劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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それが一番いいと思う


現状の最善策

 顔を顰めながら風紀委員会本部に戻っていった幹比古を見送り、深雪は生徒会役員に指示を出す。

 

「先ほど吉田委員長が仰られたように、我々は学園に流れている根も葉もない噂を断絶させるために、噂の出所を探ります。先ほど吉田委員長が問答無用での攻撃は慎むようにと申されましたが、私としては見つけた時点で攻撃してもいいと思っています」

 

「ですが深雪先輩、校内での自衛目的での魔法の行使は、吉田委員長が言われたように問題になってしまうのではないでしょうか?」

 

「その辺りの改竄は、ピクシーがしてくれますので」

 

『お任せください。マスターを悪く言う人間など、攻撃されて当然ですので』

 

 

 改竄にやる気を出しているピクシーを見て、達也が呆れながらツッコミを入れた。

 

「ちょっとした改竄ならまだしも、そういう事をするのは感心しないな。ましてや敵が内部にいるとは分からない状況でそんな心持ちでは、咄嗟に我慢する事が出来なくなるだろうが」

 

「達也さまは外部の何者かが一高に噂を流しているとお考えなのですか?」

 

「情報通であるエリカが、噂の出所を突き止められなかった事や、香蓮や亜夜子が調べた限り、九校戦云々の噂は兎も角、俺が原因だという噂は他校には流れていない事を考えると、誰かが意図的に噂を流しているべきだと考える方が自然だ。だからみんなは噂の出所を探すのではなく、その噂は根も葉もない噂だという事を広めるようにした方が良いだろう」

 

「でも、達也さんの事を悪く言う相手を許せそうにない」

 

「雫が憤る必要はないだろ。一科生の中には、未だに俺の事を認めたがらない奴らがいるんだ。実力で勝てないからその鬱憤の捌け口として今回の噂を利用してるだけだ」

 

「達也さんがそう言うなら、何とか我慢する」

 

 

 本当にギリギリで我慢しているのだろうというのが分かる態度だったので、達也も苦笑いを浮かべながら頷いて視線を全体に戻す。

 

「特に噂が流れている三年生には、俺の事を受け入れがたいと思っている連中が多いのだろう。深雪たちには耳障りな噂になっているだろうが、正しい情報を流す事で抑えるしか今は方法がないのも確かなんだ。攻撃するのはくれぐれも止めてくれ」

 

「達也様がそう仰るのであれば、深雪はどんなことでも我慢致します」

 

「私も! 本当は我慢なんてしたくないですけど、達也さんを困らせる結果になるのなら、我慢でも何でもします」

 

「司波先輩、二年や一年の間では、それほどこの噂は信じられておりませんが、そちらの対応は如何いたしましょうか」

 

「単なる噂程度で済んでいるなら、その内収まるだろう。もちろん、三年の方で鎮静化が図れればの話だがな」

 

「もし沈静化が図れなかった場合、私たちも正しい情報を流し始めた方が良いでしょうか?」

 

「エリカの話では、元々信憑性がない噂だという話だったのが、いきなり盛り上がり始めたらしいからな。学内にも協力者がいる事は間違いない。そこを潰せば自ずと収まるから、二年や一年の間では下手に動かない方が良いだろう」

 

「かしこまりました」

 

 

 達也の指示に折り目正しく一礼をして、水波はそれ以降何も発言しなかった。

 

「とにかく今は、情報が不足している為取れる手段が少ない。一両日中には詳しい情報が手に入るだろうが、それまではくれぐれも過激な行動は慎んでもらいたい」

 

「一両日中って、そんなに早くどうやって情報を……あぁ、先輩たちは『四葉』でしたね……ウチや七草家より情報収集が早くても不思議ではありませんでしたね」

 

「それ以外にも伝手はあるからな」

 

「お姉様もこの事に関しては憤っている様子でしたので、ウチの情報網も使えると思います」

 

「先輩には下手に動いてほしくないんだがな……まぁ、後で釘を刺しておけばいいだろ」

 

「私が伝えておきましょうか?」

 

「いや、先輩もそこまで早計な事はしないだろう。あの人だって考えなしに動いているわけではないだろうし」

 

「どうでしょうか……お姉様は考えているようで考えてないですし……」

 

 

 実の妹にそんな事を言われているとは、真由美も思ってもいないだろうと、達也は内心真由美に同情したのだが、今はそんなことを気にしている場合ではないのだ。

 

「ほのか、雫」

 

「はい」

 

「なに?」

 

「他の婚約者たちにも、今の事を伝えておいてくれ」

 

「良いけど、何で私たちが?」

 

「達也さんが直接言った方が早いと思うんですけど」

 

「悪いがこの後母上から呼び出されていてな。魔法協会に顔を出さなければいけないんだ」

 

 

 達也の言葉に、深雪が驚いた表情を浮かべる。てっきり深雪は知っていると思っていたほのかたちは、深雪が驚いたことに驚いたのだった。

 

「達也様、叔母様から何時ご連絡が?」

 

「先ほど本家から暗号メールが送られてきた」

 

「今回の件でしょうか?」

 

「それはまだ分からない。分かり次第連絡しよう」

 

「いえ、叔母様の事ですから、何らかの手段で私にも連絡を取ってくるでしょうし、達也様のお手を煩わせる事は無いと思います」

 

「そうか。水波、深雪の事はお前に任せる」

 

「かしこまりました。命に替えても、深雪様をお守りします」

 

「それでは駄目だ。お前自身も守りつつ、深雪の護衛を務めろ。これは命令だ」

 

「……かしこまりました」

 

 

 ガーディアンとしては、自分の命は二の次にしてミストレスを守るべきなのだが、達也の命令は自分自身を大事にしろというものだった。水波としては複雑な思いなのだが、深雪からすれば達也がどういった気持ちで命じたのかが痛い程理解出来たので、水波とは別な考えで複雑な思いを懐いたのだった。




達也の命令は、水波には少し難しいかも

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