劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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常に先の問題を考える達也


残る問題

 深雪と水波を調布のビルに送り届けた後、達也はそのまま新居に向かった。学園で顔を合わせた雫やほのかたちが伝えたのか、達也が新居に到着するとすぐに、真由美が出迎えに来た。

 

「お帰りなさい、達也くん」

 

「どうしたんですか? わざわざ出迎えてくれなくても、ちゃんと挨拶にはいきましたのに」

 

「だって、せっかく達也くんがこの家に帰ってきてくれるんだから、いち早く出迎えたかったのよ」

 

「そんなものですか?」

 

「そんなものよ。それより、リンちゃんが達也くんにお話しがあるみたいだから、部屋に戻る前にリンちゃんに話しかけてあげてね」

 

「鈴音さんが?」

 

 

 恐らく今日の会見についてだろうと、達也は鈴音の用件をそう決めつけ、鈴音が待っている共同スペースへと向かった。達也が顔を出すと、丁度今日の記者会見の録画映像が流れていたので、達也は少し居心地の悪さを覚えたが、逃げ出す必要もなかったのでそのまま腰を下ろした。

 

「お帰りなさい、達也さん」

 

「鈴音さんは今見終えたんですか?」

 

「講義が立て込んでいたもので」

 

「七草先輩は話題にしませんでしたが」

 

「真由美さんにはあまり理解の及ばない分野みたいですから」

 

 

 達也と鈴音は顔を見合わせ、人の悪い笑みを浮かべあった。だがすぐに真面目な表情になり、鈴音は達也に計画の詳細の説明を求めた。

 

「前々から達也さんが恒星炉を使ったプロジェクトを考案していたのは知ってましたが、これほどまで大規模にする必要はあったのでしょうか? ディオーネー計画に関しては、普通に不参加を表明すればよかったのではありませんか?」

 

「それで政府や世間が納得するのならそうしましたが、第一賢人――レイモンド・クラークがトーラス・シルバーの正体を明かしたつもりになった時点で、小細工程度で不参加が認められない状況になってしまいましたから」

 

「魔法大学でも、達也さんにディオーネー計画に参加しろと騒いでいる輩がいましたので、今日の会見は見ててスカッとしました」

 

「このプロジェクトが成功すれば、鈴音さんの目標でもある、魔法師を兵器としての宿命から解き放つことが出来るでしょう」

 

「達也さんだから、これほど早く達成出来たのであって、私だけでしたら、私が生きている間に達成出来たかどうかすら怪しいです」

 

 

 鈴音も他の学生と比べれば多彩な知識と集中力を持ち合わせているが、それはあくまでも学生としてであって、達也のように世間でも通用するかどうかは怪しいところだと思っている。だから達也と婚約してからは、あくまでも手伝いという立場をとり、自分の夢を達也に託した形を取っていたのだ。

 

「卒業後は、達也さんのプロジェクトに参加させてもらいたいです」

 

「鈴音さんなら、問題無く参加出来るでしょう。もちろん、卒業するまでに気持ちが変われば、参加する必要は無いですけど」

 

「本当なら今すぐにでも参加を表明したいところなんですが」

 

「大学は通っておいた方が良いと思いますよ」

 

 

 わざわざ中退させる必要性は達也は感じていないので、鈴音にはしっかりと大学で学んでから参加してもらいたいと告げる。鈴音もそれは分かっているので、無理に今すぐ参加するとは言わなかった。

 

「それで、この会見で本当にエドワード・クラークは大人しくなるのでしょうか?」

 

「明日、直接会って不参加を告げるつもりです。それで大人しくなればいいのですが、恐らくはならないでしょうね」

 

「そうなった時の対策は、既に取ってあるのですか?」

 

「裏社会の権力者に協力をしてもらえるので、日本政府が文句を言ってくることは無くなるでしょう。それに、無理してディオーネー計画に参加しなくても、こちらの計画でも魔法師でない人にも有益な結果を得る事が出来ますので、魔法師の立場は改善されます」

 

「世間が達也さんのように考えられれば、大手を振ってこちらに戻ってこれるのでしょうが……」

 

「別に威張り散らすつもりは無いんですがね。まだ当分は伊豆の方で大人しくしてますよ。ベゾブラゾフがどういう行動に出るかもわかりませんし」

 

「……まさか、トゥマーン・ボンバを使ってくると考えているのですか?」

 

 

 達也がエドワード・クラークだけでなく、ベゾブラゾフの動向を気にしていると気づき、鈴音は眉を顰め尋ねた。幾ら何でもそれは考え過ぎだという思いと、達也をどうしてもディオーネー計画に参加させたいという思いが、達也を消し去りたいという思いに変わって攻撃を仕掛けてくる可能性があるという考えを同時に懐いた故の表情だ。

 

「考え過ぎで終わればいいのですが、奴らの目的は俺を地球上から追いやる事ですから。宇宙に放り出せないなら消し去ろうと考えてもおかしくないでしょう。元々、おかしな理論を振りかざして人を強制的に参加させようとしている人間ですから」

 

「では達也さんは、私たち婚約者を巻き込まない為に、伊豆に引っ込んだというわけですか?」

 

「それもありますが、マスコミ連中が煩わしかったのも嘘ではありませんよ」

 

 

 幾ら他人に興味が無い達也でも、ずっと貼り付かれていれば鬱陶しさも覚える。だから真夜が伊豆に向かえと言ってきた時は、あまり悩まずにその提案に乗ったのだ。

 

「さて、何か進展があったら鈴音さんにも連絡しますよ」

 

「ありがとうございます。頑張ってくださいね」

 

 

 他の婚約者たちもうずうずしているのを気配で感じ取った達也は、そう告げて鈴音の前から移動する事にしたのだった。




リンちゃんの出番は、もう原作ではないのかな……

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