劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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弄られてるだけな気が……


決心

 エリカと深雪にからかわれた美月は、居心地の悪さから二人の側を離れてエイミィたちのグループに近づく。

 

「どうしたの、美月? こっちに来るなんて珍しいね」

 

「どうせエリカたちに吉田君との事をからかわれたんだろ? まぁ、ボクたちもいい加減くっつけばいいのにとは思うけど、そこまで露骨にからかったりはしないから、ここでゆっくりとするがいい」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

 スバルとエイミィに招き入れられ、美月はようやく落ち着けると安堵の息を吐いた。

 

「それにしても、ずっと弄られているようだけど、美月は吉田君の事をどう思ってるの?」

 

「エイミィ、美月は散々エリカと深雪にからかわれてきたんだ。今はそっとしておいてやろうじゃないか」

 

「だって、私たちが美月と吉田君の関係にもやもやし始めたのが去年でしょ? ということはエリカたちはその前からもやもやしてるわけじゃない?」

 

「そうかもしれないが、それを確認するのは今じゃなくてもいいだろ」

 

「まぁ、柴田さんと吉田君の事は、私が在学していた頃から噂になってたみたいだし、千秋は具体的な時期は知ってる?」

 

「クラスが違ったから具体的には知らないけど、九校戦辺りからじゃなかったかな?」

 

 

 黙ってスバルとエイミィの会話を聞いていた平河姉妹が口を挿み、美月の居心地は再び悪いものに変わってきていた。

 

「その頃からという事は、やっぱりエリカたちがからかうのも仕方ないのかもね。何せその時はクラスメイトだったわけだし」

 

「そもそも本当に付き合ってないの? もし付き合っていないとするなら、何で付き合わないの?」

 

「千秋!」

 

「だって、互いに意識してるのは周りから見てても明らかなんだしさ、それなのに何で付き合わないのか不思議だと思うじゃない。そもそも柴田さんは男子の間でも人気が高いらしいけど、既に吉田君がいるからって諦めてる子だっているんだよ? 付き合ってないなら可能性があるわけじゃない? その辺をはっきりさせておかないと、男子たちが可哀想だって噂になってるくらいだしさ」

 

 

 噂に噂を重ねた話だが、エイミィやスバルは千秋の言葉に納得がいっている様子だった。実際美月の人気が高いのは知っていたし、それなのに声をかけられていないのも知っていたが、その理由が幹比古だということは知らなかったようだ。

 

「てっきり達也さんが側にいるから、話しかけ辛いのかと思ってたけど、吉田君が原因だったとは」

 

「そうじゃないかとは思っていたが、本当に吉田君が原因だったとはね」

 

「ですから、私と吉田君はそういう関係じゃないんですってば! そもそも、吉田君にはもっとお似合いな子がいると思いますし……」

 

 

 自分で言っておきながら、美月はなんだか悲しい気持ちになっていた。幹比古には自分より相応しい相手がいると思っているのは、間違いなく美月の本心なのだが、だからといって幹比古が自分以外の女子と一緒にいるところを想像すると、胸が締め付けられるのだ。

 

「そんな顔するくらいなら、さっさと吉田君と付き合って他の相手なんて気にならなくしちゃえばいいのに」

 

「そんな顔とは?」

 

「ん」

 

 

 千秋が懐から手鏡を取り出し、美月の顔を映す。そこには泣きそうな顔をしている美月が映し出されていた。

 

「えっ……」

 

「別にボクたちは美月を泣かそうとしたわけじゃないんだ。だが、そこまで想っているなら、早いところ吉田君にその気持ちを伝えた方が良いとボクも思う。何時までもお友達のままじゃ、その内他の女性に吉田君を取られてしまうかもしれないしね」

 

「丁度いい機会だし、吉田君に告白して来たら? もう自分の気持ちを偽り続けるのも限界みたいだしさ」

 

「ですが……」

 

「あーもう! じれったいな! もし柴田さんが言う勇気が無いって言うなら、私が言ってきてあげる」

 

「そ、そんな事しなくてもいいですよ!?」

 

「じゃあ、自分で言えるね? いい加減見てるこっちが苛々して来るくらいだし」

 

「千秋がそれを言うの? 散々達也さんの事で悩んでたくせに」

 

「お姉ちゃん!?」

 

 

 小春のツッコミの所為で、千秋は美月に強く言えなくなってしまった。だが既に周りから背中を押されまくっている美月は、何とか決心したように顔を上げて力強く頷いた。

 

「私、吉田君に気持ちを伝えようと思います」

 

「おー漸くその気になったんだね。これは楽しみですな~」

 

「言っておくが、盗み聞きなんてボクがさせないからな?」

 

「そんなこと言って、スバルだって気になるでしょ~?」

 

「結果は後で本人から聞けばいいだろ。そもそも、エイミィだって達也さんと二人でいるところを誰かに見られてたりするのは嫌だろ?」

 

「うっ……まぁそうだけどさ……」

 

「そういうわけだ。美月が嫌がりそうなことは極力避けた方が、ボクたちにとってもいい事に繋がるんだ。まぁ、恐らく吉田君が断るなんてことにはならないだろうが、結果を楽しみに待たせてもらうよ。頑張ってくれたまえ」

 

「ありがとうございます。でも、そんなに自信は無いんですけどね」

 

「大丈夫だって。噂によれば、吉田君はかなりムッツリスケベらしいから、柴田さんみたいな女の子に告白されて、断るはずがないって」

 

「千秋、失礼ですよ」

 

「ごめんなさーい」

 

 

 まったく反省していない様子だったが、美月は千秋の言葉は気にしないことにして、もう一度エリカと深雪の側に移動するのだった。




幹比古はムッツリだろ

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