劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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にやにやシーン突入


深いレベルでの触れ合い

 水波は思う存分「お世話」をした後、深雪を浴槽に放り込んで、自分は手早く入浴を済ませた。深雪は何やらぐったりしているが、水波は充実の一時を味わって浴室を一緒に出た。そこに用意されていた衣装は、深雪と水波、どちらにとっても予想外の代物だった。

 

「水波ちゃん、これ、白衣よね……?」

 

「白衣ですね……」

 

 

 深雪が手に取ってい広げているのは、神社で巫女が着ている白い着物だ。

 

「……こちらは緋袴のようです」

 

「……そうみたいね」

 

 

 そしてその隣には、巫女装束の象徴ともいえる緋色の行灯袴が畳んでおいてあった。

 

「襦袢と腰巻が無いみたいだけど……白衣を直接着なさいということかしら?」

 

「達也さまのお言葉をそのまま解釈すれば、そうなるかと」

 

「そうよね」

 

 

 深雪は仕方がないという顔で白小袖を纏う。布の感触は予想外に柔らかく、気持ちが良かった。次に緋袴を穿く。穿き心地は足首まであるロングスカートのようで、下着を着けていないと何となく恥ずかしい。

 二人が脱衣所から出ていくと、入れ替わりに達也が入浴した。達也が上がってくるまでの間に、二人は髪を乾かす。深雪の長い髪は、時間を掛けて乾かす必要がある。特に今回は「匂いがある物を使うな」という達也のリクエスト付きだ。髪の手入れが終わった時には、達也は風呂を終えていた。

 

「深雪、良いか?」

 

「はい、どうぞ」

 

 

 深雪が鏡の前から立ち上がり、扉へと振り向く。扉を開けて入ってきた達也は、白小袖に白袴という衣装だった。特に紋のようなものは入っていない、完全に無地の白だ。

 

「深雪、ついて来てくれ。水波はもう休んで良いぞ」 

 

 

 またしても何の説明もなく達也が背中を向ける。深雪は水波と顔を見合わせて、一人で達也の後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也が深雪を連れて行った部屋は和室だった。正方形の緋毛氈が畳の上に敷かれ、その四隅に盛り塩がしてある。緋毛氈の中央には、白木の三方。三方の上には白い瓶子が一つと白磁の杯が二つ載っている。達也は三方の前に両膝を折って座った。

 

「深雪も座ってくれ」

 

 

 達也に促され、深雪は三方を挿んで向かい側に座る。

 

「誓約の性質について説明する」

 

 

 いきなり告げられた言葉に、深雪の背筋が更にピンと伸びた。

 

「津久葉家の誓約は、効果ではなく仕組みで言えば、相手に自分の望む魔法を使わせる術式だ。相手に自分の精神を操作する魔法を使わせる。魔法のプロセスに介入する魔法とも言えるだろう。その為、魔法師相手でなければ効果が薄い」

 

 

 理解の印に、深雪が頷く。

 

「魔法のプロセスへの介入という性質上、誓約は意識の深層『ゲート』の近くに仕掛けられる。そのシステムはゲートキーパーに近いと言える」

 

「達也様が開発されたゲートキーパーに、ですか?」

 

「そうだ。誓約が魔法を使わせる術式で、ゲートキーパーは魔法を使わせない術式。システムが類似するのも当然かもしれない。故に誓約は、ゲートキーパーの応用で完全に消去出来るはずだ」

 

 

 達也が三方から杯を取り、一つを深雪に差し出す。深雪は戸惑いながらそれを受け取った。達也は空いた手で瓶子の蓋を取り、持ち上げて注ぎ口を深雪の方へ向ける。

 

「あ、あの……?」

 

「酒ではないから安心して良い」

 

 

 深雪が困惑気味なのはアルコールを勧められたと勘違いしたからではなく、三々九度の儀式のようだと思ったからだった。三々九度なら杯は大中小の三つが用意されるのだが、雰囲気はそっくりだった。

 深雪がおずおずと杯を差し出し、達也はそこに透明の液体を注いだ。深雪が杯を顔に近づける。匂いは全くしない。彼女は覚悟を決めてその液体を一気に飲み干し――微妙な表情を浮かべた。まったく味がしなかったからだ。

 

「達也様……これは?」

 

「純度の高い水だ。容器や室内環境の問題で超純水とまではいかないが、それに近いレベルまで不純物を取り除いてある」

 

 

 達也が深雪に瓶子を差し出す。深雪は瓶子を受け取って、達也の杯に水を注いだ。

 

「あの……水杯、という意味ですか?」

 

 

 水杯は別れを意味する。深雪の声は、少し震えていた。声だけでなく、瓶子を持つ両腕も。

 

「いや、違う。それなら純水を使うような手間をかけるはずがないだろう?」

 

 

 達也が杯の純水を飲み干して、そう答えた。

 

「そう、ですね……」

 

 

 深雪の震えが止まった。達也が杯を三方に戻す。深雪もそれに倣って、まず瓶子を、続いて杯を三方に置いた。

 

「今のは身を清める為の儀式だ。もちろん、抽象的な意味でだが。純粋な物質を取り入れる事で、心身の純度を高める。肉体に害がない純粋な飲食物という条件では、水が最も手頃だ」

 

 

 達也が三方を横に退けた。達也と深雪の間を遮る物が無くなる。

 

「意識の再深層に仕掛けられた誓約に干渉する為には、こちらも深いレベルで触れ合わなければならない」

 

「達也様……?」

 

 

 冗談ですよね? と尋ねようとしたが、深雪のセリフは続かなかった。

 

「何だ?」

 

「――っ!」

 

 

 達也にこの上なく本気の眼差しを返され、深雪の意識は真っ白に、目元と頬は真っ赤に染め上げられた。

 

「あ、あの、私……初めては、出来れば、その、お布団の上の方が……」

 

 

 顔を背け、全身で恥じらいを表現しながら、顔泣くような声で深雪が訴えた。




このまま本番だと、指定入っちゃいますから

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