劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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そう考えるために話したわけですしね……


導き出された考え

 何とか気持ちを落ち着かせることに成功した深雪は、緊張した面持ちを作ってヴィジホンの前に移動する。もちろん、達也を前にして、自分は達也の斜め後ろに立ち真夜に挨拶をする。

 

『こんな時間にゴメンなさいね』

 

「まだそれほど遅い時間ではありませんので。それで、本日はどのようなご用件でしょうか、母上」

 

 

 真夜と達也が挨拶を交わしてる間、深雪は一切口を挿む事無く直立の姿勢で見守っていた。

 

『深雪さんも、お休みのところ申し訳ありませんでした』

 

「いえ、叔母様。休んでいたといっても、部屋で何をしようか考えていただけですので」

 

『なら良かったわ』

 

 

 深雪が本気で休んでいたわけないと分かっているのだろうが、真夜はそんなことを窺わせない笑みで頷き、次の瞬間には険しい表情を作っていた。

 

『早速本題に入らせていただきますが、先ほど新ソビエト連邦黒海基地のレオニード・コンドラチェンコの許をイーゴリ・アンドレビッチ・ベゾブラゾフが尋ねたという情報を入手しました』

 

「レオニード・コンドラチェンコとイーゴリ・アンドレビッチ・ベゾブラゾフとは、ロシア政府が公表している戦略級魔法師の名前ですよね? その二人が密会したという事でしょうか?」

 

『正式な訪問のようですから、密会という表現は当てはまらないでしょうが、会話の内容は一切公表されていないようですね』

 

「私的な用件、というわけではありませんよね……いったいどのような用件だったのでしょうか」

 

「新ソ連軍と言えば、魔法師と非魔法師との関係が日に日に悪化しているとの噂を耳にしたのですが、その点は確認出来ないのでしょうか」

 

『軍は認めないでしょうからね。関係悪化は確かにあるのでしょうけど、表向きは良好な関係を築いているといっているのだから』

 

 

 達也と真夜の会話を聞いた深雪は、先ほど部屋で考えていた内容がそのまま展開されている気がして、思わず息を呑んでしまった。

 

『深雪さん、どうかしたのかしら?』

 

「い、いえ……」

 

『そう? それで達也さん、憶測で構わないのだけど、レオニード・コンドラチェンコとイーゴリ・アンドレビッチ・ベゾブラゾフが何を話していたか、何か意見はありませんか?』

 

「先日の『シンクロライナー・フュージョン』についての話し合いか、軍内部の対立をどうにか出来ないかの話し合いではないかと」

 

『USNAで起きている反乱の可能性は無いのかしら?』

 

「それは母上がUSNA軍に草を放っているから仕入れられた情報ですよね。ロシア政府が同じように草を放っているなら別ですが、そう簡単にUSNA軍に忍び込めるとは思えません」

 

『そうね。じゃあ、達也さんはその二つの可能性の内、どっちの確率が高いと思っているのかしら?』

 

「そうですね……五分五分だとは思いますが」

 

『深雪さんは? どっちだと思うかしら?』

 

 

 急に話を振られて、深雪は心臓を掴まれたような錯覚に陥り、一瞬真夜の前であることを忘れて跳び上がりそうになり、すぐに誤魔化した。

 

「私は軍内部の対立をどうにかしたいのではないかと思います」

 

『何故、そう思ったのかしら?』

 

「何処の国も、魔法師と非魔法師との対立をどうにかしなければと頭を悩ませている中、軍の人間と防衛大臣と同等の発言権を持つといわれている学者が、他国の戦略級魔法師の話をわざわざ基地に赴いてするとは思えません。余程人に聞かれたくない事を話し合っていたのではないかと思いました」

 

『その聞かれたくない内容って?』

 

 

 さらに問いかけられ、深雪はさっき考え付いてしまった事を正直に話す事にした。

 

「軍内部は魔法師だけでも、非魔法師だけでも成立しません。その事を理解させる為には実戦に出て互いに必要だと思わせる事が一番です。ですが、ヨーロッパ諸国は現在、軍を動かす余裕がないと達也様から伺いました。ということは、何処か別の国に軍を派遣出来ないだろうか、そのような相談が行われたのではないかと考えました」

 

『なるほどね……それじゃあ深雪さん。もし軍を派遣するとしたら、何処の国になると思いますか?』

 

「そこまでは……」

 

『達也さんはどう考えます?』

 

「深雪が考えている事が事実だとすれば、日本の可能性が高いでしょうね」

 

「日本、ですか?」

 

 

 何故日本なのか、深雪は達也の考えが理解出来ずに首を傾げ、上目遣いで問いかける。

 

「この間の集団脱走事件の事がロシア政府側にも知られてしまったのだろう。日本軍と大亜連合軍は表面上は和解した形になっている。その事で緊張感が緩んでいると考えたとするなら――」

 

「自国の兵を損なうことなく、魔法師と非魔法師の連携強化が出来る、というわけですか……」

 

『なるほどね。その線で探りを入れてみましょう。達也さん、深雪さんもわざわざありがとうね』

 

「いえ、俺たちにも無関係ではなさそうな話題でしたので」

 

『本当なら無関係でいさせてあげたいんだけど、そうもいかなさそうなのよね……もしもの時はまた、達也さんの力を借りる事になると思ういますので』

 

「分かりました」

 

 

 真夜と達也が別れの挨拶をしている横では、深雪が怒りに震えていた。その事に真夜も達也も気づいてはいるが、今は下手に刺激しない方が良いだろうと放置しているのだった。

 

『では、今度は直接会いにいらっしゃいね』

 

「沖縄での報告もありますので、近いうちに」

 

『深雪さんも、お疲れさまでした』

 

 

 そう言い残して、真夜は通信を切った。達也も深雪の頭を軽く撫でただけで部屋に戻り、リビングには深雪だけが残されたのだった。




何食わぬ顔で深雪のこたえを受け入れる二人……それで気づくだろ……

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