劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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もちろん武力ではありません


達也VS百山

 校長室では、百山校長、八百坂教頭と、三年E組の指導教諭、ジェニファー・スミスが達也を待っていた。重厚なデスクの奥に百山が座り、そのデスクの横に八百坂、八百坂の斜め後ろにジェニファーが立つという布陣で、達也がデスクの前に立つと、百山は前置きを省いて問いかけた。

 

「早速だが確認したい事がある。司波達也君、君がトーラス・シルバーなのか?」

 

「何故そのようなことを?」

 

 

 達也は百山の質問に答えず、質問で返した。生徒と校長という関係を考えれば失礼な行為だが、百山は特に気分を害した様子を見せなかった。達也が答えないと予測していたような態度だ。

 

「アメリカ大使館を通じて、USNA国家科学局、USNAから書状を受け取った。昨日、わざわざ私の自宅に大使館員が持参したのだ。これがその書状だ」

 

 

 百山がデスクの引き出しから白い封筒を取り出してデスクの上に置く。達也はその封筒に視線を向け、すぐに興味なさげに百山に視線を戻した。

 

「ここには『トーラス・シルバーこと、ミスター達也・司波がディオーネー計画に参加出来るように取り計らってほしい』という趣旨の依頼が書かれている。UNSAは君がトーラス・シルバーであると断定し、プロジェクトへの参加を求めてきた」

 

「校長先生。例え自分がトーラス・シルバーだろうと、学業を中途で放り出すつもりはありません。もっとも、自分はトーラス・シルバーではありませんが」

 

 

 達也は「トーラス・シルバーか?」という質問に否定の答えを返す。彼はあくまで「トーラス・シルバーのシルバー」であるので、嘘は吐いていない。

 

「我が校の生徒が国際的な魔法プロジェクトに招かれる。これは名誉な事だと私は考えている。もちろん、私だけではない。魔法大学の学長も同じ意見だ。君がUSNAのプロジェクトに参加するなら、当校の卒業資格と魔法大学への入学資格を与える。プロジェクト参加により魔法大学の授業が履修出来ない場合は、プロジェクト参加期間に応じて自動的に単位を与え、期間が四年に達した時点で魔法大学卒業資格を授与する」

 

 

 百山の言葉に、達也は苦笑いを禁じ得なかった。どうやら百山や魔法大学の学長は、名誉に目がくらんでディオーネー計画の裏の目的には気づいていない様子だった。

 

「そのような空手形を信用しろと?」

 

「私の地位と名に懸けて保証しよう。スミス教諭。司波君は既に、本校卒業に相当する知識と技術を習得しているのではないか」

 

 

 百山は達也の皮肉にも気づかず、ジェニファーへ顔を向けた。ジェニファーは気が進まないが仕方なく、という口調で百山の問いかけに応える。

 

「仰る通りです。去年の恒星炉実験一つを取ってみても、司波君は既に魔法大学卒業生レベルに達していると私は評価します」

 

「そうか」

 

 

 百山はジェニファーに向かって頷き、達也へ視線を戻した。ジェニファーが込めた皮肉には気づかずに。

 

「司波君。君も自分よりレベルが下の授業で時間を無駄にするのは本意ではあるまい?」

 

「自分は当校の授業を無駄だとは考えておりませんが。それに、無駄かどうかを判断するのは校長ではなく自分です」

 

「謙遜はしなくても良い」

 

 

 百山は達也の発言を心にも無いものとして取り合わなかった。達也も本心からの言葉では無かったが、別に方便のつもりもなかった。

 

「とはいえ君も、すぐには結論は出せないだろう。幸い、USNAは回答期間を定めていない。今日を以て司波君の授業出席を免除するから、よく考えてみなさい」

 

「必要ありません。参加するつもりなど毛頭ありませんので」

 

 

 達也はあえて挑発的な口調で百山に答える。百山の本音は、能動空中機雷の件で面倒な事になっているのと、USNAから達也への説得を押し付けられるのを避けたいという気持ちが色濃く出ているのを達也は感じ取っており、また自分が校長を務めている学校から国際プロジェクト参加者が出る優越感に浸りたいのかもしれないという邪推もしているので、最初から取り合うつもりなのなかったのだ。

 

「そう考えを急ぐ必要は無いだろ。今まで通り施設を使ってもらっても構わないし、授業に参加するのも自由だ。だが授業に出なくても履修したものとして取り扱うし、定期試験も受ける必要は無い。すべてをA評価として処理する。だからもう少しゆっくり考えると良い」

 

 

 達也の態度に苛立ちを募らせた百山に代わり、横から八百坂が口を挿んだ。八百坂の立場からすれば、百山の援護射撃をするのは当然なのだが、彼は人一人の人生を勝手に決めつけて良いものかという考えも持ち合わせているので、百山のように強制的な雰囲気ではなく、あくまで考える時間を与えるという雰囲気で提案した。

 

「分かりました。教頭先生の申し出の通り、少しお時間を頂戴します」

 

 

 達也は百山から向けられる憤怒の視線には取り合わず、あくまで八百坂の提案を受け入れるという体で今回の件を保留とする態度を見せた。校長室を辞す時も、何時も通り綺麗な一礼をしてから部屋から去っていったのを見て、百山は舌打ちを我慢出来なくなっていた。

 

「校長、あのような態度は如何なものかと思いますが」

 

「国際プロジェクトに参加しないなど、何を勘違いしてるんだアイツは」

 

 

 出生の件から達也の態度が気に入らない百山は、本人がいなくなったのをいいことに悪態を吐きまくったのだった。




所詮屑だったと……

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