真由美たちも合流して、漸く達也の誕生パーティーが開催されようとしていた。
「それでは、何故か音頭を任されたので仕切らせていただきます。達也くん、誕生日おめでとう! 乾杯!」
エリカの音頭で全員がグラスを掲げ、数人は一気にグラスの中身を飲み干した。
「達也様、遅ればせながら、お誕生日おめでとうございます。これからも私たちの想像もつかないような事をしてくださいませ」
「おいおい、俺はそこまでぶっ飛んだ思考の持ち主じゃないんだが?」
「そんなこと無いと思うけど? だって達也くんは……なんだし?」
事情を知らない泉美、美月、レオ、幹比古の耳を気にして真由美は具体的な事を言わなかったが、その四人以外には正確に伝わっていた。
「達也くんは自己評価が低すぎるとおもうんだよね。せっかく鍛えていて大抵の相手に勝てる技術や、誰にも負けない頭脳があるのにさ」
「エリカは大げさに言ってないか? 俺だって勝てない相手は存在する」
「達也様が勝てない相手など、この世にほんの僅かしか存在しないではありませんか」
「そうよね。達也くんが苦戦するような相手が、そう簡単にいるとは思えないんだけど」
深雪、エリカ、真由美が盛り上がる横で、達也は知り合い数人には、未だに勝てないのだがと思いながら三人から視線を逸らすと、達也が勝てない相手に心当たりがある響子が苦笑いを浮かべながらグラスを掲げていた。
「達也様、料理をお持ちいたしましょうか?」
「いや、自分で取りに行くさ」
「ではワシたちと一緒に行こうではないか。深雪嬢、少々達也殿をお借りするぞ」
「そもそも私だけの達也様ではありませんので、そのような断りは不要ですよ」
「そうじゃな。だが普段一緒にいられない分、深雪嬢のフラストレーションが溜まっているような気がして、昨日今日と達也殿に近づくのを自重しておったのじゃ」
「まぁ深雪だもんね~。でもさ、ちょっとくらい慣れておかないと、達也くんが本格的に働きだしたら大変なんじゃない?」
エリカの何気ない言葉に、深雪は笑顔で首を横に振った。
「そもそも四葉家当主のお仕事というのは、それほど忙しいわけではなさそうなのよ。もちろん、私たちも妻として夫である達也様を支えなければいけないのだけど、仕事の所為で達也様と離れ離れになる、なんてことはそうそうないわよ」
「本当に? ウチのお父さん、結構忙しそうにしてるけど」
「それは七草先輩のお父様が、余計な事を画策するからではありませんか?」
深雪としては、未だに真由美の事を信用すべきではないと思っているのだが、達也がとりあえずは信用してもいいと判断したため、大っぴらには邪険に出来ないのだ。だからといって友好的な態度をとるつもりもないので、この程度の皮肉は当然のように繰り出される。
「確かにあのタヌキオヤジは余計な事をしてるから忙しそうにしてるのかもしれないけど、そうじゃないかもしれないじゃない?」
「そうですかね? 一年の時、七草家が介入してこなければ、もっと早くパラサイト問題は解決してたと思いますけど。どうせ七草家が九島家に情報を流したから、最後の美味しいところを持っていかれちゃったんでしょうし」
「老師が何処で情報を得たのかは知らないけど、少なくともウチから情報を流したわけじゃないわよ? そもそも、あのタヌキが新兵器に使うものを他家に教えるとは思えないし」
「あら、何のお話しでしょう?」
「そういえば、あの時捉えた二体のパラサイト、もう一体を持っていったのは亜夜子ちゃんだったわね?」
話しに加わってきた亜夜子に、深雪はにこやかに話しかけるが、その目は笑っていない様子だ。亜夜子はタイミングを読み間違えたと後悔しながらも、表情にはその事を出さなかった。
「パラサイトを欲したのは真夜様であり四葉家です。分家筋の人間でしかない私に、その決定を覆せるわけがないじゃありませんか。それとも深雪お姉さまは、真夜様のご命令に逆らった方が良かったと仰るのですか?」
「そこまでは言わないけど……でも、亜夜子ちゃんは達也様に事後報告しかしなかったのでしょ? 事前に達也様にご報告していれば、九島家に横から掻っ攫われることは無かったのではなくて? その所為で、九校戦でも達也様がしなくてもいい苦労をしたのですから」
「その点に関しましては、達也様に謝罪してもし足りないと思っていますが、深雪お姉さまに責められる筋合いではないと思います。先輩カップルに抱き込まれた体を装っても、深雪お姉さまが達也さんと同室だったことを正当化出来るわけではないのですから」
「えっ、あの時達也くんのルームメイトは啓先輩だって聞いてたけど」
「五十里啓さんは、千代田花音さんの要望に押し切られて、深雪お姉さまと部屋を交換していたのです。達也さんはバレたら全て先輩カップルに責任を押し付ければいいと仰られていたようですが、あの時の深雪お姉さまの立場と今の立場は違うのですから、問題にした方が良いと思うのですが如何でしょうか?」
あの時はまだ、ただの達也の妹という立場でしかなかったが、その立場はもう通用しない。過去を遡る事になっても、達也と同室で数日間過ごしたことは問題にすべきだと亜夜子は主張し、真由美やエリカもその考えに同意を示したのだった。
まぁ、あの時は妹だという事になってたから……