劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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またの名を自殺行為……


妨害命令

 バランス、リーナ、カノープスが退室した後。少し時間をおいて、ウォーカー大佐はスターズ第三隊のアークトゥルス隊長と、第四隊のベガ隊長を呼び出した。

 

「アレクサンダー・アークトゥルス大尉、参りました」

 

「シャルロット・ベガ大尉、参りました」

 

「入れ」

 

 

 ウォーカーが二人の隊長を指令室に招き入れる。本人たちが名乗ったように、二人の階級はともに大尉。リーナとカノープスより下の階級だが、そもそも総隊長であったリーナと同階級の者が六人もいるというスターズの現組織形態がおかしいのであって、隊長のアークトゥルスとベガが総隊長だったリーナより階級が下なのはある意味普通の事だった。

 もっとも、リーナと同じ女性でリーナより十歳以上年上のベガは、階級で劣っている事に不満を懐いている。その所為で、ベガはリーナと折り合いが悪かった。ベガが年下のリーナを一方的に敵視している状態だ。

 アークトゥルスは、リーナに対して反抗的ではないが、親密とも言えない。一昨年のクリスマスイブ前日に処断された――リーナに殺されたフォーマルハウト中尉は、アークトゥルス大尉が統括する第三隊の隊員だった。パイロキネシスの異能を使って大量殺人を犯したフォーマルハウトは、処断されて然るべきだったとアークトゥルスは納得しているが、軍事法廷で弁明の機会を与えず、抵抗したとはいえその場で射殺したリーナのやり方を快く思っていないのも事実だった。

 ウォーカーが二人を選んだ理由には、リーナやカノープスと心理的な距離があるから、という事情が間違いなくあった。

 

「これから君たちに話す任務は、一切他言無用だ。総隊長のシリウス少佐にも伝えてはならない」

 

「了解しました、サー」

 

 

 アークトゥルスは命令に従う旨を応えながらも訝し気に眉を顰めたが、ベガは目を輝かせている。リーナを出し抜けるのが嬉しいのだろう。

 ウォーカーはベガが見せた個人的な感情に気付いていたが、特に叱責はせず任務について話を進めた。

 

「日本の戦略級魔法師、司波達也が計画しているエネルギープラントの建設を妨害せよ。なお妨害の手段には、司波達也の暗殺を含む」

 

 

 アークトゥルスが目を見開いて驚きを露わにする。

 

「小官とベガ大尉で、司波達也を暗殺せよとのご命令ですか?」

 

「プロジェクトの妨害が第一目標だ。それが達成出来れば、暗殺は必要ない」

 

「妨害が困難であれば、暗殺でも良いという事ですね?」

 

 

 すかさず、ベガが口を挿んできた――笑顔で。

 

「元々『グレート・ボム』と仮称していた時期から、あの質量エネルギー変換魔法は、手に入らなければ最終的な無力化もやむを得ないという方針だった。そこに変更はない。現在はディオーネー計画を通して無力化する事を第一案として優先しているだけで、それが上手くいかなければ、本来の計画に立ち戻るだけだ」

 

「了解であります」

 

 

 アークトゥルスはやはり気が進まない様子ではあったが、任務を納得して受諾した。それとは対照的にベガは、やる気に満ち溢れていた。

 彼女は女性士卒間の情報ネットワークで、リーナが最初に日本に行った後から達也に好意を懐いていた事を知っている。まだ婚約者ではなくスターズの総隊長だった時から「潜在的に」ではあるが「最大の脅威」であり「最大の敵」になるかもしれない男に心を寄せるなど、USNA軍人としてあってはならない事だ。

 自分が先輩として、司波達也の首を突きつける事で、リーナをスターズに引き戻そう。ベガはそんな建前で、張り切っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルフレッド・フォーマルハウト中尉の凶行はスターズ各隊員の心に影を落とし、一等星級隊員である彼の処分はスターズ内部にしこりを残していた。特にフォーマルハウトと同じ第三隊に属し、彼と特に親密な付き合いをしていたジェイコブ・レグルス中尉は、事件の真相を未だに調べていた。

 フォーマルハウトの凶行はパラサイトに憑依されたからだというのが、今では一応の極秘公式見解になっている。超自然的な存在に対する心理的抵抗は、魔法の実用化によって薄れていたし、フォーマルハウトを解剖した結果、人間には存在しないはずの器官が脳で発見されている。どんな自称リアリストも、パラサイトの存在を否定するのは難しかったのだ。

 パラサイトに憑依されてパイロキネシスの特殊能力を持ったまま凶暴化してしまった。それで市民を何人も殺害した件については説明がついたが、それだけではレグルスを納得させることが出来なかった。いったいどういう経緯で、フォーマルハウトはパラサイトに取り憑かれたのか。

 事件の直前、フォーマルハウトは単独任務に出ていた。別行動になる前は、彼に異常は見られなかった。だから単独任務中に憑依されたのは間違いない。問題はそれが、何時、何処で、そして何者の手によって為されたのかだ。

 偶然だというなら、パラサイトの発生条件を解明して再発を防止しなければならない。この方面には、多くの科学者が精力的に取り組んでいる。実験して確かめられないから仮説止まりはあるが、既にマイクロブラックホール実験が原因だったという結論で固まりつつある。今はそのメカニズムについて議論が交わされているところだった。

 だからレグルスが調べているのは、パラサイトの出現が偶然では無かった場合の事だ。誰がパラサイトを呼び出して、フォーマルハウトに憑依させたのかを調べているのだった。




USNA軍はろくな事しないな……

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