劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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四葉の諜報力はさすがだなぁ……


USNAのきな臭い情報

 放課後になり、達也は深雪たちの生徒会業務が終わるまで何処で時間を潰そうか考えていた。図書室で閲覧出来る資料は、ほぼ読み漁ってしまったし、カフェで時間を潰そうにも、また遠巻きに見られるのは勘弁してもらいたいのだ。ましてや十三束との事が学園内に広まっているので、達也の注目度はさらに増している。

 

「さて、何をしたものか」

 

 

 彼にしては珍しく手持無沙汰だったのだが、反対側からやってくる少女を見て、それは解消された。

 

「達也さん、少しよろしいでしょうか?」

 

「亜夜子か。何かあったのか?」

 

「ここではちょっと……」

 

「分かった。ちょっと待ってろ」

 

 

 達也が端末を操作し、生徒会権限で空き教室を確保し、亜夜子と二人でそこに入る。事情を知らない人間が見れば、達也が亜夜子を空き教室に誘い出して『何か』するんじゃないかという、下種の勘繰りを誘いそうなシチュエーションだが、二人が婚約者であることもだいたいの生徒が知っているし、四葉関係者であることもだいたい察しがついているので、そのような勘違いは起こらなかった。

 

「それで、何か気になる事でもあったんだろ?」

 

「はい。USNAでまた怪しい動きがあると、ミアさんを通じてリーナさんから連絡があったと、ご当主様が」

 

「リーナから? 今のリーナに対する監視はかなりのものだとは思うが、よく連絡が出来たな」

 

「何気ない会話の中に情報を織り込んだと聞いています」

 

「リーナもそれくらいなら出来る、という事か」

 

 

 元々諜報には向いていないと自分でも言っている程なので、達也はその程度も出来ないと思っていたので、リーナに対する評価を改める事にした。

 

「それで、ミアは何と?」

 

「USNA軍の中にきな臭い空気が漂っている、と。全体がピリピリして、何か良くない事が起こるかもしれないから気に掛けておいて欲しいとも言っていたようです」

 

「随分と抽象的な忠告だな……やはりリーナではそんなものか」

 

「それから、却下されたとはいえ、達也さん暗殺をUSNA軍が企画していたとも」

 

「……恐らく却下されずに、リーナが知らないところで実行段階に移ってるだろうな」

 

「それがリーナさんが感じた『ピリピリした空気』なのでしょうか?」

 

 

 亜夜子の問いかけに、達也は首を左右に振った。亜夜子の考えを否定したのではなく、達也もさすがに分からないという意思表示だ。

 

「クラーク親子が裏で何かをしているという可能性も否定出来ない。特に息子のレイモンド・クラークは、雫にフラれた事を俺の所為にしているようだからな」

 

「逆恨みですか? 男としての魅力が達也さんより低かった、と言うだけじゃないですか。そもそも、雫さんにだって選ぶ権利があるんですから、フラれたのを達也さんの所為にするなんておかしいですよ」

 

「俺がいなければ、とか考えたんじゃないか? 特にアイツは第一賢人を名乗って俺を排除しようとしたくらいだ。USNA軍を裏で動かす事くらい出来ても不思議ではない」

 

「しかし、いくらマフィア崩れしているとはいえ、USNA軍がそのような事で揺らぎますかね? 仮にも世界最強を名乗ってるくらいなのですから」

 

「何か、USNA軍が欲しがっている情報を使って操作しているのかもしれない……光宣の事もあるし、再びUSNAからパラサイトがやって来ないとも限らないな」

 

「まさか、日本の所為にして攻め込んでくるとかですか?」

 

「その辺りはまだ分からない。というか、俺にはUSNAの情報を得る手段が無いんだ。母上の方で分からない事が、俺に分かるわけ無いだろうが」

 

 

 達也のセリフに、亜夜子は満面の笑みで恍けた。達也に独自の情報網がある事は亜夜子も知っているが、そっちは今九島家の事で忙しいはずだし、USNAまでその情報網がかけられているとは思っていないからだ。

 

「兎に角、いざという時はリーナさんとミアさんを四葉で守る事になると思います。リーナさんは達也さんの婚約者ですし、ミアさんはリーナさんの付き人として、四葉家が派遣したわけですから」

 

「二人とも元USNA軍所属だったがな」

 

「今はただの一般人と変わりませんよ。既に軍を退役しているのですから」

 

 

 USNA軍との交渉は四葉家が行ったので、二人が完全に軍と切れている事は間違いない。母国に帰って情が移った可能性もない事は無いのだろうが、二人が軍に対して嫌気がさしている事は、亜夜子も実際に会って話した事で確信している。だから、今更二人が達也を裏切ってUSNA軍の作戦に加担しているなど微塵も思っていないのだ。

 

「警戒しておくことが増えたのは分かったが、実際に何をしろとか、そういう事では無いんだろ?」

 

「ご当主様も、何も出来る状況ではないと仰られておりましたし、何か起こってすぐこちらに影響があるわけではないので、当分は放置しても構わないだろうとの事です」

 

「分かった。母上には後で電話で伝えておく」

 

「分かりましたわ。それでは、私はこれで」

 

 

 制服のスカートの端を持ち上げ、片膝を折ってお辞儀する亜夜子に、達也は小さく頷いて応えただけだった。その態度が不満、というわけでもないので、亜夜子は笑みを浮かべて先に教室を後にしたのだった。




学校で話す内容では無かった

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