暗麺麭男   作:ゆうれい

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 【Anpanman's Prelude】
#1  What was I born for ?


「クソッタレが・・!!!!!」

 

頭を吹き飛ばされて無残に横たわるカレーパンマンを見ながら大きく毒づく。

 

俺達が住む『フード世界』に《ニンゲン》という3人の悪魔がやってきて1ヶ月、

『フード世界』の本来の住人の多くがその悪魔達によって殺され、残りはその悪魔に奴隷にされている。

 

そういえば、自己紹介がまだだったな。俺の名前は『暗麺麭男(アンパンマン)』。

《ニンゲン》が来るまでは、この惑星のパトロールやら何やらをして

正義の味方なんて物をやってたが、

奴等の前では、そんな物ブタのエサにでもくれてやった方が、まだ建設的ってもんだ。

《ニンゲン》がやってきたその日に、行われた虐殺を知れば、誰だってそう思うだろう。

 

 

―最初の犠牲者はジャムおじさんだった

 

 

思い出したくもねぇ・・・

ちょうど、一ヶ月前のことだ。

いつもの様にパトロールをしていると、カバオの糞野郎が川で溺れてるとの報告が入る。

 

「ったく・・!カナヅチなんだから川で泳いでんじゃねーよ。体を濡らさるこっちの身にもなれってんだよな!」

 

内心そう思うが、それでも俺は彼を救助する為に空を飛ぶスピードを上げる。

何故なら俺は『アンパンマン』。正義の味方だからだ。

 

 

 

「ゴホッ・・・。助かったよ!アンパンマン!」

 

わかったから濡れた体のまま、俺の顔にふれるんじゃねぇ。くそが!

ふやけて力が出なくなったらどうしてくれんだ!!?

 

「ねぇ・・・。カバオ君。君は何故カバなのに泳げないんだい?」

「うーん・・僕にもわからないや!それより僕お腹すいちゃったよ!!」

 

ああ、コイツ、カバじゃなくてバカなんだ。

 

体を濡らされたことに対する怒りで、ほんの少しの嫌味を言うつもりだったが

カバオから帰ってきた言葉は、俺の意図などとは全く関係ない言葉だった。

 

 

「ハァ・・・君はそればっかりだね。ほら僕の顔をお食べ」

「えー。今のアンパンマンの顔、ふやけてフニャフニャじゃないか」

 

この糞野郎!こんな顔にしたのはテメェが溺れて水びたしになったからだろうが!

マジでコイツ振り落としてやろうか?

 

頭の中で物騒なことを思いつくが、もちろんそんな事はしない。

何故なら俺は『アンパンマン』。正義の味方だからだ。

 

 

 

「うん。この辺りでおろしてよ。助けてくれてありがとう!アンパンマン!」

 

カバオを街の広場まで送り届けると、パトロールを再開する。

すると、急遽パン工場から連絡が入る。

 

 

『アンパンマン!?今どこにいるの?街の学校の方で高エネルギー反応がみられたわ!

できるだけ速く向かって!私たちもすぐアンパンマン号で現場に向かうから!!』

 

声の主はバタコさん。

俺らが作られた工場の主「ジャムおじさん」の、孫とか、愛人だとか、色んな噂があるが

毎日、顔をあわす俺からすれば、姉の様な存在だ。

 

「わかりました!すぐ向かいます!」

 

どうせ、バイキンマン辺りが暴れてるんだろう。

毎度、毎度こりねーな。あのアホは。

 

心底うんざりしながらも、バタコさんに指定された学校まで飛ぶ。

何故なら俺は『アンパンマン』。正義の味方だからだ。

 

 

 

 

 

バタコさんに指定された学校に到着する。

学校の広場には、この学校の生徒達が硬そうな金属でできた鎖に縛られ、すすり泣いていた。

その、生徒の何れもが絶望に打ちひしがれ暗い顔をしている。

 

「待ってろ!今助けてやるぞ!」

 

広場に敵らしき影は見えない。

十中八苦、罠であろう。

でも、どこかおかしい。

いつものバイキンマンなら罠なんざ仕掛けずにもっと真正面から向かってくるだろうに

最近になって知恵でもつけ始めたか?

