暗麺麭男   作:ゆうれい

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#4  By living the present

パァン!

 

暗がりの森の広場にて銃声が鳴り響く。

それは、《トム》の銃により、ヤギ先生が処刑された音だった。

その最後の姿を住民が涙を浮かべ見送る。

次は自分の番かもしれない。

皆、一様に恐怖があるようだが、声には出さない。

何故なら、この『死の宴(デスゲーム)』で誰一人、犠牲者が出ないなんてことはないと理解していたからだ。

何故なら、ただ、参加者に期待するだけの自分たちより、参加者の方が辛いなんてことは、分かりきっていることだから。

故に祈る。ただ参加者の無事を。これ以上、犠牲者がでないようにと。

 

「ヒャハハハ!すげぇ!すげぇ!アイツ『殺戮人形(トークン)』を三体も持っていきがった!」

「最後の最後にって感じでヤンしたね!」

「Japanese KMIKAZE ATACK!!」

 

《ニンゲン》達は未だ興奮が冷めない様子だった。

『殺戮人形(トークン)』との圧倒的な能力差があるにも関わらず、片方の足をなくしたら

もう片方で。両方失えば、その腕で。最後は両手、両足をなくした状態で噛み付き攻撃を行い計三体もの『殺戮人形(トークン)』を破壊してみせた。

これは、快挙といってもいいだろう。

鬼気迫る。その言葉が似合う壮絶な戦闘であった。

しかし、『殺戮人形(トークン)』は残り97体もいるのだ。

参加者にとって、絶望的であることには変わらない。

 

 

 

 

《死の宴(デスゲーム)》が始まってから、ちょうど24時間が経とうとしていた。

時刻はとっくに昼を迎えているいるはずなのに、

暗がりの森は薄暗く不気味なほどの静寂に包まれている。

そこに、すすり泣く女の声が微かに響く。

《死の宴(デスゲーム)》の参加者の紅一点、メロンパンナだ。

彼女の衣服は泥にまみれ、体には、木の枝などで切ったのであろう所々擦り傷がついている。

 

「なんで・・・?どうして・・・・。」

 

彼女は呟く。

何故?どうしてこうなっちゃったんだろう?

自分は《ヤマダ》に、《ニンゲン》に選ばれし者のはず。

何故なら、《ヤマダ》は、自分に優しく口づけをしてくれた。

熱い一夜を共にしてくれた、己を可愛がってくれた。

メロンパンナは己の体温が上がってるくるのを感じ、自らの秘所に手を伸ばし己を慰める。

 

「もう・・・・ヤダ・・。死にたいよぉ・・」

 

彼女とて、このフード世界のヒーローだ。

今が、住民、そして自分の生死を掛けた状況であることは理解している。

しかし、《ヤマダ》との事を思い出すと、どうしようもなく体が火照るのだ。

そして、それが《ヤマダ》の力によって作られた偽りの恋心であるということも

理解していた。

自己嫌悪に涙を流すが、それでも自分の中から溢れ出す劣情に秘所を貪る手をとめることはできなかった。

 

【異性への魅了(ニコポ・ナデポ)】

《ヤマダ》が彼女に使用したスキルは、異性に触れることで発動する。

そして使用者である《ヤマダ》が異性へ行動することにより大きく分けて3段階の効果が発揮する。

1段階目は、使用者に触れること。

対象の異性は使用者である《ヤマダ》の事が気になり出す。好感度が少し上昇する。

2段階目、使用者である《ヤマダ》と口づけを交わす。

好感度が大幅に上昇し、もはや何をされても嫌悪を抱くことはない。

3段階目、体を重ねる。

まはや、使用者なしでは生きてはいけない程に、依存してしまう。

 

故にだろう。彼女は迫り来る死神達の足音に気がつかない。

そして、彼女が最初の絶頂を迎えようとしていたときだった。

 

「え・・?あ・・・」

 

ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!

『殺戮人形(トークン)』の群れが彼女の甘い熱に反応し、もう目と鼻の先まで迫っていた。

彼女は呆然とする。先ほどまで泣きながら死にたいと呟いていた彼女であったが、いざ

その死の具現化とも言える物体を目の前にすると恐怖で体が震えていた。

 

「いやああああああああ!」

 

ガチガチガチと奥歯を鳴らす。

嫌だ。死にたくない。

彼女の中の生存本能が警鐘をならすが。体は思うように動かない。

先ほどまで火照っていた体は、極寒の冷気に覆われているようだった。

そして、『殺戮人形(トークン)』の一体が彼女に向けて腕を振りかぶる。

 

