劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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原作では武者修行でしたが……


エリカの進路

 ほのかたち生徒会役員、それに雫と香澄の風紀委員コンビ、詩奈を待っていた侍朗の組み合わせで駅に向かっていた深雪は、背後から彼女を呼ぶ声に足を止めて振り向いた。

 

「あら、エリカたちも今帰りなの? 今日は遅くなったから、もうみんな帰ったかと思っていたのだけど」

 

「見回りの人に追い出されちゃった」

 

「カフェテラスで試験勉強をしていたら、こんな時間になっていた事に気が付かなくて……」

 

 

 深雪の問いかけに、エリカがあっけらかんと、美月が恥ずかしそうに答える。

 

「もうすぐ定期試験ですものね」

 

 

 美月の答えに、深雪が頷く。魔法科高校の定期試験は魔法学関係科目と魔法実技。一般科目は筆記試験を行わず日常点で評価。これは三年生になっても変わらない。美月は魔工科だから試験内容が少し違うが、一科と二科は同じ試験を行うから、幹比古とエリカ、レオが一緒に勉強していても不思議はない。

 

「今まで勉強会なんかしてなかったのに」

 

 

 雫のツッコミは言葉足らずだった。正確には「達也がいないのに放課後に学校に残って勉強会なんかしたこと無かったのに」だ。

 

「最近成績が上がってきたし、俺もちょっと魔法大学を狙ってみようと思ってよ」

 

 

 尤も、雫の言葉が足りないのは今更なので、そんな事は気にせずレオが少し照れくさそうに答えた。

 

「あたしは大学に行く気、無いんだけど、この馬鹿が必死に勉強してるのにあたしだけ勉強してないなんて何だか恥ずかしいからね。達也くんに怒られない程度に頑張ってみようかと思って」

 

「馬鹿とは何だ!」

 

「賢いつもりなの? 上位に名前なんて入った事ないのに」

 

「はいはい、エリカちゃんもレオくんも痴話喧嘩は止めようね」

 

「美月こそ、ミキと付き合い始めていつも以上に気合いが入ってるんじゃないの?」

 

 

 エリカとレオの楽しそうな口喧嘩に美月が割って入ったが、思わぬカウンターを喰らって美月と幹比古の方が顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。

 

「えっ、柴田先輩、漸く吉田委員長と付き合い始めたんですか?」

 

「詩奈さんまで……」

 

 

 美月や幹比古とそれほど親交が無かった詩奈から見ても、美月と幹比古の関係は煮え切らないものだったのだろう。付き合っていると聞かされ、なんだか嬉しそうな表情を浮かべている。

 

「あたしは卒業したら達也くんのお手伝いでもしようかと思ってるから、進学するつもりなんてないのよ」

 

「達也さんのお手伝い? でもエリカ。達也さんも大学に通うと思うけど、その間は何をするつもりなの?」

 

 

 ほのかの何気ない言葉に、エリカは考え込んで手を打った。

 

「そっか。達也くんも進学するつもりなら、あたしも進学した方が一緒にいられる時間が確保出来るってわけね。深雪たちは間違いなく進学して、達也くんと一緒にいるのに、あたしだけ家でお留守番なんて面白くないわね」

 

「何でその事に気付かなかったの?」

 

「いや~、達也くんの頭脳なら、大学に行く必要なんてないって思ってたんだけど、深雪たちが進学するなら、達也くんも大学に通う必要が出てくるのよね。失念してたわ」

 

「エリカちゃん、頭は良いんだからもっと早くから勉強すれば、今頃は必死になって勉強する必要なんてなかったのに」

 

「ちょっと美月、頭『は』ってどういう意味かしら? 他はダメだって言いたいのかしら?」

 

「そ、そんな事言ってないよ!?」

 

 

 完全に無意識だった美月の言葉に、エリカは割かし本気で問い詰めている。焦る美月を他所に、七草姉妹の視線は幹比古に注がれていた。

 

「な、なに?」

 

「彼女がピンチなのに、吉田先輩は助けて差し上げないのですか?」

 

「所詮その程度の気持ちだったって事じゃないの?」

 

「なっ!?」

 

 

 君主危うきに近寄らずを決め込んでいた幹比古だったが、後輩にそう言われては無関心を貫き通す事は出来なくなってしまい、やられると分かっていながらエリカと美月の間に割って入り、案の定エリカに一撃喰らわされたのだった。

 

「ふぅ、すっきりした……あっ、ところで深雪。今度の日曜日、達也くんの所に行ってもいいかな? あたし一人じゃなく、みんなで」

 

「さっき勉強しながら、みんなでそんな話をしたんです」

 

「……何か用があるというわけじゃないんですけど」

 

「なんつうか、たまには顔が見たくて」

 

 

 エリカのセリフに、美月、幹比古、レオの順に続いた。

 

「……ゴメンなさい。今度の日曜日は、別のお客様がいらっしゃるそうなの」

 

「それって……」

 

「エリカ」

 

 

 深雪が何かを言い淀んだのが気になり問い掛けようとしたエリカに、雫が口に指をあてて首を左右に振った。それだけでエリカは誰が来るのかを察知し、雫に対して小さく頷いたのだった。

 

「本当は言ってはいけないのかもしれないけど……お客様は、十文字先輩たちよ」

 

 

 エリカは納得しても他の三人が首を傾げているので、深雪は表向きの来客の名を告げた。それで三人とも克人が何の用事で達也を訪ねるのかに思い当たった。

 

「それじゃあ仕方ないね」

 

「達也は授業を免除されているから、テスト勉強も必要ないもんな」

 

「そもそも、達也さんは勉強しなくても試験で苦労しそうにありませんしね」

 

 

 三者三様で納得してる横で、エリカは三人を見ながら何かを考えていた。深雪はこれ以上巻き込むのは良くないと考えているのだが、エリカは一人でも多くの味方を作ろうと考えていたのかもしれない。




「たち」が重要です

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