 

「おーい!みんなー!助けにきたよー!!」

「わーい!アンパンマンが助けにきてくれたぞー!」

「やったー!」

 

生徒達の顔に光が戻るのを感じた。

すぐに、生徒達の所に降り立ち、縛られている鎖を引きちぎろうと力を込める。

 

しかし――――

 

 

「千切れない!?」

 

そう全力で力を入れてるのにも関わらず、その鎖はびくともしない。

カバオのせいで、顔がふやけてるのも原因の一つであろうが、如何せん、この鎖は頑丈すぎる。

嫌な予感がする・・

そう思った刹那――――

 

 

 

轟音と共に体を襲う衝撃で俺の体は宙に舞う。

 

「ヒャハハハ!!!この世界には面白い生物がたくさんいるな!!!」

「そうでヤンスね!旦那!!」

「Hello. My name is TOM. Nice to meet you」

 

学校内から三人の武装した捕食者が姿を現した。

 

馬鹿笑いを続けるのは、銀髪のオッドアイで美形の男。

今まで見たことないような禍々しいオーラを放つ紺色の外套を纏っている。

 

ヤンス口調が特徴の、黒髪の身長の低い男。

しかし、その低い身長からは余りにも不格好な巨大な漆黒の斧を軽々と担ぎ、全身を鎧に覆われている。

 

最後に意味不明な言語を発しているのは、筋骨隆々でスキンヘッドの大男

その手に持っているのは銃だろうか?フード世界にはない、近代的な兵器を持ち、

かけているサングラスと身に纏う防弾チョッキが恐怖を誘う。

 

「ぐっ・・!君達は誰なんだ!?」

「ヒャハハハ!!俺達は《ニンゲン》様よ!しかも廃人に分類されるな!」

「そうでヤンスね!旦那!」

「This is a Pen.」

「《ニンゲン》だって!?なんの目的でこんな事をするんだ!?」

「ヒャハハハ!目的だって!?そんなもんレベル上げにきまってんだろうが!」

「そうでヤンスね!旦那!」

「I like apple hahaha.」

 

その三名の捕食者は俺らを見て下卑た笑みを浮かべる。

 

レベル上げ?それが何を意味するのかは俺にはわからない。

しかし、彼等が浮かべるその行動の一つ一つに明確な殺意が感じられた。

 

ならば――――

 

立ち向かわない訳にはいかない。

何故なら俺は『アンパンマン』。正義の味方だからだ。

 

 

「そのレベル上げってものが、何なのかはわからないけど、生徒達を解放しないのなら、

 僕は君達と戦わねばならない!」

 

「ヒャハハハ!コイツ、俺達とやりあうらしーぜ!俺が相手してもいいか?」

「おっ!《ヤマダ》の旦那の剣技が見れるでヤンスか!」

「ヒャハハハ!まぁこんな雑魚相手に全力なんか出す必要もないだろうが、

 ちょいとばっかし、《ニンゲン》様の力って奴を味合わせてやるか!来い!毒霧神殺剣(カビキラー)!!」

 

《ヤマダ》と呼ばれた銀髪の男が右手を天高く翳す。

すると、虚空から禍々しくも美しいと形容される青い剣が現れて、《ヤマダ》の右手に握られた。

 

「ヒャハハハ!それじゃ覚悟はいいか?」

「来い!ワルモノ!!」

「ヒャハハハ!ワルモノか!ちげぇーねぇな!!!」

 

身構え、地を蹴る。

目標は銀髪の《ニンゲン》。

我が身が繰り出すは、今まで数々のワルモノ(大概はバイキンマン)を屠ってきた最強の拳『アンパンチ』だ。

俺の最強である一撃が《ヤマダ》の不快な笑みを浮かべる横っ面に炸裂する・・・

 

 

 

 

 

 

――――はずだった

 

《ヤマダ》は少し、ほんの少し、剣を振っただけであった。

すると《ヤマダ》が『毒霧神殺剣(カビキラー)』と呼んだ禍々しい剣の切っ先から青い霧の斬撃が噴出する。

それは俺の拳が《ヤマダ》の横っ面を叩く前に、俺の顔面に直撃する。

 

アンパンマンに9999のダメージ!

