劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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妥当な感じがするのは何故だろう


風紀委員の序列

 生徒会室を出て、昇降口に向かう間に香澄も合流し、ちょっとした大所帯で廊下を歩く。風紀委員本部を閉めた幹比古と、美術部の活動を終えた美月も合流しているので、普段よりかなり人数が多目だ。

 

「香澄ちゃん、部活連との話し合いはどんな感じだったのです?」

 

「別に普通だよ。向こうもボクが来たことで二年生を出してきたから」

 

「向こうには後任の育成の意思は無かったという事でしょうか?」

 

「どうだろうね。ボクじゃなくて北山先輩が行ってたら、多分三年の先輩が出てきてただろうし」

 

「どうして雫さんの名前が出るのでしょうか? 普通なら風紀委員長の吉田君の名前が出るのだと思いますが」

 

 

 幹比古よりも雫の方が恐れられている事をよく知らない美月が、ある意味当たり前の疑問を泉美と香澄に呈する。だが二人は、彼氏の幹比古を軽んじられているからそんな質問が出たのだと勘違いして、美月をからかい始める。

 

「吉田先輩の事がホントに好きなんですね、柴田先輩は」

 

「恋人の事が気になるのは仕方がない事だと思いますよ? 香澄ちゃんなら分かるのではありませんか?」

 

「でもボクたちの関係と、柴田先輩と吉田先輩の関係は違うからね。分からなくはないけど、完璧に分かるとは言えないよ。泉美だって、そういう相手がいないからよく分からないんじゃないの?」

 

「私だって深雪先輩の事が気になりますもの。もちろん、私のは敬愛であって、恋愛ではありませんが」

 

「そこで同性の名前しか出てこないから、お姉ちゃんに疑われるんじゃないの?」

 

「ですから、私は別に同性愛者ではありませんわ! 深雪先輩はあくまでも敬愛の対象であって、恋愛の対象ではありませんから」

 

「というか、何で僕たちの事で七草さんたちが盛り上がるんだよ!?」

 

 

 顔を真っ赤にして俯いてしまった美月に代わり、もう一人の当事者である幹比古が二人にツッコミを入れる。

 

「だって、風紀委員においては、委員長である吉田先輩より北山先輩の方が上だってことは、学校中の人間が知っている事ですよ? それなのに吉田先輩の方が先に名前が出るべきだと言い出したら、それはもう惚気だと思うじゃないですか」

 

「そ、そうだったんですね。私、風紀委員にはお世話にならないので、そういった話を知らなかったものでして。純粋にどうして雫さんの方が先に名前が出るのだろうって思って聞いただけだったのですが……恥ずかしいです」

 

「ほ、ほら! 柴田さんもこう言ってる事だし、変な勘違いをしたことを謝って」

 

「勘違いだったのは謝りますけど、二人して顔を真っ赤にして言われても説得力に欠けると言いますか……北山先輩はどう思います?」

 

 

 この状況を黙って見ていた人間の中から、香澄は雫を選び問いかける。恐らく雫が一番冷静にこのやり取りを見ていたという判断で雫を巻き込んだのだろうと、双子の姉の行動を泉美は冷静にそう判断した。

 

「私は別に、風紀委員を裏で牛耳ってるつもりは無いんだけど?」

 

「でも、吉田委員長に言われるより、北山先輩に言われた方がみんな素直に聞くじゃないですか」

 

「それは私が牛耳っているからとかじゃなくて、吉田君に威厳が足りないからだと思うけど」

 

「あー、それはあるかもしれませんね」

 

「吉田先輩は優しい方ですからね。多少なめられても仕方がないかと思います」

 

 

 まさかの雫からも口撃を受けた幹比古は助けを求めようと視線を彷徨わせたが、助けてくれそうな人間は見当たらなかった。

 

「風紀委員を抜けたはずの達也先輩の方が、吉田先輩より恐れられてるわけですし」

 

「達也さんはそれは凄い風紀委員だったから仕方ないけど、もう二年前の話だよ? 今の一年と二年は、達也さんが風紀委員だった頃の話はあまり知らないと思うんだけど?」

 

「二科生で風紀委員になって、検挙率ナンバーワンだったという噂は漏れ聞いていますからね。それが達也先輩だってことは、少し調べればわかる事ですし」

 

「ぼ、僕の話はもういいだろ! それより達也、十三束君の事はどうするつもりなんだい? 彼、君を説得するんだって躍起になってるみたいだけど」

 

 

 露骨な話題逸らしだったが、他のメンバーも興味がある内容だったので、香澄たちも幹比古を弄る事をやめて達也の答えを待った。

 

「どうするもなにも、俺は既にディオーネー計画に参加しないと明言しているんだがな。今更何を言われたところで魔法恒星炉エネルギープラント計画を中止するわけにはいかないし、あの計画は俺が立ち上げたものだ。他の誰かに指揮権を譲るわけにもいかないしな」

 

「じゃあどうして十三束君にその事をはっきりと言わなかったんだ? はっきりと言ってあげれば、彼だって分かってくれたと思うが」

 

「今の十三束に何を言っても、ディオーネー計画に参加したくないからと思われるのがオチだ。だから自分でディオーネー計画の事を調べさせ、裏がある事を分からせる必要があったんだ」

 

「そういう事だったのか……でも、今の十三束君がディオーネー計画の裏に気づけるのかい? 君を説得するためだけに情熱を燃やしてるような気がするけど」

 

「さっき言ったが、どう説得されようと、俺がディオーネー計画に参加する事は無い」

 

「なるほどね」

 

 

 達也がはっきりと言いきったのを受けて、幹比古は何か納得したように小さく頷いたのだった。




幹比古より雫の方が怒らせたら怖いからな……

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