劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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ちゃんと見てみたいな……


ドレス姿

 屋内に入ってすぐ、美月たちはドレスを着たエリカを見つけた。

 

「エリカちゃん」

 

「あれ? 美月たちは普通の服で来たんだ」

 

「だって、何も言われなかったし」

 

「あたし、パーティだって言わなかったっけ?」

 

「言ってたけど、ドレスコードがあるなんて言ってなかったよ」

 

 

 美月だけではなく、幹比古とレオも頷いているのを見て、エリカは自分が伝え忘れたんだという事に気付いた。

 

「ゴメンゴメン、まぁ大丈夫でしょ」

 

「本当に? みんな正装なのに、私たちだけ私服ってかなり目立つと思うんだけど……」

 

「だからって今から着替えを取りに行くわけにもいかないでしょ?」

 

「それはそうだけど……そもそも、ドレスコードって達也さんが決めたの?」

 

「いや、達也くんは企画に関わっていないから。確か雫が決めたんじゃなかったっけ」

 

 

 エリカが雫に視線を向けると、彼女は首を横に振っていた。

 

「私じゃないよ。正装を言い出したのは三高の人たち」

 

「そうだっけ? まぁ、とにかくあたしじゃないし達也くんでもないから、それほど気にしなくてもいいんじゃないかな」

 

「本当に? 帰れとか言われないよね?」

 

「それは無いって。あっ、達也くん」

 

 

 美月が不安がっているところに、今日の主役である達也が現れた。その横には愛梨がくっつくように立っていたが、美月を見ても何の反応も示さなかった。

 

「美月、レオ、幹比古、今日はすまなかったな。わざわざ来てもらって」

 

「それは構わねぇけど、ドレスコードがあったなんて聞いてねぇぞ」

 

「まぁここに住んでいる人間だけで決めたことだから、三人は気にしなくても良いんじゃないか?」

 

「そうですわね。目立つべきなのは達也様ですから、祝う側の人間は目立たなくても宜しいのではないでしょうか」

 

「ほら。発案者の愛梨がこう言ってるんだし、美月たちは気にしなくても大丈夫よ」

 

「オメェが伝え忘れなかったら、こんなことで悩まなかったっての!」

 

「あによ!」

 

 

 何時もの調子で突っかかろうとして、自分がドレスを着ている事をに気付いたが、時すでに遅し。エリカはドレスの裾を踏んずけて体勢を崩した。

 

「危ないっ!」

 

 

 幹比古は声を出して支えようとしたが、既に達也がエリカの肩を抑えており、傾きかけていた体勢は元に戻っていた。

 

「あ、ありがとう、達也くん」

 

「自分の格好を忘れて突っかかろうとするとは、エリカらしいというかなんというか」

 

「お恥ずかしい限りで……こんな正装、滅多にしなかったから」

 

「千葉家ならそれなりにパーティーに参加しててもおかしくないと思うが」

 

「あたしは妾の子だし、そういう場に相応しくないからさ。殆どはあの行き遅れ陰険ババアが参加してたんだけど、二つ重なったりするとあたしが駆り出されるって感じだったんだよね。だから正装なんて殆どしなかったし、しても和装だったから」

 

「なら、今回も和装にすればよろしかったのではありませんか? 無理に洋装にする必要は無いと思うのですが」

 

 

 愛梨のツッコミに、エリカは肩をすくめて答える。

 

「さっき愛梨が言ったように、和装だと目立ちそうだったから。達也くんが主役なのに、あたしが目立っても仕方ないかなって思って洋装にしたんだけど、動きにくいことこの上ないわね……失敗したわ」

 

「似合ってるから、失敗だと思わないが」

 

「……達也くんって恥ずかしいセリフを平然と言ってのけるよね」

 

「そうなのか?」

 

「えぇ。今のを私が言われたのでしたら、恥ずかしさのあまり逃げ出してしまいそうですわ」

 

 

 愛梨だけではなく、美月も同様に頷いているのを見て、幹比古は何処となく慌ててしまった。もし美月が正装していたとしても、自分はちゃんと褒めれたのだろうかと。

 

「女の子は、好きな男の子に服装とか髪型を褒められると嬉しいものなのよ。それを平然と――当たり前のように言っちゃうんだから、こっちが恥ずかしくなるのよ」

 

「そんなものか……だが、本当に似合ってるんだから、別に恥ずかしがったりする必要は無いと思うが。もちろん、愛梨や雫、ほのかだって似合っている」

 

「ん、ありがとう達也さん」

 

「達也様に褒められて、とても光栄ですわ」

 

 

 ついでのように褒められた感じは否めなかったが、達也がそんな投げやりな褒め方をするとは思っていない二人は、本気で嬉しそうに裾を持ち上げ腰を下ろして頭を下げる。

 

「所作が美しいね。そういう服装に慣れてる証拠だ」

 

「どうせあたしは所作が汚らしいわよ」

 

「べ、別にエリカの事を皮肉ったわけじゃないよ!?」

 

「ふーん、どうだか……どうせミキの事だから、美月のドレス姿を見たかったとか思ってるんじゃないの?」

 

「僕の名前は幹比古だ! そして、どうしてそこで柴田さんが出てくるんだよ!」

 

「だって、さっきから少し残念そうに美月の事をちらちらと見てるじゃない。あれって、美月のドレス姿を想像してたんじゃないの? ひょっとして、ウエディングドレス姿でも想像してたの?」

 

「なっ!?」

 

「え、エリカちゃん!?」

 

 

 幹比古だけでなく美月も慌てだしたので、エリカの表情はますます人の悪い笑みで塗りつぶされていく。

 

「おやおや? どうして美月まで慌てるのかな~? もしかして、ウエディングドレスを着た自分の隣にミキが立ってる姿でも想像したのかな~?」

 

「エリカ、その辺でやめておけ」

 

 

 達也が止めてくれたお陰で漸く解放された幹比古と美月は、互いに顔を見て恥ずかしそうに視線を逸らしたのだった。




からかわれて光る美月……

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