劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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リーナ役の日笠陽子さん、お誕生日おめでとうございます


一高卒業生たち

 二〇九七年四月六日、土曜日。本日は魔法大学の入学式とあって、周辺には真新しいスーツを着た新入生と思しき姿がちらほらと見受けられた。その中に一人、あまりにもスーツが似合っていない女性がオロオロと辺りを見回しているのを、一人の男性が見つけた。

 

「中条」

 

「あっ、服部くん」

 

 

 第一高校の卒業生である二人にはこうして話しかける事に対する躊躇いは無く、互いに普通に会話を始める。

 

「何を怯えていたんだ?」

 

「別に怯えてないよ。ただちょっと、周りの人が大人っぽく見えただけ」

 

「そうか? 大抵が同い年のはずだが」

 

「だって、私はいろいろと小さいから……」

 

 

 あずさが自虐的な笑みを浮かべると、服部も困ったように視線をあずさから逸らした。するとその視線の先には、遠目でも分かる二人組がやってきたのだった。

 

「やぁ、服部くん。中条さん」

 

「沖縄旅行ぶりだね」

 

「五十里……いや、千代田か。今日くらい大人しく出来んのか、お前は」

 

 

 入学式なのでなるべく目立たない方が良いだろうと考えていた服部だが、いきなり注目の的――というか注目されている二人組に巻き込まれ、盛大にため息を吐いた。

 

「別に目立ってるつもりは無いけど? これだって普通のスーツだし」

 

「服装じゃなくて言動だ! さっきから五十里に抱きついたり腕を組んだり、その……『好き』とか大声で言ったりと……一高じゃないんだぞ、ここは」

 

「まぁ、服部くんのいいたい事も何となく分かるけど、どうせこれからあたしたちの事を知っていくんだったら、最初からこういう関係だって教えてあげた方が良いじゃない?」

 

「なら何故構内に入る前からそんな感じなんだ……関係ない人までお前たちを見ていたぞ」

 

 

 本格的に頭痛を覚えた服部は、無意識の内に頭を押さえながらもう一度ため息を吐いた。

 

「服部くん、大丈夫?」

 

「あぁ、問題はない」

 

「僕が言える立場じゃないけど、本当に大丈夫かい?」

 

 

 頭痛の原因――とも言えなくもない五十里も、心配そうに服部の表情を窺う。服部は押さえていた手を離し、心配ないと軽くその手を振る。

 

「入学式に体調不良? 服部くんって体調管理がなってないのね」

 

「誰のせいだと思ってるんだ」

 

「えー、あたしなの?」

 

「何でそんなに意外そうなんだい?」

 

 

 心底意外そうに驚いた花音に、婚約者である五十里が冷静にツッコミを入れる。その集団にこの人混みでも目立つ男前が近づいてきた。

 

「やぁ服部。五十里も」

 

「沢木か……」

 

「おはよう、沢木君」

 

「中条も千代田も久しぶりだな」

 

「おはようございます、沢木君」

 

「おはよー」

 

 

 挨拶を交わしてすぐ、沢木は服部の体調を心配する。

 

「どうしたんだ服部。こんな日に風邪か?」

 

「いや、ちょっとな……」

 

「とりあえず中に入らないか? こんなところで立ち話をしてると目立ってしょうがないぞ」

 

「あぁ……いや、お前は既に目立ってると思うが」

 

「そうか?」

 

 

 沢木の本性を知らない女子大生たちは、見た目だけで沢木に注目しており、その事に本人である沢木は気づかず、服部は気づいていた。

 

「ところで中条と服部は一緒に来たのか?」

 

「いや、さっきここで会った」

 

「僕たちが来た時には服部くんと中条さんは一緒にいたよ」

 

「ふむ……これだけ仲良さげなのに、何故付き合わないんだ?」

 

「なっ!?」

 

「っ!?」

 

 

 沢木の純粋な質問に、あずさと服部は顔を真っ赤に染め上げる。沢木にからかうという気持ちは無いのだが、言われた二人はからかわれたと思ってしまったのだろうと、第三者である五十里はそんなことを考えていた。

 

「沖縄の時も思ったんだが、服部と中条はお似合いだと思うんだが。なぁ五十里?」

 

「僕たちがどう思おうと、実際に付き合うかどうかは本人の気持ち次第だと思うけどね」

 

「そうか……服部は中条の事が嫌いなのか?」

 

「そ、そういう事じゃないだろ!」

 

 

 沢木の天然炸裂に、服部は思わず大声を上げてしまう。目立つのを避けたかった服部だが、知り合いの所為で十分目立ってしまっていた。

 

「好きか嫌いかで言えば、別に嫌いではない」

 

「ややこしいヤツだな。つまり、好きなんだろ?」

 

「何でそうなるんだ!」

 

「違うのか? 俺は服部の事も中条の事も好きだが。もちろん、五十里や千代田の事も好きだぞ」

 

「お前は……」

 

 

 人としての好き嫌いと、異性としての好き嫌いは違うだろうとツッコミたかったが、ツッコんだところでコイツには無意味かと考えなおし、もう一度だけため息を吐くことで話題を変えることにした。

 

「お前はそういうやつだったよな……ある意味羨ましい性格をしてるな」

 

「そうか? 褒められると悪い気はしないな」

 

「褒めてないと思うんだけど……」

 

 

 漸く復活したあずさがボソッとツッコんだが、当然のように沢木の耳には入っていない。服部に褒められたと思い込んでいる沢木は、実に楽しそうに笑っているのだ。

 

「沢木君って、高校の頃からまったく変わってないよね」

 

「うん、いい意味で少年なんだろうね」

 

「お前ら、沢木の相手を俺一人に押し付けるな」

 

「だって、沢木君は服部くんに話しかけてるんだし、あたしたちが口を挿む事じゃないかなーって」

 

「あはは、僕には沢木君の相手は務まらないし……」

 

 

 最初から服部に任せるつもり全開の花音と、手伝いたいけど出来ないと申し訳なさげな五十里のコメントに、服部は再び頭痛を覚えたのだった。




あっ、ということは昨日自分の誕生日だ……また知らぬ間に歳を重ねてるし……

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