──ああ・・

──私はここで死んでしまうんだ。でも、それもいいかもしれない。

──《ヤマダ》様に拒絶されてしまったし、これ以上の生き恥をかくくらいなら・・

 

彼女は生きることに諦めをつけ、目を瞑る。

「どうせ、殺すのなら痛くしないでね」

そう心の中で呟きながら。

 

「カレービュー!!!!」

 

しかし、自らに降りかかるであろう衝撃は、勇ましい男の声と共に森の中に広がる、

スパイシーな香りにより中断された。

彼女は恐る恐る目をあける。

そこには、黄色のマントを覆い、

導かれるであろう死への運命と対峙する、一人のヒーローがいた。

 

「こっちだ!!」

 

顔面をカレーまみれにして蹲る『殺戮人形(トークン)』に蹴りを入れ、

吹き飛ばすとすぐにカレーパンマンはメロンパンナの手を取り走り出した。

メロンパンナはその余りにも素早いカレーパンマンの行動に一瞬身じろぎしながらも

握られたその手を握り返した。

 

 

 

「なるほど・・・確かにカレーパンマンのカレービューには熱が伴っていたな。」

 

暗闇の中で、1体の『殺戮人形(トークン)』に山のように群がる『殺戮人形(トークン)』を冷静に、見つめる傍観者がいた。

彼の名は暗麺麭男。どこまでも生に貪欲に成り果てた『強いものの味方』だ。

そう。彼は先ほど、メロンパンナが襲われた光景の一部始終を目撃していたが、自らの命を危険に晒すような真似はしたくなかった為、静観するという姿勢をとっていた。

 

「(しかし・・)」

 

暗麺麭男は黙考する。

『殺戮人形(トークン)』は熱に反応する。

そしてカレーパンマンの『カレービュー』は熱を持っている。

仮に、『殺戮人形(トークン)』たちに囲まれても、先ほどメロンパンナを救ったように『カレービュー』で敵のターゲットをずらしてしまえば切り抜けられることができる。まさに、彼の能力は、この『死の宴《デスゲーム》』を生き残るための鍵とも言える能力であろう。

 

「(カレーパンマンか・・)」

 

参加者を決める話し合いのときには、アホかと思った。

何故、根拠もないのに堂々と生き残れるなんていえるのだ?と。

メロンパンナを助けたときも、アホかと思った。

何故、自らの命の危険を犯してまでこんなビッチを助ける必要があるのだ?と。

そして、暗麺麭男は一つ結論づける。

そうか。やつはアホなのだ。だから、後先のことを考えずに行動する。

根拠のない事を平然と宣言できる。

それが同時に羨ましくもあった。

以前の自分を見ているようで。《ニンゲン》のその強大な力を見ても変わらずにいる彼が

少しだけ、そうほんの少しだけ羨ましかった。

暗麺麭男は、変わってしまった己と、変わらない彼を比べ自嘲するかのように一瞬だけ笑みを浮かべると、すぐに思考を戻す。

 

「(彼奴等を上手く利用すれば・・・この詰んだと思われたゲームで生を勝ち取れるかもしれない。)」

 

一件、固まって動くということは、敵に発見される可能性が高くなるがカレーパンマンの

カレービューを上手く利用して逃げれば、一人で逃げ続けるよりも高い確率で生きのこれるかもしれない。それにいざとなれば、奴らを囮にして自分だけ逃げるということもできる。

いくら、カレーパンマンが命を預かる者が、姉のように慕うバタコさんであってもやはり自分の命の方が大事だ。

自分は、どんな事をしてでも、生き延びて、

少しでも《ニンゲン》の思考に近づかねばならない。

彼らと同等の存在にならなければならない。彼らと・・・。彼らと・・・。

暗麺麭男はそこまで考えるとカレーパンマン達と接近するためにその場を離れた。

 

 

「ハァハァ・・・ここまでくれば暫くは大丈夫だろう。」

 

どれくらい走っただろうか?

メロンパンナの手を握り、走り出したカレーパンマンがその足を止め、肩で息をしながら

メロンパンナに話しかけた。

 

「なんで・・?」

「え?」

「なんで、助けたの・・・?私は死にたかったのッ!」

 

違うだろう?

メロンパンナは自分に問いただす。

本当はそんなことを言いたいわけじゃないだろう?

