劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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気がつけば11月……


達也の仕事

 達也と一緒に入浴するだけで満足するはずもなく、達也の身体を洗ったり、自分たちの身体を洗ってもらったりして五人は、満面の笑みで浴室からリビングに戻ってきた。

 

「達也さんの力加減って、どうしてあんなに絶妙なんでしょうか?」

 

「達也くんは人体についても詳しいですし、精霊の眼でどのくらいまでなら我慢出来るかも分かるんじゃないですかね」

 

「そんな便利な機能は無いと思うんですが」

 

 

 響子の冗談とも本気とも取れる言葉に、夕歌が苦笑しながらツッコミを入れる。彼女も達也の力加減は絶妙だと感じているが、さすがにそんなことに精霊の眼を使うとは思えないのだ。

 

「まぁ、真相は兎も角として、達也の力加減は確かに絶妙だったわね。毎日でもお願いしたいくらいよ」

 

「ですが、明日には別の人が越してくるわけですし、初日組は明日は我慢を強いられると思いますわ」

 

「そうですね……明日引っ越してくる人たちは、大抵が達也くんと同い年の子ですし、甘えたいと思っていても仕方ないでしょうね」

 

 

 明日引っ越してくるメンバーの内、紗耶香だけが年上で、残りは同い年であり同じ学校の人間だ。普段から深雪が甘えているのを間近で見ていたため、自分たちのチャンスがあれば思いっきり甘えてくるだろうと響子は思っている。

 

「一ヶ月足らずですが、達也様の側で一緒に学びましたが、確かに学校では司波深雪が達也様のお隣を独占しているように感じましたので、ここに来たら思いっきり甘えると思いますわ」

 

「達也さんの包容力なら、六人増えたくらいどうって事ないは思いますが、さすがにここでは平等を心掛けないと孤立してしまうでしょうしね」

 

「ただでさえ魔法師が集まって危険だと思われているんですし、そんなところで魔法戦争でも始まればどう思われるか分かりませんね」

 

「まぁ、達也さんが何とかしてくれるでしょうけど、なるべくなら達也さんに負担は掛けたくないですしね」

 

 

 夕歌の言葉に、他の四人も頷く。全員、達也なら何とか出来ると思っているのだが、ここでの生活が負担だと感じられてしまったら、深雪がいる今までの家に帰ってしまうのではないかという懸念があるのだ。

 

「ところで、その達也さんは?」

 

「仕事の電話をするといって、部屋に戻りましたわ」

 

「仕事? もしかして軍の仕事か何かですか?」

 

「いえ、そんなことは無いと思うけど」

 

「じゃあ研究所ですかね?」

 

 

 同じ軍属である響子が知らないとなると、恐らくは第三課だろうと決めつける夕歌とは違い、亜夜子は何となく仕事の内容に心当たっていた。

 

「恐らく深雪お姉さまに電話なさっているのではありませんか」

 

「深雪さんに?」

 

「達也さんに会えないストレスから魔法を暴走させてしまっては大変ですので、深雪お姉さまのご機嫌伺いも達也さんの大切なお仕事だと思うのです」

 

「なるほどね……達也さんの封印が解放されたのと同時に、深雪さんも全能力を自分で使う事が出来るわけだものね」

 

「深雪の本気って、どのくらいなの? 私が戦った時も、相当強かったのだけど」

 

 

 リーナが零した疑問に、亜夜子が顎に指をあてながら首を傾げる。彼女も、深雪の本気がどれほどなのか知らないのだ。

 

「少なくとも、ここにいる五人まとめて挑んだとしても勝てないと思いますわ。達也さんが深雪お姉さまの為だけに作った対魔法師用魔法もありますし、それでなくても領域干渉で私たちの魔法など無力化されてしまうでしょうし」

 

「深雪ってそんなに強かったの!? 良く無事だったわね、私……」

 

「リーナさんと戦った時の深雪お姉さまは、一時的に能力を開放された状態でしたから、それなりに苦戦しても仕方なかったと思いますわよ。報告書を読む限り、命のやり取りは厳禁だったらしいですし、それなりに加減していたでしょうけど」

 

「結局達也に止められたせいで、決着はつかなかったけどね……あのままやってれば私は死んでいたかもしれないけど」

 

「それほどなのですか? 同じ十師族の一員として、相手の能力は把握しているつもりでしたが、どうやら私が知っている司波深雪の能力は、今とは比べ物にならないくらい低かったという事ですか……」

 

「深雪お姉さまがお持ちのお力の半分を達也さんの能力の封印に使われていましたから、単純に考えても二倍以上の力、という事になります」

 

 

 愛梨がどれほど深雪の力を正確に把握しているか、亜夜子にそれは分からない。だが少なくとも把握している力の二倍以上の実力にはなっているだろうと確信している。

 

「ということは、達也の能力も二倍以上って事よね? 下手に敵対したら殺されるんじゃないの?」

 

「達也くんならそれくらい簡単だからね……」

 

「まぁ、達也さんの場合『殺す』という表現で良いのか疑問ではありますが」

 

 

 死体すら残らない、人としての死を迎えられない終わり方を、普通に「殺した」と表現して良いのか、響子と亜夜子は首を傾げた。

 

「あんまり物騒な事ばかり話してるのはどうなんだ?」

 

「あっ、達也さん。電話は終わったの?」

 

「えぇ、報告程度ですから」

 

 

 夕歌の問い掛けに、達也は表情一つ変えず答える。ここにいるメンバーが深雪に電話していたという事を理解していると分かっているので、達也は特に深雪の話題をする必要はないと感じたのだろう。

 

「それじゃあ、もう休みますか」

 

「さすがに自分の部屋で寝てくださいね」

 

「分かってますわ。さすがに引っ越し初日に初夜を迎えるのは」

 

「後一年は我慢ですものね」

 

 

 達也が高校を卒業するまで「そういう事」はしないと公言しているので、全員そんなイベントがあるとは思っていない。だからなのか、全員素直に自分の部屋に引っ込んでいったのだった。




殺してはくれないですからね……消されるだけです

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