劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

1197 / 2283
クリスマスイブなので、ちょっと甘めで


二人のペース

 他の人たちが盛り上がっているのを見ながら、美月と幹比古は部屋の隅の方で談笑していた。

 

「随分と人が多いけど、柴田さんは大丈夫かい?」

 

「えぇ、問題ありません。吉田君こそ、人が多いところは苦手だったのではありませんか?」

 

「僕は魔法で何とか出来るから。柴田さんこそ人混みは苦手だって言ってたじゃないか。もしよければ精霊で和らげようか?」

 

「ありがとうございます。でも、何時までも苦手なままじゃ駄目だと思いますし、すぐに部屋で休めるわけですから少しぐらいは頑張った方が良いかなと思いまして」

 

「そっか。でも本当に辛くなったら遠慮なく言ってほしい」

 

「はい。その時はお願いしますね」

 

 

 何だかいい雰囲気を醸し出している二人を、周りの人間が黙って見ているだけで済ませるはずもなく、面白そうな空気を感じ取ったエイミィと彼女に引っ張られてきたスバルが二人の間に割って入る。

 

「何のはなししてるの?」

 

「エイミィさん。私も吉田君も人混みが苦手ですから、互いに心配していただけですよ」

 

「そうなの? 何だかキスでもしそうな雰囲気だったから来たんだけど」

 

「だから言っただろ? 二人はそういう関係じゃないって」

 

「でも、一年の時から噂されてる二人なわけだし、全く意識してないわけじゃないんでしょ?」

 

 

 エイミィの何気ない質問に、美月と幹比古は顔を真っ赤にして視線を逸らす。どことなくじれったさは感じながらも、初々しい感じが何とも言えない二人の態度に、エイミィだけではなくスバルも笑みをこぼす。

 

「ボクたちが早すぎるだけで、吉田君と柴田さんにはゆっくりとしたペースがお似合いだね」

 

「周りが急かして駄目になるパターンかもしれないし、ここは暖かく見守ろうじゃないか」

 

「そんなこと言って、またちょっかいを出すつもりなんだろ? ほら、ボクたちは向こうに行くよ」

 

「ちょっとスバル!? ここから面白くなるところなのに~」

 

 

 来た時とは逆で、スバルに腕を引っ張られて去っていったエイミィを見て、美月と幹比古はそろって噴き出してしまう。

 

「エイミィさんには悪いですけど、面白かったですね」

 

「そうだね。明智さんはムードメーカー的なポジションだし、必要以上に暗くなることも無いしね」

 

「と、ところで……エイミィさんが言っていた事なのですが」

 

「えっ?」

 

 

 美月が何を言い出すのか分からなかった幹比古は、特に身構える事なく美月の言葉に耳を傾ける。

 

「その……吉田君もしたいとか思うのでしょうか……」

 

「したいって、何を?」

 

「ですからその……キスを……」

 

「っ!?」

 

 

 危うく飲んでいたお茶を吹き出しそうになった幹比古の背中を、美月が慌ててさする。

 

「ご、ゴメンなさい!」

 

「い、いや……気を抜いていた僕が悪い」

 

 

 咳き込んである程度落ち着きを取り戻した幹比古は、正面に美月を見据えて答えようとする。

 

「僕は――」

 

「よう、二人とも」

 

 

 そこにまたしても空気が読めないレオがやってきて、幹比古は再び咳き込んだ。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「れ、レオ……うん、大丈夫だけど」

 

「さっきから二人で隅っこにいるからよ。エリカが連れてこいってうるさいんだよな」

 

「エリカちゃんが?」

 

「せっかく一緒にいるのに、二人で楽しんでる様子だから連れてこいって言うんだが、楽しみ方は人それぞれだと俺は思うんだがな……これ以上叩かれるのも癪だから呼びに来たんだが――って幹比古? 何で俺を睨んでるんだよ」

 

 

 レオに鋭い視線を向けていた幹比古は、レオが鈍感だという事を思い出して盛大にため息を吐いて頭を振る。

 

「何でもないよ。それで、エリカが僕たちを呼んでるって?」

 

「お、おぅ……何でもケーキを切り分けるから、男手が必要だとか言い出してな。達也にも声をかけようとしたんだが『主役に手伝わせるな』とかで俺と幹比古の二人で運ぶ事になったらしい」

 

「エリカらしいな……」

 

 

 付き合いが長い幹比古としては、エリカの発想に呆れるのと同時に納得してしまうところがあった。レオは不服そうにしているが、結局は手伝うのだから彼もまたお人好しなのかもしれない。

 

「それじゃあ伝えたからな。さっさと来ないとエリカにどやされるぞ」

 

「分かってるよ」

 

 

 一足先にレオがこの場を去り、残された幹比古と美月は顔を見合わせて笑い出した。

 

「さっきの問いの答えは、また今度出す事にするよ」

 

「そうですね。人が多い場所で聞くような事じゃなかったですし」

 

「そうだね。でも、柴田さんがそんな風に思ってくれているって知れただけで、僕としては嬉しかったよ」

 

「えっ、それって……」

 

「おっと。エリカが凄い顔で睨んでるから、僕は先に行くね」

 

「あっ、吉田君?」

 

 

 逃げ出すような勢いでエリカの許に駆け出した幹比古を見送りながら、美月は先ほどの言葉の意味を考えていた。

 

「私が吉田君に質問した事は、吉田君にとって嫌な事ではなく、むしろ嬉しかったということは……」

 

『美月! 早くこっちに来なさい!』

 

「あっ、うん! 今行く」

 

 

 もう少しで答えが出そうだったところで、エリカに声をかけられた所為で思考が途切れてしまった。美月としてはそれで良かったのかもしれないが、周りの人間にとっては、まだあのもどかしい関係が続くことになってしまったのだから、エリカの行為は迷惑だったかもしれない。




この二人をメインに話を造っていきます

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。