劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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実にきな臭い


九校戦の話題

 中庭にいた雫とほのかも加わって、食事前のお茶会をしていた達也たちの許に、寝ぼけ眼を擦りながら紗耶香が加わった。

 

「さーや、朝弱かったんだね」

 

「昨日は遅くまで騒いでたから、まだちょっと眠いだけ……というか、同じ時間まで騒いでたはずなのに、エリカちゃんは朝から元気ね」

 

「あたしはちゃんと運動して身体を起こしたからよ。布団の誘惑に負けてたら、多分さーやと同じようになってたと思うわ」

 

「壬生先輩はエリカたちと騒いでたんですね。私たちは疲れたから先に部屋に戻ったんですけど、何時まで騒いでたんですか?」

 

「そんなに遅くまで起きてたわけじゃないと思うわよ? 確か……一時くらいまで?」

 

「そんなもんね。残ってたメンバーもそれほど多くなかったし、あんまり遅くまで騒いでると、達也と深雪に怒られそうだって話してたから」

 

 

 達也も深雪も、その程度の事で怒ったりしないのだが、今この家にいる全員束になって戦ったとしても、達也と深雪のコンビに勝てるとはだれも思っていない。それくらい二人の魔法力はけた違いで、更に達也の悪知恵まで加わったらどうなるか、それが分からない婚約者など一人もいないのだ。

 

「そういえば一緒に騒いでた七草先輩は、まだ起きてきてないのね?」

 

「七草先輩が一番飲んで騒いでたもんね……泉美や香澄が心配するほどに」

 

「真由美さんって確か、すぐ酔っぱらうんじゃなかったっけ? 大丈夫だったの?」

 

「香澄が部屋まで運んでいったみたいですし、心配ないんじゃないですか? 本当は達也くんに運んでもらいたそうでしたけど、抜け駆けは認められませんでしたし、達也くんももう寝てたみたいでしたし」

 

 

 達也の部屋に人の気配がしなかったので、達也はもう寝ていたのだろうと思ったエリカだが、本当は深雪の部屋で、深雪が寝るまで手を握っていたのだが、それをここでいう程達也は自分を疎かにはしていない。

 

「そういえばエリカ、さっき吉田君と美月が――」

 

「雫、それは誤解だったでしょ」

 

「なになに? ミキが美月を押し倒したの?」

 

「うん、そう」

 

 

 本当はただ足をもつれさせて倒れてしまっただけなのだが、雫はそこの説明を省いて結果だけをエリカに告げる。その所為でエリカは物凄い勢いで立ち上がり幹比古のところに向かおうとしたが、達也が腕を掴んでエリカの勢いを殺ぐ。

 

「さっきエリカが脛を蹴った所為でしびれていたんだろ。そもそも幹比古が人の家で美月を押し倒すとは思えん」

 

「そう言われればそうね……ミキにそんな度胸があるなら、とっくに付き合ってただろうし、今頃美月のお腹には子供がいたかもしれないし」

 

「子供って……」

 

「エリカも大概だよね」

 

「別に具体的な事は言ってないんだし、過剰に反応するほのかの方が大概なんじゃないの?」

 

「どっちもどっち」

 

 

 雫のコメントに、響子と夕歌は頷き、紗耶香はどう反応して良いのか困っているような表情を浮かべ、達也は一切の反応を見せなかった。

 

「えっと……ミキと美月の関係は一旦置いておくことにして、あたしたちはそろそろ九校戦の時期って考えなきゃいけないんじゃない?」

 

「今年優勝すれば、私たちも三年間優勝で幕を下ろせる」

 

「一高が四連覇中だもんね。私は参加した事ないけど、みんな楽しそうだったから私も嬉しかったな。桐原君や巴が出てたから見に行ってたけど」

 

「あたしも参加してないけど、深雪たちの応援でずっと行ってたから、ついつい自分も参加してる気になるのよね」

 

「九校戦といえば、一つきな臭い噂が立ってるんだけど」

 

 

 ふと思い出したかのように、響子が端末を取り出して全員に見える位置に置く。表示されたニュースを目にして、達也以外の全員が驚きの声を上げる。

 

「中止の可能性大……?」

 

「去年の競技が軍事色が強かったことを非難され、競技の見直しが間に合わない可能性が高くなってきているって、今更過ぎない?」

 

「そもそも去年の競技って、国防軍やら十師族やらが介入してきてあんな感じになっちゃったんですよね? だったら元の競技に戻せば終わりなんじゃないんですか?」

 

「これは不確定な情報なんだけど、競技委員は達也くんをどう扱えば良いのかに困ってるみたいなのよ」

 

「達也さんを?」

 

 

 響子の言葉に、雫だけが声を出せた。他のメンバーは驚き過ぎて何も言えないようだ。

 

「ほら、この間達也くんが作り出した魔法『能動空中機雷』が正式にインデックスに登録されたでしょ? そんな技術者がいる学校と、他の学校とでハードの制限を同じにしても良いのかって事も問題になってるみたいなのよ」

 

「それこそ今更じゃないですか? 達也さんは過去二年間九校戦にエンジニアとして参加してますし、あの魔法が登録されたからといって、達也さんの能力が前より上がったとは言えないと思いますし、元々レベルが違い過ぎるんですから」

 

「達也くんに近しい人なら、そう考えるんでしょうけどね。他校からしてみれば、九校戦始まって以来の天才エンジニアが『あの四葉家』の後継者だって言われたらいろいろと考えちゃうんだと思うわよ。そもそも去年の一件で九校戦委員会は数年くらい開催を見送りたいと思ってるみたいだし」

 

「反魔法師運動が落ち着くまで、ですか?」

 

「たぶんね」

 

 

 ほのかが確認するように問いかけると、響子も確信はないけどという感じで答えたのだった。




確証はありません

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