月日は流れ、3月・・・
「それじゃあ言ってくるぜ。」
横で桜が咲き始めた駅のホームで、武藤はこの日のために集まった親友たちにそう言った。横には高島がいた。
見学から帰った後、武藤は青道に行くことをみんなに言うと皆喜んでいた。その後、青道に受かるためしっかりと勉強をする傍ら流星に入学することが決まった二村と一緒に練習をし、力を付けてきた。そして無事内定が決まり、卒業式が終わった後東京に行くことになったので、皆は俺を送るため集まってくれた(二村は俺よりも先に神奈川へと旅立った)。
「あぁ、頑張れよ!」
明王を代表して佐伯がそう言った。他の皆も頷いた。佐伯はあの後、粘り強い交渉の結果私立に通わせてくれる事になったらしく、男泣きをしていたとか。
「頑張って来いよ翔也。」
「あぁ、お前も頑張れよ!雄二。」
もう一人、愛知の名門の中商大付属高校に入学することが決まった少年野球時代のチームメイト、
「あぁ、皆ありがとう。」
武藤は感謝の気持ちを言った。電車もちょうど来て、別れの瞬間が訪れた。
「またもう一回・・・皆でやろうぜ・・・約束だ!」
武藤は電車に乗り、佐伯達に対して泣きながらそう言った。
「あぁ・・・約束だ!」
佐伯が涙をこらえながらもそう言った。
泣けば良いのに・・・ばーか。
武藤は一人そう思った・・・
そして扉が閉まり、電車が動き出した。
ホームのぎりぎりまで追いかけ、手を振る皆に武藤は泣きながら手を振り返す。
そして、それぞれの思いを胸に新たなステージへと駆け上がるのだった・・・・
青道高校 青心寮前
「さて、これから高校生活が始まるわね。」
新幹線などで乗り継ぎ、夕方に青道高校に着いた後、高島が武藤に言ってきた。
「えぇ、正直わくわくしています。」
武藤はこれからを考え、胸からこみあげてくるものを抑えられずそう言った。
これから3年間、全国から集まった球児と戦うと思うとわくわくが止まらないのだ。
「くすっ。物静かだと思ったら熱い気持ちを持っているのね。」
「いえ、こういうモンですよ俺は。」
高島の発言に武藤は胸を張ってそう言った。
「ふふっ・・・それと見学時に言った言葉忘れてないよね?」
「忘れるわけ無いですよ。明日見ていてくださいね。」
「くすっ。わかったわ。なら今日は寮の部屋の確認をして明日に備えてね。」
「分かりました!」
そう言い武藤は高島と別れ寮の部屋へと向かった。
「さて、俺の部屋は・・・あった!」
武藤は高島と別れた後、広い寮から自分の部屋を苦労して見つけた。
『伊佐敷 純』『小湊 亮介』『武藤 翔也』
「ここが俺の部屋・・・・よし!」
気持ち新たに武藤は寮の部屋の扉を開けた。
ヌ~ン
「・・・・・・」
「・・・・・・(にやり)」
扉を開けた瞬間、頭から血を流した人が武藤を見てにやりと笑った。
「うおおおおおおお!!!???」
武藤は驚きのあまり腰を抜かし、地面に座ってしまった。
「おらぁ!!どうだぁああ!!!!おどろいたかぁあああ!!」
武藤を驚かした人が大声を上げてそう言った。
「・・・・・」
武藤はというと声を上げることが出来ずにポカーンとしていた。
「うるさい純。」
びしっ!!
