劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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見てわかるくらい浮かれてる深雪


上機嫌な深雪

 達也と同じ部屋で一夜を過ごした深雪は、翌日上機嫌で教室に現れた。

 

「おはよう、ほのか、雫」

 

「おはよう……深雪、何かいいことあった?」

 

「どうして?」

 

「ここ最近ピリピリしてたり落ち込んでたりいろいろあったけど、今日はなんだか明るいから」

 

「そうかしら? 昨日私の中でくすぶっていた不安が解消されたから、それでじゃない?」

 

「不安?」

 

 

 雫が首を傾げながら尋ねると、深雪は「たぶん雫たちも思っている事だったと思うけど」という前置きをしてから答えた。

 

「達也様が私たちを残してUSNAのプロジェクトに行ってしまうんじゃないかって不安よ。達也様個人がそんな事を思うはずはないけど、周りからの圧力に屈しないとも限らなかったし」

 

「達也さん個人が圧力に屈しなくても、他の人たちが屈して達也さんを差し出さざるを得ない状況を作り出される可能性はあったもんね……それでも、達也さんはディオーネー計画に参加する事は無いんだよね?」

 

「当然でしょ? というか、達也様に近しい人を人質にしようものなら、その相手は攫おうとした時点で消されちゃうもの」

 

「達也さんならそれが出来るもんね」

 

 

 この辺りは達也の魔法について知らないクラスメイト達に聞こえないよう小声で交わされた会話だが、美少女たちが顔を突き合わせて内緒話をしている図というのは、クラスメイトたちの妄想を掻きたてた。

 

「兎に角、不安も無くなった事だし、後は達也様が完全に学業に復帰為されれば残る問題は水波ちゃんだけになるわ」

 

「昨日会ったけど、目立った外傷は無いんだよね?」

 

「水波ちゃんが負った怪我は、目に見えないところだから……」

 

「大丈夫なんだよね?」

 

「達也様やお医者様が言うには、日常生活に復帰する事は出来るらしいわ」

 

 

 医者ではなく達也の名前が先にあるのはおかしい話かもしれないが、深雪に限ってはそれが普通であり、ほのかと雫も特にツッコミを入れる事も、疑問を懐く事も無かった。

 

「魔法師としては?」

 

「激しい戦闘なんかは出来ないかもしれないけど、簡単な魔法なら使えるようになるかもしれないとは仰られていたけど……」

 

「四葉家の魔法師としては駄目って事?」

 

「まだ完全にそう決まったわけでもないし、一条家の御当主のように回復する可能性だってあるもの。決めつけるにはまだ早いわ」

 

 

 これはほのかに向けられた言葉ではあったが、雫には深雪が自分自身に言い聞かせているようにも聞こえていた。

 

「水波がいないと、深雪は自分の事を自分でしなきゃいけないんでしょ?」

 

「そうね。でも、水波ちゃんがいてもそれなりに自分の事は自分でしてたから、その点での不便は感じてないわよ」

 

「そういえばあのマンションって、セキュリティがこっちの新居以上なんでしょ? 深雪一人だからって危険があるとは思えないね」

 

「そもそも、深雪を襲った時点でその人の人生は終わる」

 

「雫、それはどういう意味かしら?」

 

「だって、深雪を襲おうとすれば達也さんが気づかないわけがないし、達也さんが来るまでの間は、四葉家の人たちや深雪自身が時間を稼ぐことだって出来るでしょ? だから、襲った時点で逃げ出さないと駄目って事だよ」

 

「そもそも逃げるくらいなら襲わなければ良いのにって感じだけどね」

 

 

 深雪だけでも十分に厄介なのに、そこに四葉家の魔法師やましてや達也が加わったら、万に一つも勝ち目はないとほのかと雫は頷きあった。深雪も二人が冗談で言っているという事は分かっているので、少し苦めの笑みを浮かべるだけでそれ以上ツッコミは入れなかった。

 

「もし大変そうなら、こっちに来てもいいけど」

 

「でも、私たちだけで決められないでしょ? 他の人たちの意見も聞かないとだし」

 

「達也さんがOKっていえば、誰も文句は言わないと思うけど」

 

「大丈夫よ。私はあのマンションで生活していた方が、四葉家としても楽なのよ。わざわざ護衛を派遣する必要もないしね」

 

「学校には達也さんがいるし、送り迎えは駅までで十分だもんね」

 

「一高周辺で深雪を襲うなんて人が、未だに残ってるとは思えないし」

 

 

 魔法師排斥運動での騒動や、先日の発砲事件などで一高周辺のセキュリティの強化は早急に進められており、ましてや達也の活躍が大々的に報道されている今、深雪を襲えばどうなるかなど想像に難くない。

 

「達也様が常に私の側にいてくださるわけじゃないのだから、その隙を突かれたらちょっと厄介よ?」

 

「深雪だってレベルアップしてるんだし、死角から襲われても敵を氷漬けにして終わりでしょ? もちろん、永遠にって事は無いだろうけど」

 

「そうかしら? でもまぁ、前より精度も上がってるから、一日もあれば溶けるんじゃないかしらね。試した事は無いから分からないけど」

 

「くれぐれも誰かで試そうだなんて思わないでよ?」

 

「当たり前でしょ? それともほのかは、私が誰彼構わず凍らせると思ってるのかしら?」

 

 

 少し底冷えのする雰囲気を纏った深雪に対して、ほのかは全力で首を左右に振る。もちろん深雪の冗談だとほのかも分かっているのだが、この雰囲気を前に平常心を保っていられる程、ほのかの神経は図太くなかったのだった。




襲った時点で人生終了な相手……

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