劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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一番教師っぽいですしね


凄腕家庭教師

 稽古を終えたエリカと紗耶香が、軽くシャワーで汗を流して戻ってくると、ほのかと雫が夕飯の準備を進めていた。

 

「今日はほのかと雫なんだ」

 

「エリカと壬生先輩は稽古だったし、エイミィやスバルはそれほど自信がないって言ったからね」

 

「私もそんなに自信ないかな……家事分担の時は、炊事以外にしてもらわないと」

 

「さーやなら大丈夫だと思うんだけどな」

 

「得手不得手は誰にでもあるものだろ」

 

 

 エリカの背後から声をかけてきた達也の言葉に、紗耶香は力強く頷く。

 

「というか、達也くんが言うと説得力が違うわよね。二年の時にも言ったけど」

 

「達也さんに苦手な事って?」

 

「学校の魔法は、どうしても苦手だな」

 

「達也さんは学校の評価外だもんね」

 

 

 残り一年を切り、今更一科に転籍する意味もないので、達也は一般的な魔法は使えない、という事にしている。事実を知っているメンバーからすれば白々しい答えだが、雫はあえてツッコまずに作業を進める事にした。

 

「達也さんも今度一緒に稽古しようよ」

 

「そうですね。師匠のところに行くには少し不便な立地ですし、師匠にも行ける時には行く、と言ってありますから毎日行く必要はないですしね」

 

「達也くんなら問題なく行けるんじゃないの?」

 

「朝早くに出かけて、帰ってきたら部屋に誰かいる、という展開は御免だからな」

 

 

 何人かやりそうな人に心当たりがある達也としては、寝起きすぐから長時間部屋を空ける事は避けたいのだ。

 

「ほのかがやりそうだね~」

 

「わ、私はそんなことしませんよ! むしろエリカの方がやるんじゃない?」

 

「あたしは残り香より本物の方が良いもん」

 

「それ、威張って言う事じゃないと思う」

 

 

 雫のツッコミに、エリカは明後日の方を向き、吹けない口笛を吹いて誤魔化した。

 

「でも一番やりそうなのは七草先輩だろうね」

 

「それは分かる」

 

「あの人ならやりかねない」

 

 

 エリカ、雫、ほのかの意見が一致した事に、紗耶香はどう反応すればいいか迷い達也を見たが、達也も似たような事を考えている風な表情をしていたので、恐らく彼女が要注意人物なのだろうと紗耶香も心に刻んだ。

 

「もうじき完成しますので、達也さんたちはリビングで待っていてください」

 

「だってさ。いこ、達也くん」

 

 

 当たり前のように達也の腕を取りリビングへ向かうエリカと、一瞬だけ反応が遅れたがしっかりと反対側の腕を取った紗耶香を見送り、ほのかと雫は料理の仕上げに入ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 共同スペースであるリビングでは、エイミィとスバルが課題を終わらせようと必死な表情で唸っていた。

 

「どうかしたの?」

 

「エリカ、この問題分かる?」

 

「あたしに分かるわけないじゃん。聞くなら達也くんでしょ」

 

「見る前から分からないとかいうなよな……」

 

 

 問題を見る事もしなかったエリカに一応のツッコミを入れてから、達也はエイミィとスバルが悩んでいた箇所の解説を始める。

 

「なるほど~」

 

「さすが達也さんだ。ボクたち一科生でも苦戦するような問題を、こうも簡単に解いてしまうとはな」

 

「達也くんはあたしたちの先生だからね。これくらいは出来て当然よ」

 

「そう言えば達也さんは、七草先輩にも質問されていたんだよね?」

 

「何処で聞いたんですか?」

 

 

 紗耶香の質問に質問で返す達也に、紗耶香は過去の記憶を呼び起こす為に少し時間を要した。

 

「確か……図書室でのやり取りを見た平河先輩が話してるのを聞いたって、千代田さんから聞いたんだと思う」

 

「千代田先輩ですか……あの人なら校内の情報を仕入れていても不思議はないですね」

 

 

 元風紀委員長だという事もあるが、花音ならそう言った校内の噂に詳しくても不思議ではないと達也は判断したようだ。紗耶香たちも同意見なのか、達也の言葉に誰も反論したりはしなかった。

 

「ちょっと分からないことを聞かれただけです」

 

「でも、答えられたんだよね?」

 

「まぁ、あのくらいなら何とか」

 

「一年生が三年生の問題を?」

 

「達也くんなら何でもありだよ、さーや」

 

 

 随分な言われようだが、達也はエリカに視線を向ける事もしなかった。既に何度も言われている事で、その都度ツッコミを入れてきたが、ついにエリカの態度は改善されなかったのだから、達也ももうあきらめているのだろう。

 

「とにかく、これからは分からない問題があれば達也くんに聞けばだいたい解決するから」

 

「テスト期間は心強い家庭教師がついたわけだね」

 

「家庭教師という事は、エイミィはしっかりと料金を払ってくれるんだな?」

 

 

 達也が人が悪い笑みを浮かべながらエイミィに尋ねると、彼女は慌てて首を左右に振った。

 

「達也さんレベルの家庭教師だと、いったい幾らになるか分からないじゃん!?」

 

「そもそも達也くんはそんなみみっちい事をしなくても稼いでるでしょ?」

 

「まぁな。本気に取られるとは思わなかった」

 

「達也さんの冗談は心臓に悪すぎるよ……」

 

「さっきの人が悪い笑みもまた、勘違いを誘発する原因だろうね」

 

「そんなつもりは無かったんだがな」

 

 

 空々しい達也の態度に、エリカとスバルは苦笑い、エイミィはホッとした表情を浮かべる。唯一この流れについて行けなかった紗耶香は、会話が終わったのを受けてホッとしている様子だ。

 

「深雪が何時も自信満々に試験に臨めてる理由が分かるよね、これなら」

 

「司波さんなら普通に上位だと思うけどね」

 

 

 エイミィの言葉に答えた紗耶香に、全員が同意して頷いたのだった。




達也に教われば間違いないですし

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