劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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開き直ったら強そうです


美月の覚悟

 裏庭で告白したのは良かったが、達也にその一部始終を見られていたと知った幹比古と美月は、未だかつてないくらい顔を真っ赤にして達也に詰め寄った。

 

「お、お願いだから誰にも言わないでよね!」

 

「お、お願いします!」

 

「言いふらすつもりは無いが」

 

「……達也ならそうだろうけど、エリカとかが目敏く何かあったと気づいて達也に聞いてきそうだし」

 

「二人が何時も通りにしていれば何も無いと思うが」

 

 

 達也としては、目出度いことだから言っても良いのではないかと思ってはいるのだが、二人の反応を見て言わない方が良いと判断しているので、念を押されなくてもエリカに言うつもりなど無かった。

 

「そもそも人の家で告白とは、幹比古も随分と思い切ったな。前々から怪しいとエリカが言っていたが、本当にこうなるとはな」

 

「その、達也さん……恥ずかしいからあんまり言わないでください」

 

「今からその調子では、エリカにバレた時大変じゃないか? 俺はよく分からないが、女子はそういうのに敏感なんじゃないか?」

 

「それはそうかもしれませんけど……」

 

「エリカは特にそうかもね……」

 

 

 このまま中に戻ればすぐにエリカに気付かれてからかわれると幹比古と美月は互いの顔を見てそう感じた。

 

「とりあえず時間差で戻ったらどうだ? といっても、美月はエイミィやスバルに急かされていたようだから、すぐに気づかれるだろうがな」

 

「知っていたんですか!?」

 

「何となくいつもと違う空気が流れていたのは感じていたが、気が付いたのは水波だ」

 

「水波さんが?」

 

 

 美月の中で、水波が色恋に敏いとは思っていなかったので、思わず聞き返してしまった。達也も美月の気持ちが理解出来たのか、少し苦笑いを浮かべながら種明かしをしてくれた。

 

「水波は最近、古い恋愛小説にハマっているらしいからな。そういう空気に憧れていたのだろう」

 

「そうだったんですね」

 

「おーい達也くん、何時まで外にいるのよ。そろそろ一色さんたちが――」

 

「え、エリカっ!?」

 

 

 タイミング悪く裏庭にやってきたエリカは、幹比古と美月の雰囲気から何かあったと感じ取り、何時もの悪戯をおもいついた笑みを浮かべる。

 

「なになに? ミキと美月が誰もいない場所で告白でもしちゃったの? それで達也くんがいる事に気が付いて真っ赤になってるとか?」

 

「「っ!?」」

 

「えっ、なにその反応……まさか本当に?」

 

 

 エリカとしては冗談のつもりだったので、何時も通り幹比古と美月が反論してくるだろうと思っていたので、口を押えて驚く二人を見て、逆に冷めてしまったのだ。

 

「えっと……おめでとう、で良いのかしら?」

 

「良いんじゃないか?」

 

 

 達也に問い掛けたが、曖昧な返事しかしてくれなかったので、エリカとしてもどうすればいいのか頭を悩ませることになってしまう。

 

「まぁ冗談だから、二人ともそんなに固まらなくても……」

 

「あのっ!」

 

「な、なによ……ていうか、美月ってそんな大声出せたのね……」

 

「あっ、ゴメン、エリカちゃん……びっくりさせちゃったよね?」

 

「いやまぁ……平気だけど」

 

 

 声そのものよりも美月の態度に驚きはしたが、エリカはそれ以上驚くことは無かったので、素直に美月の言葉を待っている。彼女が待っているのを感じ取った美月は、一度深呼吸をしてから口を開いた。

 

「あのね、さっき吉田君に告白されて、私OKしたの」

 

「そうなんだ。つまりこれからは前みたいにもやもやするような関係じゃなく、彼氏彼女の関係なのね?」

 

「う、うん……まだ実感湧かないけど、私は吉田君の彼女になったの」

 

「あ、あの……柴田さん……」

 

「幹比古」

 

 

 開き直って堂々とエリカに報告する美月とは対照的に、顔を真っ赤にして口をパクパクするだけの幹比古の肩に手を置いて、達也は彼を少し離れた場所に誘導する。

 

「お前も覚悟を決めたらどうだ?」

 

「そ、そんなこと言われても……」

 

「美月があそこまで覚悟を決めているんだ。彼氏のお前がそんなんじゃ、美月が可哀想だろ」

 

「達也に言われたくないよ……」

 

「それなら、中にいる全員に事情を話して、お前を説得してもらおうか」

 

 

 達也としては、そんなつもりなどさらさらない。これは幹比古の背中を押す為の方便であり、幹比古もその事は理解している。だが、もしこのまま自分がうじうじしていれば、本当にやりかねない雰囲気が達也から漂っていたので、幹比古は盛大にため息を吐いて顔を上げる。

 

「確かに、彼女である柴田さんがあそこまで開き直ったんだから、僕も覚悟を決めないといけないよね」

 

「付き合う事にしたんだし、何時までも『柴田さん』じゃ美月が可哀想じゃないか?」

 

「い、いきなり呼び方を変えるのは難しいんだよ……」

 

「そうなのか?」

 

 

 達也としては、過去に何度も「名前で呼んでほしい」と頼まれてきているので、今更その事に難しさなど感じていない。だが自分が一般的な男子の思考ではない事も理解しているので、幹比古を意気地なしと罵ることはしなかった。

 

「まぁゆっくりと変えていけばいいだろう。普通にいけば、お前たちも結婚するだろうしな」

 

「けっ!?」

 

「ん?」

 

 

 自分がとてつもない地雷を踏み抜いたという自覚がない達也は、いきなり逃げ出そうとした幹比古を押さえつけてとりあえず頭を下げて落ち着かせた。

 

「お、驚かせないでよね……」

 

「そんなつもりは無かったんだがな……悪かった」

 

「達也も大概天然だよね……」

 

 

 とりあえず落ち着いた幹比古は、恨みがましい視線を向けながらそう呟いたのだった。




何時開き直るかは未定……

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