劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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久しぶりにあの男が……ついでに110話目です


盛り上がる夕食

 新人戦二日目も終了し、一高選手、並びに技術スタッフと作戦スタッフが一同に介して食堂で夕食を摂っていた。上級生にはさほど明暗は見られないが、一年生グループははっきりと明暗に分かれていた。

 明は一年生女子が集まった一角。暗は一年生男子が集まった一角だ。

 新人戦二日目も、達也が担当した選手が圧倒的な力の差を見せ付けて全員が三回戦に進出した。まあ深雪も雫も達也が担当しなくても簡単に三回戦に進出出来ただろうが、二人共達也の力のおかげであると言って聞かないのだ。

 そしてその明の中に一人だけ混じっている男子、周りからハーレム野郎の称号をほしいままにしているのが居る。言うまでも無く達也だ。

 達也は初めコッソリと夕食を済ませてさっさと部屋に逃げ込むつもりだったのだが、深雪とエイミィに捕まり、ほのかと雫に懇願されたのだ。

 非常に居心地が悪そうにしてるのを、少し離れた場所から真由美と摩利が面白そうに眺めているのを、達也は視線の端で捉えていたが、動く事が出来ないので文句も言いにいけなかった。

 

「凄かったよね~深雪のあれ」

 

「インフェルノって言うんでしょ? 先輩たちビックリしてたよ。A級魔法師でもなかなか成功しないのにって」

 

「エイミィも結構決まってたよ。一回戦はハラハラしたけど」

 

「乗馬服にガンアクションが格好良かったよね」

 

「雫もカッコよかった! 振袖素敵だったし相手に手も足も出させず追い詰めていく戦いっぷり、クールだったよ~」

 

 

 ピラーズ・ブレイクの二回戦も危なげなく三人共勝ち進んでおり、三人を褒めるように周りのチームメイトは騒いでいる。

 三回戦の勝者三名で競う決勝リーグを同一校の選手のみで独占という、まさしく快挙の可能性も見えているだけに、浮かれるなち言う方が難しいのかもしれない。

 

「司波君、雫のあれって『共振破壊』のバリエーションだよね?」

 

 

 達也に話しかけてきたのは、達也が担当していない一年生の女子選手。顔と名前は知っていてもそれほど親しい相手では無かった。

 

「正解」

 

 

 付き合いがない分怖がらせないようにと考慮したのか、達也の声は普段よりも柔らかかった。だがその気遣いは喧騒を増幅させるだけだった。

 

「やっぱり司波君が起動式をアレンジしたの?」

 

「雫がスピード・シューティングで使った術式は司波君のオリジナルだったんでしょう?」

 

「インフェルノをプログラムできたのも司波君だったからですよね?」

 

「ほのかの幻惑作戦も司波君が考えたって聞いてるよ」

 

 

 一つ一つに答える暇も無いくらいに、達也に質問が集中している。九校戦前の発足式では異端扱いされていたのに、いざ始まってみたらこの人気っぷり。達也は女子の気の変わりの早さに驚きながらも、苦笑いを浮かべながら質問に答えていく。

 答えているうちに、一人の女子選手がポツリとつぶやいたのを、達也は耳聡く拾っていた。

 

「いいなぁ……私も司波君に担当してもらえれば優勝出来たかも」

 

 

 この発言は簡単に流せるものではなかった。だが達也が注意すると角が立つ為に、達也はアイコンタクトで深雪に任せる事にした。

 

「菜々美、それはちょっと問題発言よ」

 

 

 深雪に柔らかくたしなめられたその女子生徒は、自分の発言が先輩エンジニアに対する批判にも取られると気付き、声に出して慌て始めた。

 

「あわわわわわ」

 

 

 慌てて上級生の中に担当エンジニアの姿を探したが、本人が笑いながら手を振ってるのを見つけてホッとした表情を浮かべ、ピョコンと大きく頭を下げた。

 

「あー焦った」

 