助けてくれてありがとう。

本当はそう言いたかった。しかし、《ヤマダ》に捨てられたことや、その切なさを自慰行為により解消し、挙げ句の果てにはそのときに生じた熱を『殺戮人形(トークン)』に感知され

殺されそうになった。

惨めだ。自分でも情けなくなるほど恐ろしく惨めだ。

そのことから、彼女はどうしても素直にありがとうと言うことができなかった。

自分ではわかっている。

やってることは八つ当たりだということを。

 

「笑いなさいよッ・・!馬鹿な女だって・・・!」

 

そこまで言うとメロンパンナは泣き崩れ、地面に突っ伏した。

それに、ただただ黙って聞いていたカレーパンマンは口を開く。

 

「これ・・」

 

手渡されたのは、三日月。

そう、それは、ジャムおじさんが作ったフード世界のヒーロー達の心臓ともいえる《コア》

と呼ばれるものだった。

そして、その三日月のコアが指し示すのは食パンマン。

 

「これを、ドキンちゃんに渡してくれないか?」

 

その言葉にメロンパンナは理解する。

ああ、カレーパンマンは私に生きる理由を与えてくれるのだと。

私は死にたいと言った。

本当はそんな勇気少しもなかった癖に。

『殺戮人形(トークン)』に囲まれたとき、死の恐怖を感じた癖に。

何も聞かずに、何も言わず、ただこのゲームに生き残り、自らに命を預けるドキンちゃんに

それを渡すという使命を、それまでは絶対に死ねないという理由を与えてくれた。

《ヤマダ》に捨てられて、生きる希望を失ったが、それでも死ぬのが怖かった彼女のとって

それはとても嬉しいことだった。

メロンパンナは流れ出る涙を拭うことも忘れ、その《コア》を受け取ると、己の中に誓う。

 

「生きてやる。これを、ドキンちゃんに届けるまでは絶対に」

 

 

ドキンちゃん。彼女は食パンマンに恋をしていた。

食パンマンが、《ニンゲン》に殺されたのを聞いて、復讐に特攻するほどに。

今では、その対象が《ヤマダ》に移ってしまったが、それでも、食パンマンに恋をしたという思い出を忘れて欲しくはない。

好きになるという感情を。そしてそれを無くしてしまうという悲しみを。

それは、《ニンゲン》との様な偽りの恋ではなかったはずだ。

正真正銘の恋心だったはずなのだ。

絶対に生き残ってやる。

彼女は再度、自分の中でそう呟き、立ち上がり空を見上げた。

辺はすっかり日が暮れて、空には三日月が微笑んでいた。

 

 

「ぐぅうぅぅ・・かまめしどん・・・」

「・・・」

 

《死の宴(デスゲーム)》2日目の夜。かまめしどんの遺体の前には、

てんどんまんと、かつどんまんが、長年、親しくした友との別れを惜しんでいた。

彼とは、悪友であり、それでいて親友でもあって、好敵でもあった。

二人はその亡骸を手厚く暗がりの森の地中に埋め、墓石がわりにかまめしどんのかけた蓋と

かまめしどんが葬ったであろう『殺戮人形(トークン)』の残骸を突き刺し手を添える。

無骨でありながらも仕方なし。今は殺し合いのサバイバル中なのだから。

すまないと二人は心の中で謝罪し手を添える。

 

「かまめしどん、お前がこの地に生きていたこと、お前の勇気は絶対に忘れないざんす」

「ああ・・本当なら今すぐにでも仇をとりたいっすが・・」

 

どんぶりまんトリオは根っからの戦士である。

炎のように強い拳を武器に戦う釜飯空手のかまめしどん

風のように速い蹴りを武器に戦うカツ丼蹴術のかつどんまん。

水のように変幻自在な剣技で戦う天丼剣術のてんどんまん。

その誰もが誇り高き心と共に生きてきた。今すぐにでも友である、

かまめしどんの仇討ちにでたい。しかし、その相手が多くの『殺戮人形(トークン)』であると同時に、自分たちは、住人の命をも預かっている。1体だけでも非常に強力な『殺戮人形(トークン)』を2人で相手する。それは無謀とも言え、十中八九生きては戻れないであろう。そうなれば自分に命をかけたものさえ死なしてしまう。

自らの私情に住民の命をかける訳にはいかなかった。

 

「悔しい・・!悔しいざんす!!!」

「ああ・・でも、それでも自分たちは生き延びなければならないっす・・」

「ざんすが・・・!」

「わかってるっす。自分も同じ気持ちっす。でもどうにもならないっすよ。今は他の生存者を探すっすよ。皆の命を預かった身、散らす訳にはいかないっす」

 

思い浮かべるは、アンパンマン、カレーパンマン、メロンパンナ。

皆、実力は自分たちより上の強者たちではあるが、相手は『殺戮人形(トークン)』

何が起こるかわからない。

彼等は他のヒーローを探し行動を共にし助け合ってあと2日絶対に生き延びてやると決心し名残おしそうに、かまめしどんの墓から移動したのだった。

 

 

 

 

 

 


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