劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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映画の公開日ですね


物騒な三人組

 リビングで亜夜子がマスコミ嫌いを発揮しているのと時を同じくして、キッチンでは深雪と真由美が静かに火花を散らしていた。

 

「深雪さんがアンジェリーナさんと泉美ちゃんに教えるのよね?」

 

「泉美ちゃんは兎も角、何故私がリーナを担当しなければいけないのですか? 七草先輩こそ、香澄ちゃんとリーナを担当すれば良いじゃないですか」

 

「あの、深雪様……教える側が五人なのですから、アンジェリーナ様に二人つけるというのは如何でしょうか?」

 

「水波ちゃん、それでもリーナは上達しないと思うわよ」

 

「本人を目の前に酷い言い草ね……」

 

 

 はっきりと言い切った深雪に、リーナは不満げな表情を浮かべたが、自分の料理の腕がこの中でも最もひどいと自覚しているので、あまり強くは言えなかった。

 

「では司波深雪と真由美さんでこの方を担当すればいいのではありませんか? 残りの三人は私たちでまとめて面倒みますので」

 

「私は深雪先輩に教わりたいのですが」

 

「泉美、どうやらあの人は相当酷いみたいだし、ここは司波会長とお姉ちゃんに任せた方が良いと思うよ」

 

「私より酷いって本当なの?」

 

「前に一度だけ見たことがあるけど、消し炭なんて生易しい物じゃなかったわね。あれは暗黒物質と呼べるレベルだったわ」

 

 

 深雪がしみじみと呟くと、教わる側の人間もリーナから数歩距離を取った。

 

「そ、そこまで言わなくても良いじゃない! ワタシだって頑張ったのよ!」

 

「結果の伴わない努力は努力してないのと一緒よ!」

 

「確かに……深雪さんの言う通りかもしれないわね」

 

「ちょっと、マユミまで!?」

 

 

 深雪のキツイ一言に、真由美が共感したようで、努力しても無駄なら教える必要は無いのではないかと考え始めた。

 

「だいたい失敗してもタツヤが何とかしてくれるわよ!」

 

「えっ、司波先輩って暗黒物質を食べても大丈夫なのですか?」

 

 

 このメンバーで唯一達也の得意としている魔法を知らない泉美は、そのように勘違いしたが、他のメンバーは彼の得意魔法である『再成』を使うのだろうと、リーナが意図した通りに受け取った。

 

「そんなことに達也様を巻き込まないでもらいたいのだけども」

 

「さすがに達也くんも呆れるんじゃないかしら」

 

「そもそも、達也様に負担がかかり過ぎるのではありませんか?」

 

「私も、達也さんに処理させるのは可哀想だと思います」

 

「よってたかって酷いわね……」

 

「とりあえず、アンジェリーナ様は深雪様と七草様が担当する、という事でよろしいのでしょうか?」

 

「仕方ないわね……達也様に余計な負担をかけないためにも、私がリーナをしっかりと監視しておかなければいけないようだし」

 

「達也くんの為になるのなら、私も別にいいわよ」

 

 

 不承不承な感じは否めなかったが、深雪も真由美もリーナを担当する事を承諾した。泉美は少し不満そうではあったが、決定した事を蒸し返して面倒だと思われたくなかったのか、大人しくその決定に従ったのだった。

 

「それじゃあ、私たちはあっちで指導するから、深雪たちはこっちを使ってね」

 

「ほのか、やっぱりこの別荘に来たことがあるのね」

 

「まぁ、雫とは長いからね」

 

 

 北山家が保有する別荘にキッチンが一つだけだとは思っていなかったが、まさか本当に二つ以上あるとは深雪も思っていなかった。だがほのかが別のキッチンに移動するのを見て、ある意味納得してしまったのだった。

 

「さて、七草先輩」

 

「なにかしら、深雪さん?」

 

「私は一度見たことがあるので大丈夫ですが、先輩はリーナが作りだしたものを見ても大丈夫ですか?」

 

「そこまでのものなの?」

 

「そ、そこまで酷くないわよ!」

 

 

 リーナの反論に、深雪は冷ややかな目を向ける。昔から料理をしてきた人間として、リーナの『それ』を料理と言うのも嫌なのだろうと、真由美はそのやり取りだけでリーナの料理の腕をなんとなく把握した。

 

「一応覚悟だけはしておくわ。そんなものを達也くんに出すわけにはいかないしね」

 

「達也様に不要な魔法を使っていただくわけにもいきませんしね。泉美ちゃんは知らないわけですし」

 

「まぁ、タツヤの魔法はおいそれと人前で使うわけにはいかないものね」

 

「アンジェリーナさんは婚約する前から知っていたようだけど、何処で見たのかしら?」

 

「顧傑を追いかけていた時、タツヤのバイクが真っ二つになってしまったのよ。その時にタツヤが『再成』するのを見たのよ。あの時は驚き過ぎて言葉が出なかったわね……」

 

「『再成』も凄いけど、もう一つの方がもっと凄いわよ……うっかり覗き見したのを後悔するくらいにね」

 

「二人とも、お喋りしている暇があるなら、早いところ準備を始めてください」

 

「深雪さんが話題を振っておいて、そんなこと言うの!?」

 

 

 既に準備を済ませた深雪を見て、リーナと真由美は不満げに呟き、それでも急ぐべきだと判断して彼女の言う通り早いところ準備に取り掛かった。

 

「リーナが多少なりとも上達すれば、達也様は私を褒めてくださるでしょうし」

 

「何でミユキなのよ! そこは上達したワタシでしょ!」

 

「壊滅的な料理下手なリーナが多少なりとも上達すれば、それは私の指導力の賜物だと思うのだけど?」

 

「深雪さんもアンジェリーナさんも相変わらずね……とりあえず始めましょうか」

 

 

 今度は真由美に促されて、深雪とリーナはお互い不満げな表情を浮かべながらも調理を開始するのだった。




早く円盤にならないかなー……

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