 

頭の中で無機質な音声が響くと同時に俺の目の前が真っ白になる。

《ヤマダ》が放った青い霧の斬撃で、頭部の大半を失い、ゆっくりと自分が地に伏すのを感じる。

 

「アンパンマン!新しい顔よー!!!」

 

ヒーローは遅れてやってくる。

《フード世界》の住人のヒーローが『アンパンマン』である俺だとしたら、

俺の中でのヒーローは、俺の生みの親である『ジャムおじさん』と、姉のように慕う『バタコさん』だ。

この二人がいなければ、俺はとっくの昔にくたばっていただろう。

土俵は違えど、俺がピンチの時、必ず『新しい顔』を持って駆けつけてくれる。

彼らが駆けつけてきてくれるという安心感が、俺を『フード世界』の正義の味方『アンパンマン』、

無敵のヒーローに導いてくれるのだ。

 

「勇気凛々!パワー全開!アンパンマン!!」

 

バタコさんが投げた『新しい顔』が、俺の首に寸分の狂いもなく装着される。

相も変わらずいい腕だ。バタコさん。

体の中から新たなパワーが沸いてくるのを感じる。

さて、少しばかり反撃するか・・・

 

アンパンマンに9999のダメージ!

 

「ヒャハハハ!まさか《再生(リヴァイブ)》のスキルを持ってるとはな!」

 

一瞬、自分の身に何がおこったのか、わからなかった。

《ヤマダ》がした事は至ってシンプル。先ほどのように軽く剣を振っただけだ。

 

通常、『新しい顔』をつけた俺は以前」より、スピードもパワーも圧倒的に向上する。

その肉体から繰り出される《アンパンチ》は、先ほどの《アンパンチ》とは比べ物にならない。

正に必中必滅となるのだ。

 

しかし、現状はどうだ?

俺の拳は敵に当たるどころか、身構える前に『新しい顔』を潰されていた。

地に伏す前に、半分潰された顔で周囲を見渡す。

鎖に囚われた生徒達の顔は絶望に染まり、バタコさんとジャムおじさんは何が起こったのか

理解できないという様な表情をしていた。

 

何故みんなそんな顔をしているんだ?

俺は、そんな顔を見るためにうまれてきたのか?

違う!それは断じて違う・・・!

俺は皆の笑顔・・・皆の夢を守るために生まれてきたのだ。

例え、敵がどんなに理不尽で、強くとも諦める訳にはいかない。

何故なら俺は『アンパンマン』正義の味方だからだ。

 

「ジャムおじさん!ストックを!」

 

体が完全に機能停止する前に最後の力を振りしぼり叫ぶ。

ジャムおじさんは、ハッとして『アンパンマン号』から『新しい顔』を取り出し、俺に投げる。

 

「勇気凛々!パワー全開!アンパンマン!」

 

アンパンマンに9999のダメージ!

 

「勇気凛々!パワー全開!アンパンマン!」

 

アンパンマンに9999のダメージ!

 

「勇気凛々!パワー全開!アンパンマン!」

 

アンパンマンに9999のダメージ!

アンパンマンに9999のダメージ!

アンパンマンに9999のダメージ!

アンパンマンに9999のダメージ!

 

俺は何度、殺されたのだろうか?

