劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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別の事でも胃の痛い日々を送ることになってる……


幹比古への同情

 廿楽とジェニファーに捕まったお陰で、時間的にもちょうどいい具合になったので、達也はカフェには向かわずに生徒会室に向かった。

 

「達也さん、今から生徒会室?」

 

「雫か。見回りは終わったのか?」

 

「もう部活もだいたい終わってるからね。これから生徒会室に報告に行くんだけど、一緒に行ってもいい?」

 

「同じ場所に行くんだから、別々に行く必要は無いだろ」

 

 

 達也の返事に、雫は僅かに頬を緩めて達也の隣に立った。

 

「今日は何をしていたの? カフェが騒がしいって報告は無かったから、そこにはいかなかったんだよね?」

 

「行こうとは思ってたんだが、職員室前で廿楽先生とジェニファー先生に捕まって、ESCAPES計画の事や課題の事を話していた」

 

「ESCAPES計画の事は分かるけど、課題って?」

 

「俺が休んでた間の分の課題だ。授業免除のお陰で、時間はいくらでもあるからな」

 

「もう終わったって事? 相変わらず達也さんは私たちの常識の上を行く人だね」

 

「褒めてるのか、それ?」

 

 

 笑いながらのツッコミに、雫も笑みを浮かべて頷く。達也の冗談も分かりにくいのだが、それがすぐに分かるくらい一緒にいるという事なのか、雫もすぐに冗談だと見抜いていた。

 

「戻った」

 

「あぁ、北山さん。お帰り――って、達也も一緒だったの?」

 

「俺は偶々だ。生徒会室に向かう途中で雫に会って、一緒に生徒会室に行こうって話になってな」

 

「そういう事。てっきり達也が風紀委員に復帰してくれるのかと思ったよ」

 

「復帰も何も、二学期には幹比古たちも引退だろ? 今更俺が戻ってきても意味は無いと思うぞ」

 

「達也がいてくれれば、問題が起こってもすぐに解決してくれるだろ?」

 

「そんな事は無いと思うが? というか、生徒会で何かが起こった時、幹比古が何とかしてくれるのか?」

 

「それは無理だね。それで北山さん、何か問題はあった?」

 

 

 あからさまな話題逸らしだったが、達也も雫も幹比古の態度にツッコミは入れなかった。

 

「達也さんに対して良く思って無い生徒たちが、達也さんの婚約者に苛立ちの視線を向けてた以外は、平和だった」

 

「俺に直接文句を言えないから、婚約者たちを睨んでるのか? それは可哀想な事をしたな」

 

「達也さんが気にする事じゃないよ。それに、いくら睨まれたからといって、それで怯む程達也さんの婚約者たちは精神的に柔じゃないから。むしろ睨み返すくらいの勢いだよ」

 

 

 全く無い力こぶを作って見せる雫の頭を、達也は自然に撫でる。あまりにも自然なスキンシップに、雫ではなく幹比古の顔が赤く染まる。

 

「幹比古、どうかしたのか?」

 

「いや……達也と北山さんの雰囲気が急に婚約者のそれに変わったから、ちょっと恥ずかしくて」

 

「そうか?」

 

 

 達也に問われ、雫も首を傾げる。二人からすれば特に意識してのものではないので、幹比古が過剰反応しているだけではないのかと思っているのだが、恐らく幹比古が正しいのだろうと自分たちの行動を少し反省した。

 

「それで、睨んでくるだけで直接何かされたわけでは無いんだな?」

 

「そんな勇気無いと思うよ? 何かすれば達也さんに粛清されるかも――もしかしたら四葉家が出てくるかもしれないって怯えてるから」

 

「何で四葉家が?」

 

「次期当主である達也さんをUSNAに引き渡せって言いたいんだもん。四葉家が出てくるかもって思うのも無理はない」

 

「この前の十三束君との一件で、達也に対する評価は二分されちゃったからね……」

 

「人の一生を左右する問題に、他人がとやかく言う権利は無いと思うけど」

 

「十三束君に同情的な人は、達也にUSNAに行くべきだって思ってるんだろうね。余計なお世話だと分かっているのかもしれないけど、達也がUSNAに行けばすべてが解決するとか思ってるのかもしれないけど」

 

「解決どころか、魔法師の未来が無くなるだけだって分からないのかな」

 

「ぼ、僕を睨んでも意味は無いよ?」

 

 

 雫が少し怒ったような顔で幹比古を睨みつけたので、思わずたじろいでしまう。雫に幹比古をたじろがせる意思は無かったので、すぐに表情を改めてため息を吐く。

 

「十三束君もだけど、自分の都合を達也さんに押し付けてるって思わないのかな? 達也さんの人生を他人が決める権利なんて無いわけだし」

 

「頭では分かってるのかもしれないけど、そういうのは理屈じゃないんじゃないの? 実際僕たちのクラスでも、達也の事で微妙な空気になるし」

 

「B組にはエイミィがいるもんね」

 

 

 エイミィが達也の悪口を聞いて黙っているとは思えないので、達也は幹比古に同情的な視線を向ける。恐らくエイミィと他のクラスメイトが衝突するのを、クラスメイトとしても風紀委員長としても見逃せず、胃の痛い思いをしているのだろうという視線だ。

 

「達也、その同情的な視線は止めてくれないかな? 君が悪いわけじゃないって分かってるけど、恨み言の一つでも言いたくなるから」

 

「それは悪かったな。別に意図してのものではないから、気にしないで欲しい」

 

「嘘だよね? 明らかに同情してる目だったし」

 

「さぁな。さて雫、生徒会室に行くか」

 

「うん」

 

 

 幹比古への同情を止め、達也は雫を伴って生徒会室直通の階段を上がっていくのだった。




達也が動じない分、幹比古の胃が……

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