「いてっ!!」
すると、後ろから出てきたオレンジの髪の人が叫んだ人にチョップをした。チョップをされた人はその場でうずくまってしまった。
「ようこそ青道高校へ。僕は
「あ、ありがとうございます・・・」
オレンジの髪にニコニコ笑顔を絶やさない目の前の人、小湊がそう言って武藤を立ち上がらせるのを手伝ってくれた。
「ビックリしましたよ~あれが歓迎会なんですか?」
「おう!去年も俺たちやられてな!今年はやってやろうと思ってたんだよ!」
寮に入った後、事情を聞いて納得した武藤は伊佐敷から先ほどの話を聞き、驚いていた。
「くす。去年純もやられてたからね。今年はと意気込んでたんだよ。」
「おい!それを言うんじゃねぇ!」
すると小湊がそう言ったので伊佐敷はそれが言われたくなかったのか怒鳴り散らしていた。
「おもしろいっすねwwwww」
「おい翔也!笑うんじゃねぇ!」
「いでででででで!!!いたいいたい!!」
伊佐敷は武藤の首をつかんできたので痛みのあまり武藤は叫ぶ。
「純、それ以上叫ぶとまた怒られるよ。」
「ちっ!それもそうだな。」
「いててて・・・・」
そう言い伊佐敷は武藤の首を離した。
(それにしても凄い握力だ。流石強豪校の選手だ。)
首を抑えながら武藤はあまりの痛みにそんな事を思っていた。
「皆さんって同級生なんですか?」
武藤は思ったことを聞いてみた。伊佐敷の風貌が3年生らしいのに身長から2年生っぽい小湊と親しそうに話しているからだ。
「うん。僕と純は同級生で2年生だよ。」
「えっ!?純さんって2年生だったんですか!?」
武藤はまさかの伊佐敷は小湊と同じ2年生という亮介の発言に驚いた。
「んだとぉぉぉぉぉ!!!!」
武藤の反応が気に食わなかったのか、再び武藤の首をつかみ始めた。
「わああ!!!すみませんすみません!!!」
「くす!おもしろいね・・・・」
再び伊佐敷に首をつかまれあまりの痛さに叫ぶ武藤だったが、こういう生活も悪くないと思っている自分もいた。
そしてその後は消灯時間ちょうどに部屋も明かりを消し、武藤も寝たのであった。
早朝 5時
「ふわあああ・・・よしっ!!」
朝早く、いつも通りに武藤は起きた、ふと横を見ると他の先輩もちょうど起きたようだった。
「おはようございます・・・」
武藤は目をこすりながら二人に挨拶をした。
「おお!?早いな。」
伊佐敷は早く起きた武藤に驚いたようだった。
「くすっ。早く起きることは良いけどスタミナは大丈夫なの?今日から練習一緒にやるんだよ。」
亮介は表情を崩さず笑いながらそう言った。
「いえ、スタミナには自信があるので大丈夫です。年末にやっていた町内マラソンとかに出てますし。」
武藤は先輩たちに対してそう答える。
武藤は小さい頃から父に「スタミナと足腰は投手にとっては大事だから走って走って走りまくれ!」と言われ、町内のマラソンに良く出場していてとにかく走っていたのでスタミナと下半身には自信があるのだ。
と言うか武藤は中学のときは7回では正直投げ足りないと思っていたとか。
「まじか・・・おまえやるな!」
「マラソンに出るくらいってそれじゃあスタミナバカだよ?」
二人は武藤に若干驚きながらもそう言った。
「ははは・・・今日は新入生の集合があるんですよね?」
武藤は今後の日程を先輩に聞いた。昨日高島から聞いていたので一応確認のためと思い聞いた。
「ああ、そうだが始まるにはまだ早いぞ?」
伊佐敷が武藤の問いに答える。
今の時間は5時。確かに高島からも集合は6時半と聞いていたため、1時間半の空き時間がある。
「そうだね。これから僕たちは練習だけど君はどうするの?」
「う~ん。ちょっとここら辺でいいランニングコースってありますか?」
亮介の問いに、武藤は朝の日課であるランニングに適したコースが無いか聞いてみた。
「う~ん。ちと分からん。哲がここら辺走っているから分かると思うがな。」
「哲?」
哲と言う聞きなれない名前が出てきたので武藤は聞いた。
「あぁ、俺と同級生だけどそいつは家から通っているから今は聞けん。」
武藤の質問に対して、伊佐敷はそう言った。
「くすっ、そう言うことだから今日はやめといたら?」
亮介は武藤に今日は止めるよう言ってきた。けど武藤はやはり何か体を動かしたかった。
「それならシャドウしてきます。」
武藤はランニングを諦めシャドウピッチングをすることにした。
「おーやって来い!なら俺達は先に行くわ。」
「じゃあ後でね。」
「はい!それじゃ!」
2人は練習着に着替えて、先に部屋を出て行った。
武藤も練習着に着替えた後、タオルを持って部屋を出た。
ヒュン!ヒュン!ヒュン!
「198・・・199・・・」
あれから30分くらい経っているがいまだにタオルから繰り出される鋭い音が寮の前でこだましていた。
ヒュン!ヒュン!ヒュン!