『アンパンマン号』にある『新しい顔』のストックが尽きかけてるのは、

ジャムおじさんや、バタコさんの表情を見れば容易に判断できる。

しかし、俺は《ヤマダ》の『毒霧神殺剣(カビキラー)』の突破口を見出させずにいた。

 

「ヒャハハハ!雑魚がいくら復活しようが雑魚は雑魚なんだよ!!ただ、いい加減飽きてきたな!」

「そうでヤンスね!旦那!」

「Ummmmm・・・」

「ヒャハハハ!どれ、そろそろ終わらしてやるか!『十字の形の高級鎖(クロム・ハーツ)』」

 

《ヤマダ》が右手に持ってる剣を天高く翳す。

すると、虚空より生徒達を縛っている鎖が出現し、俺とジャムおじさん、そしてバタコさんの体を縛りあげた。

 

「ヒャハハハ!こう何度も『再生(リヴァイブ)』されちゃ面倒だからな!まずはそこの白ヒゲを殺す!」

「おっ、いいでヤンスね!旦那、その白ヒゲはアッシがやっても?」

「ヒャハハハ!おう!いいぞ!《タナカ》!もしかしたらレアスキル持ってるかもな!」

「んじゃ、失礼しますでヤンス!」

 

《タナカ》と呼ばれた男がそう言い、巨大な斧を持ち鎖で身動きのとれないジャムおじさんの前に立つ。

 

「待ってくれ!僕はどうなってもいいから他の皆には手を出さないでくれ!」

 

『十字の形の高級鎖(クロム・ハーツ)』で縛り上げられながら俺は力の限り叫ぶ。

 

そうだ。俺の体はジャムおじさんがいれば、いくらでも代わりが聞く。

単に、暴力行為がしたいだけなら、どれだけ自分を嬲ってくれても構わない。

それで、皆の夢を守れるのなら・・・・

 

「ヒャハハハ!泣かせるねー泣かせるねー!なんという自己犠牲の精神!」

「そうでヤンスね!旦那!」

「Wow!japanies HARAKIRI !!」

「ヒャハハハ!だが!断るゥーーー!殺れ!《タナカ》!」

「アンパ・・・・!」

 

ジャムおじさんが俺に言葉を言い切る前に《タナカ》の斧はジャムおじさんの首を刎ねた。

ジャムおじさんの首をなくした胴体からは鮮血が飛び散る。

 

「キャアアアアアアアアア!!!!!!」

 

一瞬の静寂の後、周りは悲鳴を上げパニックを起こす。中には失神する者までいた。

 

 

俺の中にある感情が沸いてくる。

 

 

許さない

よくも・・・・よくも・・・・ジャムおじさんを

 

―――それは怒り

 

 

コロシテヤル

ゼッタイニコロシテヤル

 

―――そして殺意だった

 

 

「うおおおおおおおおおおお!!!!」

 

体の中から新たなパワーが沸いてくると、

己の身を縛る鎖を引きちぎり、

目の前の悪魔に踊りかかる。

 

 

しかし、

 

 

『アンパンマンに9999のダメージ!』

 

俺の拳が悪魔に届く事はなかった。

 

「ヒャハハハ!《戦闘狂化(バーサク)》のスキルも持ってやがったか!」

 

何故だ?

何故勝てない?

俺は正義の味方のはずなのに・・・

いや、俺が正義の味方なら、ジャムおじさんは死なずにすんだ筈だ。

なら・・・俺は・・正義とは・・・なんなんだ?

 

 

「おっ!《ヤマダ》の旦那!さっきの白ヒゲ、《調理(クック)》と《作成(メイク)》のスキルもってたでヤンス!」

「ヒャハハハ!マジか!得したなぁ!」

 

悪魔が楽しそうに嗤う。

 

何故?

何故、奴等は笑ってられるんだ?

何故、あんなに酷いことをして笑ってられるんだ?

何故何故何故何故。

 

そして俺は気付く。

 

 

 

―――ああ、そうか

 

――――――これが正義か

 

 

《ニンゲン》は強い。

奴等の前では俺の振りかざす正義など、何の役にも立たない。

強い者こそ正義。弱いものはワルモノだ。

ならば俺は前に進もう。今までの正義など金繰り捨てて。

そう俺は『暗麺麭男』。強い者(セイギ)の味方なのだから。

 

 


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