劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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身内から疑われるのは堪えるだろうな


妹からの言及

 他のメンバーより先に帰宅した香澄は、真由美の部屋に向かった。部屋で寛いでいた真由美は、香澄が部屋を訪れてきたことにまず驚き、その後香澄から自分を問い詰めるようなオーラを感じ取りまた驚いた。

 

「香澄ちゃん、どうかしたの? まだ達也くんたちは帰ってきてないみたいだけど」

 

「ボク一人だけ先に帰ってきた」

 

「そのようね……それで、何か用があって私の部屋に来たんでしょ?」

 

 

 ただの世間話をしに来た雰囲気ではない事は真由美も分かっている。下手に会話を回避しようとしても意味は無さそうだと判断して、真由美は腹をくくり香澄の視線を正面から受け止めた。

 

「お姉ちゃん、ボクに迷惑をかけてるって自覚ある?」

 

「香澄ちゃんに?」

 

 

 予想外の質問に、真由美は目を丸くして香澄を見詰める。少なくとも香澄に迷惑がかかるようなことをしてきた覚えがない真由美にとって、この質問は予想外な上に驚き以外の表現が取れないものだった。

 

「私が香澄ちゃんに何をしたというの?」

 

「お姉ちゃんが克人さんと繋がってるって噂になってる。その所為でボクも何処かと繋がってるんじゃないかって疑われたんだ」

 

「私が、十文字くんと? そんなわけ無いじゃない。そもそも私が十文字くんと繋がってるなんて、何処から聞いたのよ」

 

「みんな思ってるんだよ! お姉ちゃんが達也先輩を説得しようとしたのも、克人さんに有利になるからじゃないかってさ!」

 

「あれは、魔法師全体の事を考えれば、達也くんの方が歩み寄るべきだと判断したからよ」

 

「どうして? あの会議は何かを決めるものではなかったんでしょ? それを兄貴が司波会長を生贄にするような考えを出して、達也先輩が正論で丸め込めたんだよね? だったら歩み寄って頭を下げるべきは兄貴であり、その考えに賛同した他の家の人だよね?」

 

 

 香澄の反論に、真由美は言葉を失う。ここまで妹に追い込まれるとは思っていなかったのと同時に、自分の行動が克人と繋がっていると思われているなんて思いも見なかったからだ。

 

「このままじゃお姉ちゃんは克人さんと繋がってると判断されても仕方ないよね? そうなれば四葉家への裏切り行為と判断されかねない。婚約解消で済めばいい方だよ」

 

「というか、どうして私が十文字くんと繋がってるって噂になるのよ!? 私と十文字くんはただのお友達だってば!」

 

「お姉ちゃん、ちょくちょく克人さんにウチが仕入れた情報を流してるでしょ?」

 

「知ってるのね……」

 

「それくらいはボクだって調べられるよ」

 

 

 香澄が少し腹を立てたような口調で答える。真由美は泉美ならともかく香澄にまで知られているとは思っていなかったので、この妹の能力を甘く見ていたと素直に頭を下げた。

 

「別に四葉家に不利になるような情報は流してないし、そもそもそんな情報持ってないもの」

 

「それでも、お姉ちゃんが克人さんに近いのは否定出来ないよね? 実際この前達也先輩の敵側に回ったわけだし」

 

「敵って、そんな大げさな事じゃないでしょ?」

 

「事の重大さに気付いてないなら言ってあげるけど、お姉ちゃんは他の家のスパイとして達也先輩と婚約したんじゃないかって疑われてるんだよ? お姉ちゃんの気持ちが疑われてるんだよ? 達也先輩の事、本気で好きなんだよね?」

 

「あ、当たり前じゃない! そもそも私はお父様の言いなりで婚約するようなことは絶対にしないわよ!」

 

「じゃあそれを証明しなきゃ」

 

「証明って、どうしろっていうのよ……」

 

 

 既に自分の気持ちは達也に告げているのに、その気持ちが疑われているのだから、どうすればいいのか分からなくても仕方がないだろう。珍しく狼狽している姉を見て、香澄は真由美がスパイをしているのではないと確信した。

 

「ボクがこうしてお姉ちゃんに聞きに来たのは、達也先輩からお姉ちゃんが十文字家のスパイなんじゃないかって聞かされたから」

 

「達也くんがそんなことを思ってるなんて……」

 

「だって、お姉ちゃん怪しすぎだもん」

 

 

 自分の行動が軽率だったと妹に諭され、真由美は今更ながらに恥ずかしくなってきて、思わず香澄から視線を逸らした。

 

「何も怪しいことがないなら、素直に達也先輩に言えばいいんだよ」

 

「言ったところで、達也くんが信じてくれるとは思えないんだけど……私の心からの告白も疑われてるわけだし」

 

「それくらいの演技をしてもおかしくないと思われるお姉ちゃんが悪いんだよ」

 

「ぐっ……」

 

 

 確かに普段から猫を被って来ていたと自覚している真由美としては、香澄の言葉に何も言い返せない。とにかくまずしなければいけないことは、達也から向けられている疑いを晴らして、自分が本気で達也の事を想っているという事を証明する事だと頭の中を切り替え、その為の策を考える。

 

「お父さんや兄貴もだけど、お姉ちゃんもあんまり達也先輩を甘くみない方が良いよ」

 

「そうみたいね……まさか疑われてるなんて夢にも思わなかったわ」

 

「てか、疑わしい行動をとるお姉ちゃんが悪いんだから、達也先輩を恨むのはお門違いだよ」

 

「分かってるわよ……」

 

 

 心の裡を見透かされたような気がして、真由美は気恥ずかしそうに視線を逸らす。とにかく達也に謝って身の潔白を証明するためにはまず、妹に信じてもらう事から始めなければと、真由美は香澄に自分はスパイではないと宣言し、香澄が応えるまでジッと香澄の目を見続けたのだった。




正論で切り込まれてたじろぐ真由美

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