『Relation』非公開チャットルームより
風拳:初めましてANAMさん
ANAM:初めまして風拳さん
風拳:VELさんの紹介できたんですが
ANAM:VELさんですか!!
風拳:護身術を学びたいと言う事でしたね
ANAM:ん~基本的な枠組みは出来ているので
ANAM:一回プロの人に見てもらいたいって言うのが大きいですね
ANAM:そういえばVELさんが人に頼むって珍しい気がします
風拳:そうですね。私も連絡を貰った時は驚きましたから
ANAM:今度お礼言っておかないとですね
あの頃の彼女は、あまりにも純粋で素直で。そして危険でした。
・貴方はここで得た情報を貴方の良心に従って使ってください。
このルールを追加したのは、私と会った後だそうです。
この話を受けたのが私でなければ、彼女は危険な立場に立たされていたかもしれません。私が彼女に出会うきっかけを、与えてくれたヴェルデには感謝をしています。
……だからこそ思うのです。
『
「赤いおしゃぶりのアルコバレーノ、風様ですね」
黒いスーツを着た男性が私にそう話しかけてきました。
「そうですが、私に何か用ですか?」
「ヴェルデの使いで来ました」
(ヴェルデ……?)
「これを見て頂きたい」
そう言ってスーツの男性はパソコンを開く。
「久しぶりだな風」
画面には同じアルコバレーノのヴェルデが映っていました。
「そうですね。貴方とは初めて会ったあの時以来でしょうか?」
「今日は頼みがあって連絡をさせてもらっている」
ヴェルデは他のアルコバレーノと関わろうとしないのに。
「頼みですか?珍しいですね」
他人へ借りを作るのは彼の信条に反している気がしますが。
「私の知り合いが護身術を学びたいらしいのだ」
「……はい?」
私は耳を疑いました。
その言葉は、余りにもその男に似合わなかったのです。
「私の「いえ、そう言うことではなくてですね」」
「……君はアルコバレーノの中でも武術の達人だからな、出来るだろう?」
「一体相手は誰なんです?」
「先に言っておく……アレ自身は
「?」
(それは一体、どういう事なのでしょう)
「アレは裏の事を一切知らない。私は裏の存在をアレに知られたくないのだよ。そして裏の連中が目をつけるのを避けたい。そう言う点において、君は信用ができるからな」
(信用していただくのは嬉しいですが……)
「連絡方法はこちらで用意した。このパソコンを使うといい。人工知能が入っていて音声操作が出来るようになっている」
そう言うと、スーツの男がマイクの付いたヘッドフォンを自分に差し出す。
「これを設計したのが、今回君に頼みたい人だ」
(……それはすごい事なのでしょうか?)
科学・機械方面に弱い私には良く分かりません。
「どうして貴方はその方にそれほど目をかけるのです?」
「……会えば分かるさ」
そう言って彼は優しく笑いました。こんな彼の顔、はじめて見ましたね。
「貴方がそこまで言うのならその話、受けましょう」
(そろそろ時間ですね……)
ANAMは、きちんと私を見つけることが出来るでしょうか……。そんな風に不安になりながら、烏龍茶を飲んでいました。
カランカラン
(えらいですね。おつかいでしょうか?)
リュックサックを背負った10歳位の少女が入ってきました。顔を動かして店内を見ている少女は、誰かを探している様です。そして店内を見る少女と私の目が合いました。
私を見た少女は一瞬だけ驚いた顔をして、真直ぐこちらへ向かってきます。
「初めまして、風拳さんですね?ANAMです。今回はご指導のほどよろしくお願いします」
私の前へ来ると丁寧にお辞儀をします。
「あ、貴方がANAMさんですか?」
ついそう聞き返してしまいました。
「はい!」
そう言って彼女はパソコンを取り出した。そこには確かにあのチャットのページが出ていて、発言者名のところにANAMと書かれていた。
本当にただの一般人、それもこんなに幼い少女だったなんて。
「風拳さんはVELさんと同じで赤ん坊さんなんですね」
「はい。
彼に直接会ったことがあるんですね。
「ご丁寧にありがとうございます。沢田真奈です」
「真奈さんですか、良い名前です」
「ありがとうございます」
そう言って真奈さんはニッコリと笑いました。
「そういえば、外泊にすると言いましたが大丈夫でしょうか?」
「はい。親から許可は貰ったので。あ…でも、大丈夫かな?私小学生で風さん赤ん坊だし……」
「その点に関しては大丈夫です。ヴェルデが用意してくれたので」
「風さんはヴェルデさんとリアルで会った事あるんですか?」
「はい。回数は少ないですがね」
「そうなんですか。と言っても私も直接は一度しか会った事はありませんけどね」
その一回がすごいと思いますよ、私は。
……ヴェルデは彼女に甘いのでしょうか?
