劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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この人数は深雪も引くだろうな……


大集団

 最終確認の為に今日も生徒会メンバーは登校しなければならなかった。別に誰もそれを苦だとは思わないのだが、今日だけはちょっと雰囲気が違った。

 

「お久しぶりです、愛梨さん」

 

「泉美さんも香澄さんもお変わりないようで」

 

「雫嬢も久しぶりだの」

 

「私はたまたま見回りのローテだっただけ」

 

「……達也様、この人の多さはいったい」

 

「俺に聞かれても困る」

 

 

 現生徒会メンバーは、会長の深雪と書記長の達也、後はほのかと泉美と水波の五人なのだが、今生徒会室には倍以上の人間が集まっていた。

 

「雫と香澄ちゃんはまだ分かりますが、何故三高の皆さんと亜夜子ちゃん、更には七草先輩までいらっしゃるのですか!」

 

「我々はなんだかおもしろそうな空気を感じ取っただけです」

 

「私は泉美ちゃんに誘われて、今日のお料理教室に参加する為よ」

 

「私はご挨拶に伺っただけです。ですが、深雪お姉さまにお料理を教えていただけるのでしたらと、そのままここにお邪魔した次第ですわ」

 

「泉美ちゃん、どれだけ噂を流してるのかしら?」

 

 

 深雪に笑顔を向けられたというのに、泉美はあまりうれしい思いはしなかった。普段の邪気の無い笑みとは違い、百パーセント裏を感じさせる笑みでは、さすがの泉美も興奮出来なかったのだ。

 

「私はお姉さまにしか話していませんわ!」

 

「愛梨さんたちには私が教えてあげたの。彼女たちも達也くんと一緒にいられる時間が欲しいだろうし」

 

「私はその話を偶々耳にしただけですわ」

 

「何だか面白そうだね。せっかくなら、ウチの別荘を使う?」

 

 

 さすがにこの人数だと一般家庭のキッチンでは厳しいと感じたのか、雫が善意から提案する。深雪としてはこんな人数では開催出来ないという理由で中止にしたかったのだが、雫の申し出の所為でその理由が使えなくなってしまったので、複雑な気持ちで雫のお礼を告げる。

 

「ありがとう、雫。さすがにウチでは出来ないものね」

 

「気にしなくていいよ。私たちは達也さんとお喋りしてるから、思う存分泉美たちに料理の手ほどきをしてあげると良いよ」

 

「今日はほのかにも手伝ってもらおうと思ってたのだけど」

 

「それなら、私だけ達也さんとお喋りしてるから」

 

 

 雫は特に料理の手ほどきを受けたいとは思っていないようで、場所だけ提供して後は達也とお喋りする事が自分の中で決定しているようで、深雪が何を言ってもそれを譲るつもりは無さそうだった。

 

「それじゃあ、最終確認を済ませたら雫の家の別荘でお料理教室を開催します」

 

「深雪、なんだかやけくそな感じがする」

 

「ここまで大人数になるとは思ってなかったからね……」

 

 

 雫の何気ない言葉に、深雪は盛大にため息を吐きながら答えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最終の打ち合わせも済み、ゾロゾロと生徒会室から校門まで向かう途中、部活のミーティングで学校にやって来てたエイミィとエリカと鉢合わせた。

 

「これは何の集団?」

 

「これからウチの別荘で料理教室を開くことになって、その参加者と講師、それと達也さんって集団」

 

「なにそれ、面白そう! あたしも参加して良い?」

 

「エリカなら問題ないわよ」

 

「まぁ、あたしも教わるほど下手ではないけどね」

 

 

 ケラケラと笑うエリカの隣で、エイミィが真剣な表情を浮かべていた。

 

「私も参加したい! もっと上手になって、少しくらい取り柄を増やしたい」

 

「エイミィの取り柄って笑顔だけだもんね」

 

「それ以外にもあるよ!」

 

 

 エリカの茶々に本気で怒ったエイミィを見て、このノリを理解していない愛梨たちは困った表情を浮かべる。

 

「達也様、あの人たちは仲がよろしいのですよね?」

 

「あぁ。友達だから容赦なく言えるって感じだろ」

 

「愛梨と栞みたいな関係かの?」

 

「近いかと思います」

 

「私と愛梨はあんな感じにはならないけど」

 

 

 栞が無表情のまま抗議するが、沓子と香蓮はまともに取り合おうとはしない。こっちも独特な空気感があるようだなと、達也は四人のやり取りを黙って聞いていた。

 

「そもそもお姉さまは参加する意味があるのですか? 司波先輩の家に行かなくなった以上、お姉さまは大人しくお帰りになられたら如何でしょう」

 

「せっかく久しぶりに達也くんと一緒にいられるのに、大人しく帰るわけないじゃないの!」

 

「それ、威張っていう事じゃないと思うんだけど」

 

「先輩たちはご自宅で出来るのではありませんか? 先輩が講師で泉美ちゃんと香澄ちゃんに教えて差し上げれば解決だと思いますが」

 

「私は深雪先輩に教えていただきたいのです!」

 

「私だって! 達也くんに手料理を食べてもらえるかもって聞いたから参加したのよ!」

 

 

 深雪と真由美が真っ向から対立しているような感じになる中、雫は我関せずな態度で達也に話しかける。

 

「達也さんってやっぱりモテるんだね」

 

「モテ過ぎる気がするけどな……もうちょっと少数の方が私もチャンスが増えるのに……」

 

「それを本人の前で言うのもどうかと思うが」

 

 

 雫とほのかに軽くツッコミを入れて、達也は集団を改めて見渡し、男が自分一人しかいないことにため息を吐いた。

 

「これ以上は増えないだろうな」

 

「達也さまの魅力を以ってすれば、まだまだ増えるかもしれませんね」

 

「あんまり不吉な事は言うな」

 

 

 水波の率直な感想にもう一度ため息を吐いてから、達也たちは一高最寄り駅までの道のりを進むのだった。




意外と冷静な水波……

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