「ナナ、自分の未熟をCADの所為にしちゃだめよ」

 

「えへへ……反省」

 

 

 頭をポリポリと掻きながら菜々美は照れくさそうな表情を浮かべた。その表情が面白かったのか、女子選手たちは揃って笑い声を上げた。

 

「何だよ~」

 

「菜々美の言い分はちょっと行き過ぎかなって思ったけど、でも司波君のおかげで何時も以上の力が出せたのも間違いないし」

 

 

 スピード・シューティングで三位になった滝川がそう言うと、エイミィが大げさに頷いた。

 

「達也さんの実力は深雪から聞いてたけど、でもやっぱりCADの調整ってある意味で自分の内側をさらけ出す訳じゃない? ちょっと抵抗はあったけど達也さんが担当してくれてホントラッキーでした! 達也さんを譲ってくれた男子には感謝だよね」

 

 

 無邪気に勘違いした事を言っているエイミィに、達也は苦笑いを浮かべるしかなかった。だが、苦笑いで済ませられない人も……

 

「おい、森崎?」

 

 

 ワザとらしく椅子を鳴らし立ち上がり食堂から出て行った森崎。その姿を女子は一瞥しただけですぐに興味を失ったのか再び達也に質問をし始めた。

 

「司波君って付き合ってる人とか居るの?」

 

「あっ、それは私も気になるかも」

 

「深雪やほのか、雫も司波君の事を意識してるようだけど、ぶっちゃけ誰が好みなの?」

 

 

 非常に答えにくい……と言うか答えようのない質問が来て、達也の笑みは更に苦味を増していく。一方で深雪とほのかと雫は頬を赤く染めて達也の答えを待っている。

 如何したものかと悩んでいると、向こうから助けが来た……訳では無く更なる問題を投下してきたのだ。

 

「あら? その選択肢には私も入れてもらいたいわね」

 

「会長……面倒事を更に面倒にしないでください」

 

「何ならリンちゃんや摩利も入れてもいいわよ?」

 

「……勘弁してください」

 

「あーちゃんも入れてあげようかしら」

 

 

 火に油をを注ぎまくって楽しんでいる真由美を見て、達也は苦笑いでは済まなくなりため息を吐いた。

 

「そうそう達也君。さっき三高の女子が貴方の事を探してたわよ?」

 

「三高の? 四人組ですか?」

 

「ええそうだけど……ひょっとして知り合い?」

 

「俺よりも会長の方が知ってるとは思いますけど」

 

 

 言うまでも無く愛梨たちなのだから、同じ数字付きである真由美が知っていてもおかしくはないのだ。

 

「あまり一色とは交流無いのよねぇ……それに何だか敵意むき出しだったし」

 

「会長は数字付きの中でも特に目立ちますからね」

 

 

 今回の九校戦には結構な数の数字付き、百家の人間が居るが、その中でもやはり真由美は目立つのだ。容姿でも実力でも……

 

「それで、達也君と彼女たちの関係、お姉さん聞きたいな~」

 

「別に知り合いって訳でも無いんですがね……懇親会の時に少し話しただけですし、恐らくは敵情視察だと思いますよ」

 

「それだけかなぁ……何だか達也君を熱心に探してたから」

 

「対戦相手のエンジニアに興味があったとかじゃないですか?」

 

 

 明らかに苦しい言い訳だと達也も分かってるが、彼女たちの真意が分からない以上余計な事は言えないのだ。

 

「そうかしらねぇ……まあいいわ。お邪魔して悪かったわね」

 

「いえ、どうせもう部屋に戻ろうと思ってましたし」

 

 

 真由美が割り込んでくれたおかげで周りの一年生は大人しくならざるをえなかったので、それに便乗して達也はその一角から離れた。

 さっきの質問には答えなかったので、女子たちは若干つまらなそうにしていたが、その中でも何人かはホッとしていたのに、達也はいやな予感を感じていたのだった……




実際に誰を選ぶのが正解なんでしょうね

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