「うっわー!!すごぉい!!」
年頃の子供らしく、嬉しそうにはしゃぐ彼女の後。その光景を見た私は、変な緊張で生温い汗をかいていました。
なんとヴェルデが用意していたのは豪華客船の一室だったのです。
「私でもこんなに豪華な外泊は初めてです」
「私もです!!」
「ヴェルデさん、こんな高そうな所を用意して良かったんでしょうか?」
「おそらく彼なら大丈夫でしょう」
彼はアルコバレーノで一番の科学者ですから、発明品を売ればなんて事は無いでしょう。
「そうなんですか?ヴェルデさんは凄いんですね!!けど、私だけこんな贅沢して少し家族に悪い気がしちゃいます」
そう言って笑う真奈さん。……心根が良く、とてもお優しい方。確かにあのヴェルデが、目をかけるのも分かります。
しかし
私が本当に驚くことになるのは、護身術の指導に着いてからでした。
中国に着いた私達は、真奈さんの護身術を見せていただいく為に開けた荒野へと行きました。出来る限り真奈さんを人に知られたくないという、ヴェルデの要望もあって人気の無い場所です。
とはいえ自分は
(……これを全くの独学で?)
「こんな感じです。どうでしょうか?」
彼女の動きは私と同じ位…いえ、それ以上に繊細なコントロールで成り立っている。私とは逆の究極の『柔』と言えます。
「……風さん?」
「……あぁ、すみません。私から言える事は、もう少し重心の移動に気を使った方が良いと思いますよ」
(本当にそれ位しか思いつきません。私も精進しなければ)
「はいっ!!」
彼女がもう一度練習を開始しようとすると。
「武道の達人、風殿とお見受けします!!」
私は、気が付いていて彼をここへ来させました。
(コレは……)
「すみません……」
そういって困った顔をする彼女の前には、彼女より遥かに大きい男が横たわっています。乱入して来た彼は、私に弟子入りを申し込んできました。彼女の技術を実戦で試す為、試験と称して試合をさせたのですが……。
(彼には彼女が動いたことすら気がつけなかったのでは?)
試合開始後、ほぼ一瞬で決着が着きました。
ヴェルデもここまでとは予想していなかったと思います。私に真奈さんの指導を頼んだのは結果的に正解だったのです。彼女のスピードについていける武道家など、世界に2・3人も居ないでしょう。
いわく、つぼの様なものを突いて動けなくしたそうです。
一応説明はしていただいたのですが、私にすら全く理解できませんでした……。
「そういえば、『
「あれは……本当の非常用です」
彼女は子供らしく無い表情で、ただ苦笑いをしました。
……会ってから初めて、彼女のこのような顔を見た気がします。
「試しに私に使ってみてはくださいませんか?興味がありますので」
「え!?あっ、あれは本当にダメなんです!色々と危ないので!!」
顔を真っ赤にして両手をブンブン振っています。
「金縛りの様な物なのでしょう?それならすでに解く方を編み出しているので大丈夫です」
「金縛りとは原理が全く違いますよ。と言うかむしろアレは精神的な負担のほうが……」
「精神的?」
「あれは訓練、鍛錬より『慣れ』ですね……」
本当に気まずそうに遠くを見ます。……そんな反応をされてしまうと何だか抵抗したくなります。
(様々な想定をし、鍛錬を怠らなければ何事にも対応できるのです!!)
「大丈夫です。私を信じてください」
私は胸を張って言います。
「……本当に大丈夫ですか?」
「本当に大丈夫です」
『…………』
長い沈黙の後、真奈さんはとうとう折れました。
「条件があります」
「5秒です」
(?)
「5秒以内に風さんが解くことが出来なかったら私が勝手に解きます」
「いいでしょう。その挑戦、たしかにお受けしました」
「一応、一番弱いのにしますね」
私はまだ、彼女の才能を量りきれて居ませんでした。そして、彼女が凄く素直で
「……っ―――――!!」
私の前には困った顔をして覗き込んでいる彼女が居ました。
「だ…大丈夫ですか?」
「はぁ…はぁ…はぁ……」
その後私が立てるようになったのは20分後でした。
「やっぱり風さんはすごいですね。私の時より断然早い」
と彼女は言っていましたが、これはあまりにも危険です。決して、使用方法をサイトに公開しない事を約束させました。
たとえ、彼女以外に再現出来る人が居なかったとしても。
「ありがとうございました!!」
そう言って真奈さんは礼儀正しく頭を下げた後、家へと帰っていきました。
正直に言いましょう。武道だけなら負ける事はありませんが、アレを使われたら私に勝ち目は無いでしょう。
彼女はアレを『破滅の言葉』と名付けました。
「ただいま、お母さん!!」
(破滅ですか、全く彼女には似合わない言葉ですが……)
「……どうだった」
画面には一人の赤ん坊が映っていた。ヴェルデです。
「あなたが目をかける理由は分かりました」
明るく、優しい。その輝きは裏に生きる人間には無いものです。
私にはまぶしいとすら感じます。
「彼女は私に匹敵する。いえ、凌駕する『力』の持ち主でした」
「何!!?」
やっぱり、そんなつもりは無かったのですね。
ただ純粋に彼女が自分の身を守れれば、と思っていたのでしょう。
「だけど力は過程に出来た副産物でしか無い、と言っていました」
滅びの言葉も、究極の『柔』も過程。なら、彼女は何を目指しているのか。帰りのフェリーで聞いた所、真奈さんは満面の笑みで答えました。
「人を理解したいんです。そうすれば、もっとこうやって誰かと一緒に笑えるんじゃないかと思って」
「彼女を
こうして、ANAMの存在隠蔽にまた一人、最強の赤ん坊が加わった。
さあ投稿しようと原稿見直したら修正が……。
風やヴェルデの視点は完全な私のこんなんだろうな、と言う予想で成り立っています。
ここのヴェルデさんはけっこう優しい。