劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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ちょっと極端かもしれないが……


達也の生活

 エドワード・クラークとの面会を終えた達也は、そのまま調布のマンションへと向かう。その途中で雫の電話に着信があったが、雫はそれには出ずにただただ前を見ていた。

 

「出なくて良いのか?」

 

「構わないよ、後でかけ直せば。それよりも達也さん、何でレイがあの場にいたの?」

 

「父子だからいてもおかしくないだろうとは思っていたが、何でいたのかは俺にも分からない」

 

「父子なの?」

 

「USNAでホームパーティーなどに招待されなかったのか?」

 

「レイとはそんな関係じゃなかったから」

 

 

 あっさりとレイモンドの事を斬り捨てた雫を見て、達也は少し彼に同情した。少なくとも達也には、レイモンドが雫に友人以上の感情を向けている事が分かっていた。

 

「もしかしてさっきの電話」

 

「うん、レイから。情報収集の為に番号を教えたのが失敗だったかも」

 

「随分と辛辣だな」

 

「達也さんを宇宙に追いやろうとしてるヤツには、これくらい当然だと思うけど」

 

 

 普段感情を表に出す事が少ない雫が、あからさまに嫌悪感を懐いているのを見て、達也は自分がどれだけ愛されているのかを理解し、優しい笑みを浮かべながら雫の頭をなでる。

 

「なに?」

 

「いや、俺にはもったいない人たちばかりだと思ってな」

 

「それは私たちのセリフだよ。本当に達也さんは私たちにはもったいないくらい良い人なんだから」

 

「俺が善い人なわけないだろ? しょっちゅう『悪い人』だとか『腹黒い』とか言われてるんだから」

 

「達也さん、わざとはぐらかしてるでしょ?」

 

「俺だって面と向かって言われると来るものがあるんだ」

 

 

 本当はそんなことは無いのだが、達也は何となくはぐらかさなければいけない気分になったのだ。だが雫は達也の言葉を疑うこともせず、少し反省したような目で達也の事を見詰めた。

 

「ごめんなさい。でもさっきのは私たちの本音だから」

 

「私『たち』?」

 

「ほのかやエリカ、エイミィたちもきっと同じ思いだよ。達也さんを地球上から追いやろうとするやつらに怒りを覚え、達也さんを何としても守ろうと思ってる。でも私たちの力なんかなくても、達也さんは自分で居場所を作り出したけどね」

 

「俺一人だけの問題なら、別にあいつらの計画に付き合ってやっても良かったがな。金星開発は確かに人類の為になるだろうから」

 

「でもっ!」

 

「だが今は俺一人の問題ではないからな。大勢の婚約者や、家の問題だってあるんだ。あいつらの目論見に付き合ってやる必要は一切ない」

 

 

 達也がディオーネー計画の表向きに発表された事を認めている事に焦りを覚えた雫だったが、続きの言葉を聞いてすぐに冷静さを取り戻した。

 

「達也さん、本気でそんな事思って無いでしょ?」

 

「当たり前だろ? あいつらの計画はあくまでも俺を地球上から追いやる事なんだから」

 

 

 その目的が分かっていて付き合ってやるほど、達也も暇ではない。ましてや名誉の押し売りで達也をUSNAに差し出せと騒いでいる日本政府の相手をしている暇は、今の彼には無いのだ。

 

「さて、そろそろ深雪たちの家に着くな」

 

「私、深雪の家に行くの初めて」

 

「引っ越してからは、何かと忙しかったからな」

 

「ううん、前の家にも行った事が無いんだよ。達也さんたちの家には、なんだか近づいちゃいけないような気がしてたから」

 

「そんな事は別になかったんだが……まぁ、あそこにはいろいろと見られたらマズい資料とかはあったから、来たいと言われても簡単には呼べなかっただろうがな」

 

 

 再従兄弟である文弥ですら、達也たちの家に気軽に来れる間柄ではなかった。血縁者でもない雫たちが簡単に来られるわけがなかったのも仕方がないのだが、雫は少し残念そうな表情を浮かべた。

 

「今の家に不満があるわけじゃないけど、達也さんが元々していた生活を見られなかったのは残念」

 

「今と大して変わってるわけではないがな」

 

「そうなの?」

 

「家にいる大半は地下室で作業していたか、深雪とお茶を飲んでいたくらいだからな」

 

「達也さんって、常に忙しくしてるか深雪の相手をしてるかしかなかったの?」

 

「家にいるのに、他にする事があるのか?」

 

「……あんまりないかも」

 

 

 雫は達也たちの家に親がいない事も知っているので、親と話したりしないのかという地雷は踏まなかった。もっとも達也にとっては地雷でも何でもないのだが、雫はそこにもちゃんと気を遣ったのだ。

 

「達也さんが料理をするわけないもんね。出来る出来ないの問題じゃなく、深雪や水波ちゃんがさせてくれなかっただろうし」

 

「そうだな。お茶を自分で淹れる事すら許してくれなかったからな。今もピクシーが許してくれないが」

 

「ピクシーの中にいるのはほのかの感情をトレースしたパラサイトだもんね。ほのかだったらそうするだろうから仕方ないよ」

 

「仕方ない事なのか?」

 

「うん。私だって達也さんの手を煩わせたくないって思う」

 

「煩わしいって思う程、俺はものぐさではないんだが?」

 

「達也さんがそう思ってても、私たちは達也さんのお世話をしたいんだよ」

 

 

 力強く言い放った雫に、達也は苦笑いを浮かべるしかなかった。同じことを深雪やほのかに聞いても同じ答えが返ってくるだろうと分かるだけ、達也は彼女たちの気持ちが理解出来ているのだった。




達也が興味を向けられるモノが少ないしな……

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