「お~音するなと思ったらお前か!翔也。」
「お、御幸か。ふう~」
音が100を過ぎたあたりで御幸が起きたのか声をかけてきた。
「見学以来だな。」
「ははっ!そうだな。しっかし、今のシャドウの音凄かったな。」
「そうか?これが普通だろ。」
「はぁ~?あんな音出さんよ。流石名門中の投手だな。」
「そうかな・・・」
武藤は御幸とそんな会話を2人でしていた。
1時間後、グラウンドにて
「ほぉ~流石名門なだけあって人数多いな。」
漸く集合時間になり、2人は指定された場所へと集合した。その時に軽く50人は超える人数の多さに武藤は驚きの声を上げた。
「はは。これからこいつらと一緒に戦うんだ。」
「だな・・・あっ、きた。」
2人で話していると、見学時に話したサングラスをかけた監督片岡と小太りの部長と副部長である高島が来た。
「これで全員か?」
「はい。新入生・在校生全員揃いました。」
キャプテンである、
「それでは新入生の自己紹介をしてもらおうか・・・一番左のお前から。」
監督がそう言うと指名された一番左の人が一呼吸をした。
「はい!埼玉県の埼玉東シニア出身の
指名された、後ろ髪が来るんと軽く巻いている黒髪の少年川上は自己紹介を終えると周りから拍手が起こった。
「よし。次。」
監督がそう言うと次の人が自己紹介をし始めた。
「次。」
そしてとうとう御幸の番になった。次は武藤の番だ。
「はい。東京都江戸川シニア出身の御幸一也です。ポジションは捕手です。肩と打撃には自信がありますのでよろしくお願いします。」
御幸がそう言うと周りからどよめきの声が上がった。
『おい!御幸ってあのリトルシニア界№1捕手の!?』
『うわぁ、マジかよ・・・これは3年間補欠だな。』
御幸の紹介にそんな声が飛び交った。
「流石だな御幸は。」
「やめてくれよ。次はお前だろ?」
「だな。」
武藤と御幸はどよめく声の中そんな会話をしていた。
「静かに!つぎ。」
いよいよ武藤の番になった。
「ふぅ・・・」
緊張を解くように、武藤は一呼吸おいてから言い始めた。
「はい。愛知県明王中からやって来た武藤翔也です。ポジションは投手です。まだまだ未熟なところもありますがよろしくお願いします!」
武藤はそう言い自己紹介を終えた。
『えっ!?明王の武藤って!!』
『あのレジェンド!?』
『故障したと聞いたけど・・・戻ってきたのか。』
『すごいな・・・あのレジェンドと一緒の高校に入れるなんて。』
武藤が言い終えた後、主に軟式出の球児たちがどよめいた。それほど明王・武藤は有名なのだ。
「ひゃは・・・あれがレジェンドね(故障したと聞いたが・・・そこはどうなのかな?)。」
新入生の下の列では同じく軟式出の
「あれがレジェンド・・・シニアでも名前が聞いたけどあの人が・・・わからないことはガンガン教えてもらおう・・・」
最初に自己紹介をした川上も倉持と同じようなことを言っていた。
「(ふん・・・)静かに!よし、つぎ。」
片岡も少し笑みを浮かべながらそう言い、自己紹介が再開した。
「自己紹介は終わったな?新入生はこれから3年間チームのために一生懸命頑張り、そして自分の手でレギュラーをつかんでくれ。俺は実力でメンバーを決めていくから1年生でも上手いやつがいれば俺は積極的に使っていく。分かったな・・・」
『はい!!』
自己紹介を終えた後、片岡がそう言うと新入生が大きな声で返事をした。
「1年生でもチャンスがあるってか・・・よし!しっかりとアピールしていくぞ!」
「だな。少しでもチャンスがあるならしっかりと自分が出来ることをしていこう。」
御幸がそう言うと武藤も同じようなことを言った。
「これから練習に入る。新入生は先輩と一緒にランニングをした後、練習を見学し、午後からポジション別のテストに入る。分かったな。」
『はい!』
監督の言葉に対し、また新入生が返事をする。
「これから練習を開始する。」
片岡がそう言うと、先輩たちが準備をし始めたので下級生たちもそれに見習い準備をし始めた。
こうして高校での三年間が始まった。