙な距離で互いに足を止め、そのままテーブル席へと腰を下ろした。
「達也様、私を驚かそうとしていたのですか?」
「いや、まったくの偶然だ。母上との電話で、少し精神的に参っていたのかもしれない」
「叔母様と、ですか……何か、良くない事でも起こるのでしょうか?」
心配そうに達也を見上げる深雪に、達也は安心させるように笑顔で首を横に振った。
「深雪が心配しなければならないような事にはならないだろうし、例えなったとしても俺が守る。水波に安心して養生してもらうためにも、それが一番だろうしな」
「そうかもしれませんが、私の立場は次期当主の婚約者の一人でしかないのですよ? そんな私を次期当主であられる達也様が守るのでは、他の婚約者が騒ぎ出すかもしれませんし、四葉縁者の方々が快く思わないと思いますが」
「もともと深雪を当主にしようとしてた連中だから、今更俺がガーディアンの仕事をしてもなんとも思わないだろうさ」
「未だに達也様の事をお認めにならない連中など、そのまま排除してもいいと思いますが」
深雪の過激な発言に、達也は苦笑いを堪えられなかった。もともと達也に対してぞんざいな態度を取る人間に対しては過激な反応を見せていたが、誓約を完全に解呪してからはその傾向が強くなっているように達也には感じられたのだ。
あの魔法は別に、人の感情を左右するような効果は無いのだが、自分の魔法力を完全に自分のものとして使えるようになってからの深雪は、過激になっているのではないかと錯覚してしまう程、最近の深雪からは過激な発言が飛び出すのだ。
「排除するしないは兎も角として、その人たちも水波の事は認めてくれたらしい」
「水波ちゃんの事というと、達也様の愛人としてお側に仕える事でしょうか?」
「もちろん、水波に他に好きな人が出来たら自由にするつもりだから、愛人という表現はどうかと思うがな。小野先生や安宿先生にも言っている事だが、俺はまだ結婚もしていない身だ。本妻もいないのに愛人という表現はどうなんだ?」
「既に結婚しているも同義ですから、達也様の場合は。ただ学生だったりという事から籍を入れていないだけじゃないですか。周りからの評価は、五十里先輩と千代田先輩と同じような感じですよ?」
「あそこまで堂々としているつもりは無いんだがな……」
達也から見た二人の先輩は、千代田が思いっきり甘えて、五十里がそれを断れきれずにいたという感じだったので、達也としてはあの二人と同じ評価なのはちょっと不本意だった。だが周りからしてみれば、あの二人以上にイチャイチャしてる達也――というか婚約者たちの方が、精神的によろしくない存在なのだった。
「水波ちゃんもそれなりに人気が高いと泉美ちゃんから聞いたことがありましたから、がっかりする男子がいるかもしれませんね。まぁ、達也様以上に魅力的な殿方がいるとは思えませんが」
「兎も角、水波には明日報告しに行くとして、今は夕食にしようか」
「そうでした! 完成したので呼びに行こうとしていたところだったんです」
すっかり夕食の事を忘れていた深雪だったが、達也に言われてすぐさま仕上げにかかる。その程度の時間待てない程腹を空かせていたわけでもないので、達也は仕上げが終わるまでの間テレビニュースを見る事にした。
「あまり変わったニュースは無さそうだな」
「相変わらず政府の人間は、達也様にディオーネー計画に参加しろといっているようですし、財界の方々は達也様の計画を素晴らしいと称賛しておいでですね、他国の反応もそれぞれですが、昨日と特に変わっていないのは仕方ないのではありませんか? 他の人間が、達也様のように皆優秀なわけではないのですから」
最後の一文に引っ掛かったが、達也は深雪の考えとだいたい同じ考えだった。裏でちょっかいを出している人間がいるが、それを妨害したい人間だって当然いる。だからあまり物事が進まないのだろうと、達也は裏事情まで考慮してそう考えているのだ。
「世間が何を言おうが、達也様が正しいに決まっているのですから、大人しく言う事を聞けばいいのです」
「随分と独裁的な考え方だな。そういう考え方は危険だから改めるように」
「ですが、私にとって達也様のお考えが全て正しく、他の人間の考えが間違っているのですから、改めようがありません。生まれ直したあの時から、私にとって達也様の言葉が全て正しいのですから」
盲目的に自分の言う事を信じる深雪に、達也はちょっとした危機感を懐いている。ちょっとしたなのは、達也も他の人間とはズレているからだろう。
「とりあえず、直接的に妨害してこない限り、こちらからは何もしないスタンスには変わりはないから、情勢がどう変わろうがあまり関係ないがな」
「達也様なら、ご自身で情勢を変えるくらい簡単に出来ますでしょう?」
「いろいろと情報があるからな、こっちにも」
信じてやまない深雪の視線に、達也は口の端を釣り上げるだけの笑みで応えたのだった。
達也至上主義ですから