劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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ありえそうな裏事情


明かされる事情

 家に帰ってきた深雪は、正装をしてヴィジホンの前に立ち真夜への直通の番号に電話をかける。

 

『あら深雪さん、こんな時間に珍しいわね。何かあったのかしら?』

 

「叔母様。達也様の愛人となっている小野遥、安宿怜美両名を達也様が暮らしております新居で生活させてあげる事は可能でしょうか?」

 

『あぁ、あの二人ね。でもいきなりどうしたのかしら? 深雪さんがそんな事を言い出すなんて』

 

「本日その二人に頼まれたのです。達也様は他の婚約者が許可したら認めると仰られたようで、他の婚約者は私に一任しました。ですから私は、叔母様が許可したら認めると返事をし、こうして叔母様にご連絡差し上げた次第です」

 

『達也さんが認めてるなら、私がとやかく言うべきではないと思うのだけど……深雪さんはその二人が羨ましいのね』

 

 

 真夜に自分の心を見抜かれて、深雪はその場で深々と頭を下げた。そもそも真夜を相手に嘘を吐いたところで見抜かれてしまうと理解していたので、自分の浅ましさを反省した。

 

「叔母様の仰る通り、私はあの二人に嫉妬してるのかもしれません。私は達也様と離れ離れで生活してるというのに、正式な婚約者じゃないお二人が達也様と一緒に生活すると思うと、嫉妬で学校を凍らせてしまいそうでした」

 

『深雪さんが一緒に生活出来ないのは、それまでの同居を解消させない代わりだから仕方ないでしょ? ここで深雪さんまで同居したら、他の婚約者たちが暴挙に出るかもしれないものね』

 

「達也様がされるがままになるとは思いませんが、ちゃんと断れるか心配ですし……達也様は基本的には優しい人ですので」

 

『たっくんの子供が見られるなら私は嬉しいけど、やっぱり深雪さんが一番じゃないと駄目よね……達也さんの事を思ってる期間で言えば、夕歌さんや亜夜子さんと同じくらいですし』

 

 

 幼少期は一緒に生活していなかったが、深雪の秘めた想いを最初っから見抜いていた真夜は、面白そうに笑いながら告げた。

 

「わ、私はそれほど長い期間達也様の事を想っていたわけでは……」

 

『私の目は誤魔化せないわよ。深雪さんは初めて会った時から達也さんに惹かれていたのよ。姉さんが厳しくて達也さんとの交流を禁止していたと思ってるみたいだけど、姉さんも深雪さんの想いを知ってたから交流を禁じていたのよ。本当は私の息子だって知ってたから、自分の娘がその相手と結ばれてしまうとでも思ったのかしらね』

 

 

 達也が自分の子供ではないと知っていた深夜が、何故自分と達也の交流を禁じたのかは、深雪には理解出来なかった。当主の息子と自分の娘が仲良くするのがそんなにいけないことなのかと、深雪はしきりに首を傾げた。

 

『姉さんは深雪さんを当主にしたかったのよ。だから達也さんを必要以上に下に見るように従者たちに徹底させ、深雪さんが次期当主に相応しいと宣伝したり、深雪さんと達也さんが必要以上に近づかせないようにしてたのよ。息子という事になっている達也さんを目立たせないように、深雪さんのガーディアンに任命させたりね』

 

「ですが、ガーディアンは主の側から離れる事が出来ないはずです。私の側にいさせたくないのなら、そんなことしなければよかったのではありませんか?」

 

『私が達也さんを引き取りたいって言ったから、慌てて深雪さんのガーディアンに仕立て上げたのよ。達也さんも大人しく引き受けてたけど、姉さんの思惑に気付いていたはずよ』

 

「達也様が、お母様の思惑に気付いていた……?」

 

『達也さんの人間的欠陥については、深雪さんも知っているわね?』

 

 

 質問の形を取っているが、真夜は深雪が知っている事を前提として話を進める。

 

『達也さんに残された感情は、ほんの僅かな恋愛感情と、従妹である深雪さんを守ろうとする心だけ。深雪さんと離したら自分が暴走するかもしれないと達也さんも分かってたから、大人しくガーディアンを拝命したのよ。だから沖縄で深雪さんが殺された時、あれだけ激昂して大亜連合軍を消し去ったのよ』

 

「その辺りの事は、落ちついた時に達也様から聞かせていただきました。私が殺されたから、敵を一人残さず粛正したと」

 

『達也さんも初めては深雪さんが良いと思ってるかもしれないから、今更愛人の一人や二人増えたからといって、その相手に手を出すとは思えないけど、深雪さんの気が進まないのなら許可しないわよ?』

 

「いえ、達也様の事を信じておりますので、お二人の同居を認めますわ」

 

『そう? それじゃあ私名義で小野遥、安宿怜美両名に通達しておきましょう』

 

「それには及びません。叔母様の返事は、明日学校で私が伝える事になっておりますので」

 

『そうなの? それじゃあ、深雪さんにお任せしますね。それから、達也さんにたまには会いに来てと伝えておいてね』

 

 

 そう言って通信を切った真夜に対して一礼いして、深雪は全身に込めていた力を抜いて、リビングのソファに腰を下ろした。

 

「水波ちゃん、悪いけどお茶を貰えるかしら」

 

「かしこまりました、深雪様」

 

 

 水波にお茶を頼み、深雪は達也の気持ちを改めて知らされ、恥ずかしさを覚えていた。

 

「(私だけが今のところ達也様の特別……初めては私……)」

 

「深雪様、お茶をお持ちしました」

 

「ありがとう、水波ちゃん」

 

 

 顔には出さないが、今の深雪は平常心では無かった。だがそれを見抜けるだけの眼力は、水波には無かったのだった。




深雪の妄想が加速する

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