全員揃ったところで、午前中の愚痴を零しあう流れとなった。
「だいたい、達也さんが悪いって決めつけてるのが気に入らない」
「そうだよね! 達也さんが悪いだなんて誰も言ってないはずなのに、何でそんなことになってるのか分からない」
「私たちも我慢していましたが、これ以上達也様の悪口を聞かされて大人しくしている事は出来ませんわ」
「香蓮、この噂の出所は分からないのか?」
「残念ながら……ですが、誰かが意図的に流していなければ、このような噂が浸透している理由に説明がつかないのは確かです。引き続き噂の出所は探ってみますが、結果が出るかどうかはわかりません」
香蓮の調査力を以てしても分からないとなると、いよいよ特殊なルートで流された噂なのではないかという疑いが濃厚になってきたと愛梨は感じていた。
「三高の友人に確認しましたが、まだあちらはそれほど浸透していないようでした」
「つまり、一高内だけにこれほど噂が浸透しているということでしょうか?」
「文弥にも確認しましたが、四高でもそれほど達也さんが悪いという噂は流れていないようですわ。精々九校戦が中止になるかもしれないというところまでです」
「となると、噂を流した人間は、一高内で達也様を隔離させたいという事でしょうか?」
「俺を隔離して何をしたいのかは分からないが、恐らくはそうなんだろう」
達也とすれば、心当たりが幾つもあるので、どの対抗策を使えば良いのかが分からないので口をつぐんでいるだけで、犯人が特定されればすぐにでもこの噂を消し去ることが出来るのだ。
「さっきお姉ちゃんに確認しましたが、魔法大学でも九校戦が中止になるかもしれないとは噂になっているようですが『達也先輩が原因で』という部分は聞いていないようです」
「やはり一高内での達也様の評判を悪くして、いざ中止になったら一斉に達也様を叩く方針なのでしょうか? 味方がいなくなれば、達也様を御しやすいとか思っている輩がいるとすれば、の話ですが」
そんな人間がいたら四葉家が黙っていないと深雪は思っているので、半分以上は冗談のつもりだった。だが四葉の本当の力を知らないメンバーからすれば、深雪の言葉はあまりにも衝撃的だった。
「達也さんを駒にしようなんて、どんな人間?」
「そもそもそんなことをする人の言う事を、達也さんが聞くわけないよ!」
「まぁ達也くんを御せる人間がいるなら見てみたいけど、そんなことしたら消されちゃうでしょうが」
「てかよ、まだ中止になるって決まったわけでもないのに、何で達也が悪いって決めつけてるんだろうな、一科の連中は」
「散々達也くんに顔を潰されたから、それで恨んでるんじゃないの? 自分たちの力の無さを棚に上げて、実績を上げている達也くんを目の敵にしてたんだから」
二科生で九校戦のエンジニアに選出、論文コンペのメンバーに抜擢、恒星炉実験の中心メンバーと、上げていけばきりがない程の実績がある達也を妬んでいる一科生は少なくない。だが、一科生の誰かが流した噂なら、香蓮が分からないと言うはずもないので、愛梨はその線は考えていなかった。
「達也様に対抗心を燃やすのは結構ですが、達也様の実力を認めた上で無ければ意味がないと思うのですが。ウチの一条や吉祥寺もですが、達也様を下に見ている時点で、自分が負けていると気づかなければいけないと私は思いますわ」
「それはボクたちも思ってる事だね。達也さんの実力はボクたちじゃ太刀打ち出来ない程高いレベルなんだから、それを認めた上で対抗心を燃やさなければ意味がないんだよ。それを受け入れられずに『二科生の癖に』とか『四葉家の関係者だったから』というくだらない理由を見つけて蔑むなんて、時間の無駄なのにね」
「そもそも達也くんが四葉家の一員だって認められたのって、去年の大晦日なんでしょ? それ以前の事に四葉家が力を貸しているわけないじゃないの」
「その事情を知ってるのは婚約者以外だとレオや幹比古、美月くらいだからな。他の連中は俺が四葉家の関係者だという事を隠してほくそ笑んでいた、とでも思ってるんじゃないのか?」
「そもそも、達也様がそんな低俗な事をして喜ぶと思ってる時点で間違いです。だいたい、達也様だけでなく私も四葉家の関係者だという事を隠してほくそ笑んでいたと思われていなければおかしいです!」
「まぁ、深雪も関係者だもんね。でも、深雪に対してそんなことを思う男子がいるとは思えない」
ただでさえ達也は悪目立ちしていたのだから、そこに四葉関係者というものが加われば妬まれもするし邪推されもする。それは雫たちも理解しているが、それでも達也がそんな小者みたいなことをすると思われるのは面白くなかった。
「本当の戦闘なら、誰も達也さんに敵わないのに、学校の成績だけ見て自分は勝っていると思い込んでいるだけなのに」
「達也さんの実力は、一昨年のモノリス・コード決勝で見てるはずなのに……」
「一条の阿呆が、達也殿を下に見てこっ酷くやられたあれか」
「強敵だって分かってたはずなのに、一条も吉祥寺も達也さんの事を嘗めていた結果」
「とにかく、この噂の出所は早く突き止めないといけませんね」
調査という事に関して、深雪は適任者を知っている。彼女は放課後、その人物を訪ねようと心に決めたのだった。
まぁ彼女はそれがメインですから……