劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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なんかダジャレみたいなサブタイになった……


強力な協力者

 風紀委員本部に報告を済ませた香澄は、昨日から気になっている事を相談するために達也を探した。この時間なら既に生徒会業務を終えているだろうから、図書室かどこかにいるだろうと探していると、すぐに見つけ出す事が出来た。

 

「達也先輩」

 

「香澄か。何か用か?」

 

「あっ、それじゃあ先輩、ボクはこれで失礼します」

 

 

 香澄が現れたことで恥ずかしくなったのか、ケント少年はそそくさと達也の前から去っていった。

 

「今のって隅守君ですよね?」

 

「そうだ」

 

「達也先輩の事、随分と慕ってるようですけど、何したんですか?」

 

「一昨年の九校戦を見学していたらしい。その時に俺が考えた作戦や調整したCADを見て、一高入学を決意したと言っていたが、俺が直接ケントに何かをしたという事実はない」

 

「あ~、憧れてるんですね」

 

 

 男子版ほのか、と言われるくらい、ケントは達也に依存しているように見える。どことなく子犬を思わせる雰囲気が、そんな感じを助長しているのだろう。

 

「隅守君、結構女子の間で人気なんですよ」

 

「そうなのか」

 

「まぁ、マスコット的な人気ですけど」

 

 

 香澄の言葉に、達也は苦笑いを浮かべながらケントが去っていった方向に視線を向けた。ひとしきりケントに同情した後、達也は香澄がわざわざ自分を探していた用件を聞きだす事にした。

 

「それで、香澄は何の用で俺を探していたんだ? ケントとの関係を聞きたかったわけじゃないだろ?」

 

「隅守君の事はちょっと気になっただけです。ボクが本当に聞きたかったのは、昨日から一色さんがお姉ちゃんに近づいてる気がするんですが、何か意味があるのかどうかです」

 

「同じ婚約者同士、仲良くなろうとしてるんじゃないのか?」

 

「そんな感じじゃないよ。ボクだってそれくらい分かります」

 

 

 別に香澄の観察眼を疑ったわけではないのだが、達也は手を出して香澄を宥め、人気のない場所まで香澄を引き連れて移動した。

 

「愛梨には、七草先輩が何か企んでいるのかどうかを探ってもらってるだけだ」

 

「企む? お姉ちゃんが?」

 

「この前、香澄と泉美が乱入してきた会合だが、あれは十文字克人が提案したというわけではないようだからな。もしかしたらウチの秘密を探って、二十六家の何処かに流すのが目的なのかもしれないと疑っている」

 

「そんなことお姉ちゃんがするとは思えないんですが……そもそも、お姉ちゃんは諜報とかに向いていないですから……」

 

「すぐに顔に出るのは分かっているが、あの人の魔法は諜報に向いていると思うが」

 

「マルチ・スコープは確かに覗き見に最適な魔法ですけど、達也先輩相手なら意味はないのではありませんか? そもそも、お姉ちゃんは本気で達也先輩の事を想っていると思います」

 

 

 姉の気持ちが疑われているのが、なんとなく気に入らなかった香澄は、語気を強めて達也に答える。達也も香澄が苛立ち始めているのを感じて、真由美が疑わしい動きをしている事を香澄に説明する。

 

「この間の会合のわけは聞いているか?」

 

「お姉ちゃんと克人さんが、達也先輩に対して何らかの説得をしようとしていた、という事は知ってます」

 

「その内容だが、この間の若手会議で深雪を広告塔にしようとした、七草智一の案を受け入れさせようと先輩が十文字克人に進言したから行われたんだ」

 

「そうらしいですね」

 

「先輩の気持ちはこの際関係ないとして、何故十文字克人に協力したのかが分からない。あんな意見が受け入れられないのは先輩にだってわかりそうなものだろ」

 

 

 香澄は、達也が怒っている理由に漸く思い至った。深雪を矢面に立たせ、反魔法主義者の矛先を深雪に向けさせ、自分たちはその間に別のアピールをする。そんなことをこの達也が許すはずもないし、説得しても無駄だというのは香澄にだって分かる。だが真由美は克人に協力して達也を説得しようとした。それが気になるのは香澄も同じだった。

 

「つまり達也先輩は、お姉ちゃんが兄貴やお父さんの指示で動いているかもしれないと疑っているんですね?」

 

「ウチもかなり黒い噂がある家だが、七草家もそれなりに何でもやる家だからな。疑ってかかるべきだと思っている。その家の人間の前で言うべき事ではないかもしれないが」

 

「ウチが裏で色々とやってきたのは事実ですし、ボクは気にしません」

 

 

 あまり父親や兄との関係が良好ではない香澄としては、そっちが疑われる分には何とも思わない。だが、親しい間柄にある真由美が疑われているのは、嫌悪感を懐かずにはいられなかった。

 

「それじゃあ、ボクがお姉ちゃんに確かめてみますよ。何か考えがあって克人さんに協力したのかどうかって」

 

「直接聞いて、正直に答えると思うか?」

 

「お姉ちゃんが嘘をついてるかどうかくらい見分けがつきますよ。これでも七草家の娘ですから」

 

「それが何の根拠になるのかは分からないが、姉妹仲が拗れる事にだけはならないようにな」

 

「大丈夫ですよ。そもそも、疑わしい行動を取っているお姉ちゃんが悪いんですから」

 

 

 完全に達也の考えを受け入れたわけではないが、改めて考えると確かに真由美には疑わしい行動が多すぎると香澄も感じたので、達也に協力を申し出たのだ。これで潔白なら安心出来るし、裏で他の家と繋がっていると分かれば、早々に真由美との関係を清算して、四葉家に自分は関係ないとアピールが出来ると、香澄は協力する裏でそんなことを考えていたのだった。




妹にも疑われる姉

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